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 佐川美術館では、銃声にパニックになった客や従業員が、次々と出てくる。

 大介が大声で叫ぶ。

 「すぐに、この場から離れて!」

 警備員の1人が、駆け寄ってきた。

 「警察の人間ですか?」

 「中に、女子校生と連れの男がいるはずなのですが」

 「2人なら、乱射魔を追って、別館に・・・」

 その時!

 急ブレーキと共に、白のアルシオーネが突っ込んできた。

 咄嗟によけた2人。運転席に乗る白スーツが拳銃を取り出すと、警備員の足を撃った。間髪入れず逃げ惑う人々に向けて引き金を引く。

 「うっ!」

 「があっ!」

 肩を撃たれる老夫婦。出血する太ももを押さえる受付嬢。腰から出血する青年。

 駐車場ではパニックになった1台の車が暴走し横転、人工池に突っ込む。

 呻き泣き叫ぶ人々を横目に、男は銃口を大介に向けた。

 と同時に、彼もCZ75を抜く。

 「銃をしまえ。こいつらを楽にさせたくなければね」

 つまり殺すとの脅迫。

 阿鼻叫喚。人間のすることではない。

 「野獣が!」

 「寛大な聖人と言いたまえ。本来なら殺すべき異端を、こうして生かしているのだからな」

 「黙れ!」

 「ほら、銃をしまえ。さもなくば―――」

 「わ、わかった!」

 両手を上に挙げた彼は、ゆっくりと拳銃を足元に置いた。

 勝ち誇ったかのように笑みを浮かべる男。その後ろ、入り口への通路を、武装部隊に囲まれて小鳥と鈴江が出てきた。

 「小鳥君!鈴江君!」

 「あっ!大介先輩」

 「大介さん!・・・ごめんなさい」

 うなだれる少女。

 何も言葉を発せれない彼に、男は言う。

 「この2人は連れて行く。ビデオの在り処を吐いてもらうために」

 「周辺は、県警が警戒網を敷いている。逃げられはしないぞ!」

 「そんな安っぽい言葉、聞きたくもない。第一、玉無しのお前が、何を言うか」

 返す言葉もない。

 銃はあれ1つ。今更、自分の身を投げても、どうにもならない。

 考えを巡らせる中、気づけば小鳥と鈴江がアルシオーネの後部席に乗せられていた。

 「大介さん!」

 「だ、大丈夫だ!あやめが・・・あやめが必ず来る!その時まで耐えてくれ!」

 あやめは、その言葉に答えた。

 「信じています。あや姉が・・・私のたった1人の姉が、こいつらを倒しに来るって。

  だから待ちます!その時まで・・・」

 「その時?その時とはいつだ?」

 ほくそ笑む男に、浪川の偽物が近づく。

 「あっちはどうだ?」

 「デュオが港に・・・どうするの?ソリュア」

 「どうということはない。計画どおり、2人を“クリムゾン・ミシガン”に加える」

 「了解」

 “クリムゾン・ミシガン”

 それが、教団が行おうとしている計画名か。

 ミシガン―つまり、琵琶湖遊覧船!

 「やっぱり、あの遊覧船をジャックしたのはお前らか!」

 「もう、警察も感づいているのか。

  そうさ。ミシガンは、我が萬蛇教の神聖なる教義の基に、その配下を手中に収めた」

 「まどろっこしい!要は乗っ取りじゃないか!」

 「五月蠅い」

 「船をジャックしたところで、逃げられはしないぞ!大型船の寄港できる場所を封鎖すれば、こっちのものなんだからな!」

 するとソリュアが大きく笑う。

 「逃げる?違う。あの船は、言わば贄だ。過ちを正す、もしくは消し去るための」

 「贄?あの船に何を?」

 浪川の偽物―ルキーミが言う。

 「その目で確かめるがいいわ。

  贄には神聖な巫女がふさわしい。だから、この小鳥嬢を頂いていく・・・おっと、小鳥嬢!変な行動はしないことね。部下のUZIが、即座に貴様の短い人生を終わらせる」

 そういうと、鋭い目つきを向ける小鳥、否、彼女の乗るアルシオーネに対し、白スーツの部下が一斉にUZIの銃口を向けた。

 「おい。俺の愛車を蜂の巣にする気か?」

 「いえ。ほんの抑止力です。少なくとも、車内の2人には効果的。

  それより、この男はどうします?」

 「好きにするがいい。そろそろ、警察も来るころだ。殺すなら、さっさとしろ」

 捨て台詞を残し、アルシオーネに乗り込んだソリュア。

 ルキーミは、部下をワゴン車へと撤退させると、喜びの笑みを浮かべながら、銃口を彼に向ける。

 「どう?同級生と同じ顔の女に殺される気分は?」

 大介は鼻で笑った。

 「気持ち悪いぜ」

 「は?」

 「お前より、本物の浪川さんの方が、何倍も上手だ。こんなイミテーションでも下の下に殺されるなんて、泣きたくても泣けないさ」

 「黙れ!」

 恫喝しても、彼の顔色は変わらず―――。

 「随分強気じゃないか?さっきから」

 「強気?ただ自分を鼓舞しているだけさ」

 「はあ?ただの弱虫、ってこと?」

 「ああ、俺は弱い男さ。ここにいる2人すら、ろくに助けてやれやしない。そいつは潔く認めるさ。

  でも、同じ弱虫でも、お前らよりはまともだと思っているよ」

 ルキーミは笑った。

 「私たちが弱い?弱いですって?

  弱いのはお前だけだ。今この瞬間にも、我々の聖なる裁きの下、異端者を血と肉と排泄物に仕分けできるのだ。

  お前から、その裁きを下してやろう」

 彼女が上げた右手が合図。車に向けられた全ての銃口が、大介に向けられた。

 「乗れ、ルキーミ!奴が来た!」

 唐突に叫ぶソリュア。

 見ると、こちらに青のレパードが走ってくる。

 大介から視線を逸らし、走る瞬間を彼は見逃さない!

 足元の銃を拾うと、銃口を車に向ける。

 「小鳥君、伏せるんだ!」

 アルシオーネのタイヤに向けると、すかさず発砲。

 だが同時に、車も急発進し、大介の前を通り過ぎる。

 2発、3発・・・。

 「クソッ!」

 動く小さな的、一発も当たらなかった。その上、後続のワゴン車が盾になっていたのだ。

 巫女の車とすれ違い、敵は退場していく。その姿を、ただ傍観するだけ。

 急停車したレパードから降りてきたあやめは、その惨状に言葉を失った。

 「ひどい・・・2人は?」

 「ごめん」

 「あの車ね」

 「連中はやっぱり、ミシガンをハイジャックしていた。小鳥を生贄にすると言って―――」

 「生贄?・・・まさか教団は、ニンギョウをおびき出す気じゃ」

 「おびき出す?連中は、ニンギョウを捨てたんじゃ」

 「利用するためにおびき出すんじゃないとしたら?・・・そう、抹殺よ。

  このままニンギョウがいたら、教団にとってはお荷物。恐らく連中は、臨仰市攻撃計画に警察は気づかないと高をくくっている。その前に手がかりとなるであろう物証を始末しようって魂胆でしょうね。表裏同時に」

 「表裏?」

 「裏はニンギョウ。現に私たちは、その進路から臨仰市を割り出した」

 「トクハン対策か・・・で、表は?」

 そこへ、応援のパトカーと救急車が。

 「表は、私の読みが正しければ・・・まずは、ミシガンを止めることが先決よ!」

 後を頼むと、2人は車に乗り込む。

 シングルランプを取り出しながら、あやめは言うのだった。

 「私の妹に手を出した代償は重いわ。それを思い知らせてやる!」

 ヘッドライト点灯!アクセル全開で駐車場を飛び出したレパードは、再びアルシオーネの後を追跡する。

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