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AM10:12
滋賀県大津市 滋賀県警本部
大介からの通達で、京阪石山駅に警戒態勢が取られた。
しかし
「何?いない?」
「はい、駅に到着した県警捜査員の話によると、教団関係者らしき人物も、車もいないと」
高垣が隼に報告した。
「奴らが白いスーツ、白い車で来るとは限らん。俺たちは、連中の裏の裏を行かんといけないんだ。
警戒を続行。鈴江颯太と姉ヶ崎小鳥を確認次第、速やかに保護するんだ」
「はい」
彼女と入れ替わりに、深津が飛び込んできた。
「寺崎と神間から連絡!やはり、鈴江が病院からいなくなっていました」
「何をしていたんだ!」
怒鳴る隼
「それが、病院裏手で発煙騒ぎがあったそうで」
「発煙?」
「ドライアイス入りの飲料水が投げ込まれた、いたずらみたいですが」
高垣は言う。
「恐らく犯人は鈴江君。その隙に、病院から抜け出したのよ」
頭を抱える隼に、今度は宮地
「警部!」
「今度はなんだ!」
「大阪支部の捜査官から連絡です。教団関係者らしき人物が、大阪に」
彼女は、手にしたUSBメモリーをパソコンに差し込み、本部のモニターに接続した。
「これは本日朝、京阪本線の京橋駅で起きた、乗客同士のトラブルを映した映像で・・・ここ」
指をさした場所には、白スーツに金のバッジをした男。
「これだけで、信者と断言するのは―――」
「沙奈江さんに頼んで、映像解析をしてもらいました」
「仕事が早いね」
感嘆する隼の手に、鮮明化された映像の写真が。
そのバッジは、萬蛇教のそれと一致。
「それから・・・」
彼女は映像を少し巻き戻す。
そこにはツインテールの女子校生。
「小鳥君じゃないか!」
「どうやら、大介君の話は、本当みたいですよ。
2人が乗り込んだ電車は、車体の色、行き先表示などから、出町柳行きの特急と判明しました」
「府警支部と京都府警に、京阪特急の停車駅の防犯カメラ映像、特にホームが写っているものを集めさせ、本部の峰野に送るんだ」
「お言葉ですが、当該列車は既に出町柳駅に到着しています」
「何が言いたい?」
「京阪本線利用して、滋賀へ向かうルートは、三条京阪で京都市営地下鉄東西線に乗り換えるのが一般的です。この地下鉄は、浜大津駅へ向かう京阪京津線と相互運転していますから。
つまり、この男と小鳥ちゃんは、既に滋賀県内に入っている可能性が高いんです!」
「・・・」
災厄は、多重衝突事故の如く。
最後にリオが飛び込んできた。
「アヤに頼まれていた人物照会ですが、とんでもない輩がヒットしました」
「拷問に対する専門性と性的嗜好だったっけ・・・誰なんだ?」と深津
「教団内での呼び名はデュオ。本名はレオナルド・ウィーゴ。数年前まで米北部域で、裏社会の掃除屋として名を馳せた、拷問師です。
2007年にカナダ・バンクーバーで発生した連続片足漂着事件の最重要容疑者として、カナダ警察とFBIが追っていた人物よ」
「そんな奴が、日本に!?」
「何らかの利害関係が一致したか、それとも逃亡中に信者になったか・・・」
高垣の言葉に、リオが答える。
「恐らく後者ね。ハリーに問い合わせたら、ウィーゴは片足漂着事件の後に、所属していた麻薬カルテルとの縁を切らされているから。日本風に言えば“ハモン”かしらね」
「そんな危ないやつまで、信者にするとは。最早、連中は宗教家じゃない、狂ったテロリスト・・・その、京津線の終点は?」
「浜大津。ここから、目と鼻の先です!」
宮地が叫んだ。
「すぐに、捜査員を―――」
「浜大津駅で当て逃げ事案!電車が緊急停止した模様!」
県警の捜査員が叫んだ声に、トクハンメンバーは一斉に振り向く。
「状況は?」
「小太りの外国人風の男が、石山寺行き電車に接触。未確認の情報ですが、数人の男が、女子高生を追っていたと」
「あやめちゃん!」
「小太りの外国人は、ウィーゴと見て間違いないでしょう。ミスターハヤト」
隼は本部の面々に伝えた。
「碇警部、県警捜査員に拳銃携帯命令を!大津市中心部から半径5キロに警戒網を敷く!」




