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 AM10:49

 滋賀県草津市内


 「小鳥君が浜大津に・・・その後は?」

 ―――坂本行き電車に乗車したことは、駅員の証言で分かっているんだか。

 「その、追っていたという男たちは?」

 ―――何かを叫びながら散会し、一部は車で逃走したよ。白のスバル アルシオーネ。和泉ナンバーだ。

  大介、そっちは?

 「今、名神を降りて、草津市内のガソリンスタンドに入ってる。

  あやめなら、トイレで勝負服に着替えているけど?」

 セルフ式のガソリンスタンド。給油を終え、車内に待機する大介。

 無線越しに、父親と話す。

 ―――問題なのは、小鳥君が、どこに向かったのか。

 「鈴江君が、どこに向かったのか、わかったのか?」

 ―――聞き込みをした寺崎によると、黒壁スクエアにある海洋堂ミュージアム前で、スタッフとぶつかった後、長浜駅方向に走り去ったと。写真を見せたら、鈴江で間違いないと証言しているそうだ。

  それから、長浜駅の防犯カメラを確認したところ、彼は姫路行きの快速電車に乗り込んでいる。

 「やはり、目的地は石山駅?」

 ―――だがなぁ、浜大津で襲撃されたんだ。小鳥君が、目的地を変更させたことは、想像がつく。

 「とすると・・・2人はどこに?1人は湖西、1人は湖東」

 ぼやく彼が横目で、トイレから出てきた女性を確認。

 左前で合わせられた、死装束の白袴。スカート調の巫女が、運転席に滑り込む。

 「小鳥は?」

 「本部も、どこに向かったかわからないと」

 そう聞いた途端、あやめは大きく息を吐いて、ハンドルにもたれかかった。

 いつか奈良で見た、あの光景がデジャヴする。

 「小鳥・・・」

 呟く彼女の声は、弱弱しく。

 「心当たりはないのか?」

 首を横に振る。

 「だって小鳥、滋賀に来たことないもの。行ったって話も聞いたことないし」

 「まあ、大阪南部から滋賀って遠いもんな。

  それでも、こう・・・なんかあるだろう!」

 「無いものは、無いの」

 断言して会話は途切れた。車内に沈黙が流れる。

 「待って・・・」

 ゆっくりと頭を上げた巫女は、遠くを見ると

 「そうよ。小鳥なら、あそこに行くはず」

 瞬間、人が変ったように、無線をふんだくった。

 「パパ!佐川美術館に、県警の捜査員を送って!」

 ―――佐川美術館!?

 「ええ。私が初めて免許を取った時に、小鳥に連れて行ってくれって頼まれた場所。

  滋賀に土地勘のない彼女でも、そこだけは知っている。取引場所もそこに変更したに違いないわ。

  湖東側なら守山駅から、湖西側なら堅田駅から、それぞれ行けるもの」

 ―――確証は?

 「ゼロに等しいわ。完全に私の勘よ」

 ―――おいおい

 「同時に、これは賭けでもあるの!食うか食われるか・・・お願いです!」

 ―――もし外れたら?

 「どんな処分でも、受ける覚悟です。愛する妹のためなら、馘首さえ」

 無線の向こうも、声が途切れた。

 妹への愛が、上司を屈服させた。

 ―――分かった。

   あやめ君も、すぐに向かいたまえ。

 「ありがとうございます」

 大介に無線を放ると、エンジンスタート、アクセルを思い切り踏み込み、国道へ。

 サイレンを再び鳴らして、北上。守山市を目指す。

 「本当にいると思うか?」

 そんな大介の声に答えず、巫女はハンドルを握るのだった。



 一方、無線を受けた隼は、長浜から南下していた寺崎と神間に、佐川美術館へ向かうように伝えた。

 「警部」

 横山が、県警の高城と柴村を連れて、参上。

 「どうしたんだ?」

 高城が話す。

 「事件と関係があるかどうかわかりませんが、一応、報告した方がいいかと思いまして」

 「早く、言いなさいね」

 「先ほど、琵琶湖汽船本社から連絡がありまして・・・ミシガンをご存じで?」

 「ああ。琵琶湖を周遊する遊覧船だろ?」

 ここから柴村が話す。

 「航行中のミシガンからの連絡無線が、突如途絶えたと」

 「故障じゃないのか?」

 「職員もそう思ったみたいなんですが・・・」

 さらに横山が、隼に言う。

 「どうやら、航路を外れて運行しているそうなんです」

 「え?」

 彼は、滋賀県の全体地図の前へと歩き、説明した。

 「当該船舶は“ミシガンモーニング”というクルーズ名で運行しています。

  10:00に大津港を出港したミシガンは、10:25に大津プリンスホテル付近の観光桟橋、11:00に柳が崎湖畔公園港を経由して、11:20に大津港に戻ってくるルートを取ります。

  問題の無線交信が途切れたのは、10:42です」

 「もうすぐ、柳が崎に到着というところか」

 と隼

 「ええ。直後、突然ルートを外れ、来た道を引き返し始めたと」

 穏やかではない話だ。

 それに

 「浜大津での騒動が10:38頃。直後にミシガンが沈黙。

  来た道を戻っているということは、観光桟橋に?」

 「いえ。琵琶湖を北上しています」 

 「北には、何がある?」

 県警の柴村が答えた。

 「そうですね。観光地なら高浜虚子の歌碑で有名な浮見堂。それと琵琶湖大橋。

  船の発着場なら、おごと温泉港と、堅田港がありますね」

 「ミシガンは、寄港できるのかね?」

 「どうでしょうか。周遊クルーズとして、高速艇は発着してはいますが。

  この辺りに来る大型船といえば、同じ琵琶湖汽船が運行しているクルーズ船くらいですかね」

 すると、隼は横山を、2人から離して、小さな声で言う。

 「君は、どう思うね?」

 「と、言いますと?」

 「ミシガンが、教団にシージャックされた可能性だよ」

 「まさか?」

 「たった今、あやめ君から連絡が来て、小鳥君と鈴江は恐らく佐川美術館に向かったと。

  美術館は、琵琶湖大橋の近くにある」

 「警部が言いたいことは分かります。

  ですが、教団が船をジャックしたところで、何のメリットがあるんです?琵琶湖は広大ですが、すべての港を封鎖すれば、連中は袋のネズミ。

  2人の誘拐のためのハイジャックという推理には、無理がありますよ」

 口を濁す隼。

 これだけ滋賀県で事件が連発すれば、神経質になるのも判る。

 「ただの早とちりなら、それでいいのだが」

 「ですが、その可能性を消していくのが、私たちの仕事、ですよね?」

 「うむ。水上警察に一報を。

  それと、念のために大津港に行ってくれ」

 「了解」

 横山が2人を率いて部屋を出ると、隼は無線を引っ張った。

 「大介、小鳥君。琵琶湖遊覧船が、無線連絡を断ち、暴走している。佐川美術館の方向だ」

 ―――萬蛇教ですか?

 「それは分からん。だが、最悪の事態も考慮に入れて行動してくれ。

  湖といえども、船が乗っ取られたら厄介だ」

 ―――では、こちらも布石を投じますか。

 「ん?布石とな?」

 ―――簡単なことです。私の“お友達”にね。

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