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同時刻、ピエリ守山に宮地の運転する青のホンダ S2000と県警のパトカー3台が突入した。
それぞれ散開し、野々市のレビンに向かう。
だが
「ウソ!?」
隣に停車していた白のフォード エクスプローラーが始動。一般車を押しのけながら、パーキングスペースを突っ切る。
その暴走に、悲鳴が上がる。
次々と人を押しのけ、横ぎる車を跳ね飛ばす。
「全車サイレンを鳴らして!牽制ををかけるよ!」
同乗していたリオが、無線で叫ぶ。
一斉にサイレンが産声を上げ、パトカーがフォードの進路に立ちはだかるも、その体当たりに効果は見られなかった。
一方で、大破した車の脇―フォードが通り過ぎた後を、レビンが走る。
すぐさま、S2000が追走する。
「車の性能は、こっちが上よ」
速度を上げレビンを追い抜き、華麗なスピンターンで進路をふさいだ。
大破した車の陰から飛び出す陰に、レビンは急ブレーキ。
「逃げられないわ!」
だが
『うわっ!』
背後からフォードが突っ込んできた。
テールライトが割れ、バンパーが曲がる。
反動で前進した際にできた隙間。そこからレビンは脱出し、出口へと走る。
バックし、その後を追うフォード。
「やりやがって!」
アドレナリンの放出でリザードマンモードに移行したリオ。吐き捨てる言葉にもトゲが。
サイレンを鳴らし、彼女の車も2台の後を追う。
美術館を出たアルシオーネとワゴン車。それを追うレパードは琵琶湖大橋へと向かう大通りに出た。
交差点をドリフトする3台。
後方からパトカーの大群が、サイレンを鳴らして迫ってくる。
「県警のお出ましか」
「5・・・6・・・7・・・10台以上はいるぜ」
ルームミラー越しに確認する大介。
それを確認すると、あやめは無線を引っ張った。
「料金所の閉鎖は?」
―――既に完了しています。
通信を終えると右側、反対車線から2台の車が飛び出し、逆走する。
白のフォードとレビン。そしてS2000。
「野々市!」
サイレンは大きく。車は波となって4台を追う。
すぐ先は料金所。既に県警のパトカーが大介たちの走る下り線を閉鎖していた。料金所の各ブースには一般車が停車し、列を成している。使用されていない場所もパトカーでふさがっていた。
その様子に4台は急停止。後続のパトカーもその様子を見守る。
この道は中央分離帯で上下線が区切られている。Uターンはできない。
料金所のスペースに入れば、パトカーが飛んでくる。
「抵抗をやめるんだ!エンジンを切って、車から出てきなさい!」
警官が拡声器で叫ぶ。
だが、4台は沈黙したまま。
刹那!
上り線にいたフォードが急発進。そのまま眼前のブースに突っ込んで行く。
衝撃音と共に、停車するクーペに体当たりする。
バックして再度衝突。
クーペの前方部は四散。ドライバーもエアバッグにもたれかかったまま微動だにしない。
「おいおいおい!」
「あいつを止めなきゃ、ドライバーが殺される!」
車外に飛び出し、銃を握ったあやめと大介。
だがワゴン車のドアが開き、出てきた男たちから浴びせられる銃撃に、その場に伏せるしかない。
フォードを止めに入ったパトカー。だが、その車は未使用ブースの1つを封鎖していた車両だった。
「戻れ!戻るんだ!」
大介の叫びも空しい。
隙をついて、アルシオーネががら空きのブースへ。封鎖を突破した!
「しまった!」
気を取られている間に、フォードもブースを突破。原型をとどめないクーペは、後続のスポーツカーに乗り上げ脇に横転。
そのスポーツカーにも衝突。そうしてできた隙間から、車は下り車線に合流。続けてレビンとワゴン車も後に続く。
衝突された2台。その煽りを受け何台もの車がぶつかり、上り車線は走行不能。
「次から次へと・・・」
あやめは語気を強め、否、腹の底から叫ぶ。
「救急車とレスキュー!すぐによ!」
レパードに乗り込むと、乱暴なハンドルさばきで料金所を突破。100キロオーバーの速度で相手を追いかける。
車のいない琵琶湖大橋。開けた視界には、白い4つの点しか見えなかった。
猛スピードでの走行に、大介が話しかける。
「なあ、あやめ―――」
「五月蠅い!話しかけないで!」
今までにない緊張感。
レパードの後を同じスピードで追いかけるS2000、その背後を県警のパトカーの大群が「西部警察」顔負けの絵を作りながら走る。
仲間すら寄せ付けない速さ。レパードが4台に追いついた。
先ずはレビンの背後にぴったりと。左右に車体を振って煽る。
だが、先行するワゴン車が減速。サイド・バイ・サイドで体当たりを仕掛けてくる。
車内に伝う衝撃。
「大介、つかまってて!」
巫女の握るハンドル。大きく振りながら車体をワゴン車にぶつける。何度も、何度も。
歯を食いしばり、ダークブルーの車体が悲鳴を上げる。
琵琶湖大橋でも最大高度を誇る登坂車線に差し掛かった時
ドンッ!
大きく鈍い音。
左側縁石。歩行者スペースにタイヤを乗り上げたのだ。そのスピードで立て直すことなど困難。ブレーキをかけた瞬間、縁石が車体に接触。その反動でワゴン車が横転!
「ぶつかる!」
大介の叫びすら必要ない。あやめは少しアクセルを踏み、ハンドルをクイッっと軽く動かして、迫るワゴン車を交わした。
アスファルトをひっかきながら停止するワゴン。
だが、窓を割って這い上がる兵隊の手にはUZIが。
道路上に降り立った3人。そこに幌をしまってオープンタイプになったS2000が迫る。
助手席のリオが立ち上がり、左手でフロントガラスを掴んで支えるとともに、右手握られた愛銃 IMI デザートイーグルをぶっ放す!
インペリアルシステムで計算された軌道。銃弾はUZIを握る手に。
手首を抑えてうずくまる彼ら。
それを脇に、S2000が通過するのだった。
ふと、進行方向右側に目を向けた。
「メイコ!」
リオが何かに気づく。
「どうした?」
「船だ!船が接岸している!」
その存在は嫌でも見える。
大きな外輪船が、小さな港に止まっているのだから。
「あやめちゃんは?」
「・・・」
前方ではレパードが孤独な戦いを強いられていた。
彼らの前でレビンが蛇行。前へ向かうことを阻止する。
圧倒的に不利。
そのままの勢いで、彼らは大橋を渡り切ろうとしていた。
堅田市へ入った3台の白い車。先で道路を封鎖するパトカーも無論、フォードに跳ね飛ばされる。
ジャンクションに入った途端、レビンが車列から外れ大津市方向へ走り始めた。
「どうするね?」
大介が聞く。
「今優先するのはミシガンであり、この2台。レビンは県警に任せるわ!」
すると、無線が入る。
リオからだ。
―――2人はそのまま、ミシガンに。私はヘリに乗り換えて、上空から追いかける!
「了解」
ルームミラーで確認するとS2000がコースを外れ、市街に消えていった。




