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すぐさま大介は自身のスマホで、隼を呼び出した。
「親父!」
―――ジャックされたミシガンを追っているそうだな。
間もなく、水上警察隊とリオの乗ったヘリが合流する。それまで頑張ってくれ。
「そう悠長なことは言ってられないぜ!連中はニンギョウをおびき出すつもりだ」
―――おびき出すって・・・
「ニンギョウが異端者の血を望んで現れる。教団はニンギョウの行動を、そう解釈しているみたいなんだ。人質を殺すか、最悪、大津港に激突させる可能性がある!」
―――何だと!?
「応援をもっとよこしてくれ。それから、リオさんに連絡してデュオ、ルキーミ、ソリュアの3人の身元を至急照会」
―――デュオならば身元が判明している。裏社会の人間で、拷問に精通した人物だ。副部長に暴行を加えたのも、そいつの可能性が高い。
そうか、連中は端から人質を、殺す気だな!
「そんな・・・あやめ!」
叫びに、彼女は答えた。
「何?」
「メンバーの1人が割れた。デュオという人物だ。拷問に精通した裏社会の人間で、緒方副部長をなぶった犯人だ」
「参ったわね」
そんな中、赤い外輪が彼女らに迫る。
追いついた!
左から船首に回り込んで、右へ。そして再び旋回。嘗め回すようにミシガンの周りを走った後、スピードを落として並走する。
「少し、距離を取って!」
左へ舵を切った、瞬間!
甲板にぞろぞろと現れる白スーツ。その手にはUZIやベレッタと、多種多様な重火器が。
有無を言わせず、一斉発射!
「撃ってきやがった!」
傾けた船体、その大きな面積が縦になった。
激しい爆音に、耳がつんざく。
「こらーっ!船に穴をあけるなー!」
その音に負けずに叫ぶ香葉子。
「早くやっつけてくれよ!」
「あの銃弾の雨じゃ、頭を上げれば確実に殺される」
「そのライフルなら・・・」
「弾丸は2発しか残っていないの」
「じゃあ、どうするの?このままじゃ、こっちが沈むよ!」
もどかしさに下唇をかむ中
「見ろ!」
大介が叫んだ先、甲板に出ていた男が2人、銃を手から落とすと、腕を押さえながら倒れた。
「どうして?」
瞬間、3人の背後を飛び去るヘリコプター。
青い機体が、晴天の空に輝く。
「ささごい・・・リオさん!」
「ようやく到着したってことね」
見ると、機体から体を放り出したリオ、スコープのないチェイタックをミシガンに向けている。
インペリアルシステム。その能力だから、上空から敵の持つ銃器に、ピンポイントで狙撃できたのだ。
緋袴のポケットからイヤホンマイクを取り出すと、リオと交信する。
「サンキュー、リオ」
―――どういたしまして。さっさとシスターを救い出しなさい。
「言われずとも。リオはUZIを持った兵隊を重点的に。・・・大介、反撃よ」
「よし!」
ズボンに挟んだ大介の愛銃 CZ75-1改が、スカートをひる返し、レッグホルダーから取り出したあやめの愛銃 ワルサーP99が、同時に火を噴く。
相手の攻勢には劣るが、それでも陰に隠れ銃撃を交わしながら、必死に引き金を引く。
だが空からの応援は、攻勢をひっくり返すには充分すぎた。
そのミシガンでは、信者たちが狼狽していた。
「ぐはっ!」
1人。UZIを持った人物は、全員やられた。
「クソッ!UZI部隊が全滅した」
「そ、そんな。上空から手だけをピンポイントに。あいつ、人間じゃねえ!!」
船上の誰しもが、戦意を喪失し始めた。
その時
「やっと着いたか」
ルキーミが空を見上げてつぶやいた。
北東の空、そいつは現れた。
上空を飛ぶUH-64T ささごい。
インペリアルシステムを駆使するリオは、イヤホンマイクであやめと連絡を取り合い、狙撃を続ける。
「UZIを持った奴は、全員倒したわ」
―――了解。後は何とかできそう。
そこへ、パイロットの無線が乱入。
―――北東方向より、飛行機が接近。
「県警のヘリ?」
―――いえ。ヘリなのですが、県警のそれより小さい機体です。
「民間機?」
―――トクハンも、ロビンソン R66という機体を所有していますが、それだとしたら他県からの応援という可能性も。
体を機内に戻し、中からその機体を確認した。
確かに小さいが、こちらに近づいてくる白い機体。
やっと全体が目視できたとき、アドレナリンが流れ、リオのリザードマンの血が動いた。
―――ロビンソン R22。やはり民間機ですかね?
「いや違う!側面を見ろ!」
そう、機体側面には萬蛇教のマーク。
すぐにイヤホンマイクに叫んだ。
「アヤ!あのカルト、ヘリなんて引っ張り出してきやがった!」
―――え?
刹那
「うわっ!」
機体が揺れる。
相手が接触ギリギリの距離にニアミスしてくる。R22はそのまま、小型機体を駆使して旋回すると、再びこちらに突っ込んでくる。
すれ違い、潜り抜け、揚句に真正面で急上昇。
バランスを崩したささごいは、湖面へと急転直下。すぐに機首を上げて、墜落を回避する。
それでも、激しく付きまとう。
―――リオ!
「アヤ。このハエを振り払わない事には、無理だ」
―――援護するわ!
「ミシガンの方が先だ!」
―――それなら、大丈夫よ。
直後、イヤホンから聞こえる、甲高いサイレン。
琵琶湖を見下ろすと、ミシガンとクルーザーに向かって、白い尾を引く4隻の船。
「水上警察隊か」
内陸県であるにもかかわらず水上警察を唯一、常設している滋賀県警。その水上警察隊大津分駐所の部隊が到着したのだ。
青く光る湖面を切り裂き、甲高いサイレンを鳴らして、中型船が航行するミシガンに迫る。
「こちらは、滋賀県警水上警察隊だ!直ちに停止しなさい!」
船外に設置されたスピーカーが叫び、甲板に立つ警官が銃を構える。
船団はあやめの乗るクルーザーの後ろを航行。内スピードの出る2隻が、ミシガンの前に出た。
その姿を確認すると、あやめはイヤホンマイクで指示を出す。
「航行中の水上警察隊へ。連中は重火器で武装し、人質を躊躇なく殺害する恐れがある。
相手をむやみに刺激せず、迅速に犯人を制圧されたし。
―――了解。直に湖西分駐所の船も到着します。
通信を終えると、あやめは再びチェイタックを持ち上げ、上空に銃身を定める。
ささごいの周囲を、ちょこまかと旋回し妨害するR22。
旋回する度に、教団の金色のマークが光る。
「そのマーク、悪趣味なのよ」
スコープから覗く目が、ヘリコプター後部、むき出しのエンジンを捉えた!
「じゃあね」
その瞬間、R22が突如ささごいのもとを離れ、こちらに飛んでくる。
「なんだ?」
クルーザーに近づいた時、むき出しのエンジン部分から細長の何かが落ちてきた。
「やばい、手投げ弾だ!」
「マジ!?」
「伏せて!」
途端に3人が伏せると、衝撃と共に水柱が立ち上がった!
激しい揺れがクルーザーを揺らし、立ち上がることはおろか、顔を上げることすら。
手投げ弾の被害は、傍を走る水上警察隊に降り注ぐ。
運悪くも、湖西分駐所の3隻が合流した直後。
「散開!散開しろ!」
センターを走る船の警官が叫ぶ。
あちらへこちらへ船団が散るが・・・
「逃げろ!」
声が聞こえたが最後、クルーザー後方を走っていた船が閃光と共に炎に包まれた。




