表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/100

70

 「ルカさん?」

 「って、誰?」

 ―――私が最初にいた職場。つまり警視庁にあるトクハン東京支部署。

   そこの現ハンチョウで、私の元部下。奥山おくやま ルカ。

 ただ、声を聞く限り、宮地とは年齢がさほど離れていない印象を持つ。

 「彼女も宮地さんと同じ、妖怪?」

 「ええ。元オコジョ」

 「オコジョ!?」

 「妖怪の系統を引き継ぐ動物は、ごまんといるからね。そう珍しくないわよ。

  現に河白族って妖術使いのオコジョの一族の出身だからね。ルカさんは」

 無線内で、宮地と奥山の会話が聞こえてくる。

 ―――何しに来たの?

 ―――ちょいとばかしお届け物と、ささやかな応援。

   大変そうじゃない?話は聞いているわ。こっちのお届け物を、ダイレクトにビアンカに運ぶわ。

 ―――運ぶって・・・今どこよ。

 ―――やっと琵琶湖に差し掛かったとこ。

 あやめと大介。2人同時にその言葉の意味を知った。

 東の空から、3つの影が飛んでくる。上に1つ、下に2つ。トライアングルの状態で。それも、ささごいより静かに。

 やっと爆音が聞こえてきたが、それでも音は少ない。

 「あれが、応援?」

 「下の2機がUH-60Tで、音が小さいとなると、上の1機は、東京と愛知の部署にだけ所属する、特殊ヘリコプターね。間違いなく警視庁の応援よ」

 「特殊ヘリ?」

 「三菱重工製 MH2000を改造したMH2000T捜査員輸送偵察ヘリ。

  UH-60Tにも劣らないスピードと馬力。それを打ち消すほど発達した低騒音飛行。これを武器にしたトクハンの誇るマシーンよ。

  その中でも“かげろう”は、東京支部に配置された機体」


 姿をあらわにした“かげろう”。青いボディのそれは、県警に配備されているヘリより、ややずんぐりとした形で、晴天の空を切り裂いた。

 「こちらは警視庁特殊犯罪対策係、奥山ルカ警部補。これより援護に入る」

 窓から湖面を見下ろす大きな黒い瞳。白い肌に長い脚が印象的な若い女性には、どこか幼さが残る。

 奥山ルカは瞬時に、状況を把握した。

 「あれがミシガンで、ビアンカ・・・敵の船舶は・・・分かった」

 すぐさま無線を引っ張る。

 「1番機はミシガン上空へ。2番機は“ささごい”を援護。“かげろう”はこれより、ビアンカの制圧に入る」

 ―――了解。

 「行けるわね?」

 奥山の向かいに座る女性は静かに頷いた。

 手を伸ばした彼女は、奥山から無線を引き継ぐ。

 「聞こえる?ダイスケ、アヤ。

  ・・・そうよ。エリス・・・エリス・コルネッタよ!」

 

 飛行中のかげろうのドアが開かれ、凛々しく1人の少女が立ち上がる。

 風に長い茶髪を、紅い瞳に太陽を反射させ、いつもの戦闘服で彼女は眼下の船を見ていた。

 エリス・コルネッタ。バチカン専属のカオスプリンセス。

 「犯人を刺激する恐れがある。このヘリを船尾から近づけて、一気に上昇する」

 「了解。すぐに済ませてあげるわ」

 「チャンスは1回。いいわね?」

 「これでも、血の半分は獣人ですから。ご心配なく」と舌を出しながら。

 かげろうは、白い尾を引くビアンカの背後に付いた。

 階段状のデッキ、その最上部が眼前に迫る。

 「今よ!」

 奥山の言葉を合図に、エリスは飛び降りる!

 デッキを転がりながら体勢を整えたエリスは立ち上がり、レッグホルダーからSIG ザウアーP230を取り出すと、一路操舵室へと走る。

 船内からは笑い声や音楽が聞こえる。

 「また爆発だ」

 「なになに?あれって、映画?」

 「昔流行った、ナントカ警察のリメイクだな、こりゃ」

 そんな言葉も。

 (乗客は、この船が乗っ取られたことを知らないのか。とすると、敵は圧倒的少数)

 この船も、ミシガンと同じ4階構造。とりわけエリスが降り立った最上階は結婚式場を想定して設計されている。

 今回のビアンカの船旅の目的は、あくまで結婚披露宴。4階に人がいなかったために、簡単にハイジャックされ誰も気づかなかった。

 銃を握る手をそのまま、一気に操舵室へ。

 ドアを蹴破る。

 「Freeze!」

 エリスの言葉で、舵を握る男がこちらを振り返る。

 白スーツに、金バッジ。

 (コイツが教団関係者ね!)

 「船を止めなさい!もう逃げられないわ」

 「黙れ!」

 すぐさまスーツの内側から銃を抜く。

 だが、それより早くエリスは男の後ろに回り込んだ。髪がフワリと浮き、三角の獣耳が見えた。

 「いいっ!?」

 両手を後ろに回し、頭に銃を突きつける。

 その間、5秒。

 「動くなって言ったのよ」

 「お、お前一体・・・」

 「知る必要もないことよ。しばらく眠っていなさい」

 そのまま首の後ろを叩き、気絶させた。

 周囲を見回すと、腕から出血した男が。

 「船長ですか?」

 「ああ」

 顔をしかめて、答えた。

 「突然あいつが乗り込んできて・・・もみ合っている際に」

 「他の乗組員は?」

 「別の場所に監禁されている。もう1人に」

 「もう1人!?」

 瞬間、頭に冷たい感触。

 「動かないでね」

 ドレス姿の若い女性が、ベレッタを突きつけていた。

 「成程、披露宴の客に紛れて・・・迂闊だったわ。よく気づかれずにいたわね」

 「最初は職員として機関室に潜入していたのよ。出港後に参加者の1人を襲って、難なくってわけ。

  ご心配なく。身ぐるみはがした女は、縛ってトイレにぶち込んでいるから」

 「そう」

 「お前如きに邪魔はさせない。この船は神の過ちを正すための方舟となるのだ」

 「方舟ね・・・あくまでもカトリックに仕える私に向かって、それを言うかな?」

 「ならば尚更だ。異端は誰であろうと、抹殺する」

 女の手に力がこもる。

 (どうする?どうするよ、エリス!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ