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 同日

 AM8:30

 奈良県奈良市 都古大学

 

 あやめと大介は、萬蛇教の突破口になるであろう渡瀬に話を聞きに、滋賀から奈良へと舞い戻った。

 「また戻ってきちまったな」

 「その方が、私には嬉しいんだけどね」

 「話変わるけど、宮地さんって、齢いくつ?」

 あやめはため息を吐いた。

 「女性の年齢なんて、聞くもんじゃないわよ」

 「それは分かるよ。でもさ、俺たちと変わらない年齢で、地下鉄サリン事件に対応したなんて」

 「大介。妖怪の場合、年齢=外見とは限らないのよ。

  彼女が警視庁に入った、1993年の写真を見せてもらったけど、全く外見が変わっていないのね」

 「おいおい、マジかよ・・・」

 「別にいいじゃない。彼女はヤマネコ妖怪で、今は人間界で活躍している。

  年齢なんてどうでもいいわ。100歳、150歳って妖怪も、わんさかいるし」

 話しながら部活棟に向かうと、その足で映像研究サークルのボックスに。

 そこには缶コーヒーを片手に、パソコンに向き合う青柳の姿が。

 「ああ。亜門さんに姉ヶ崎さん」

 気づいた彼は、表に出た。

 「仕事かい?」

 「ええ。録音した音声を挿入する作業を」

 「すげえな。ところで、部長は?」

 青柳は、ムスッとした顔で答えた。

 「渡瀬部長なら、ここ最近、姿を見ていないんです。もうすぐ青鈍祭だって言うのに・・・映研は大騒ぎですよ」

 「来ていない?部活にか?」

 「いいえ。学校自体にです。

  まったく!鈴江にあんな危ない企画をさせたのに、何も言わずに消えるなんて」

 その言葉に、2人に胸騒ぎが。

 あやめが話を変える。

 「ところで、最近野々市って生徒、来た?」

 「来たには来たんですが・・・昨日、退部の旨を伝えに来たんです。

  自分は、青鈍祭前にこの部活をやめますって。

  どうやら、単位相互協定の授業を、破棄するとかって言って」

 「学祭前に、部活をやめるってこと?」

 「そうですよ!無責任な!

  ・・・ところで、鈴江は?」

 「大丈夫ですよ」

 彼を安心させて、ボックスを後にした。

 野々市が、授業を破棄する名目でサークルを辞めた。あやめたちに目をつけられたからなのか、それとも、教団が計画しているであろう、テロ事件に関してか。

 まあ、本人に聞ければ早いのだが。

 文化研究サークルのボックスに入ってしばらく、前を釘宮が差し掛かった。

 「おや。事件の方はいいのかい?」

 「その事件のために、はせ参上した次第で」

 皮肉を込める大介に、彼は言う。

 「渡瀬部長の件かい?」

 「何か知っているのか?」

 「まあね。2時間目まで授業ないし、ゆっくり話そうか」

 テニスサークルの朝練を終え、しばらく暇な釘宮からこんな話を聞くこととなった。

 「どうやら渡瀬部長、吉川のもとに転がり込んでいるって噂が、ちらほら」

 「吉川?和装サークル副部長の、吉川麗奈か」

 「ああ。どうやら青鈍マジックにかかったみたいで」

 「付き合っている?」

 「みたいだな。

  もっとも、付き合い始めたのは1か月前で、学校ではそこまで親しい素振りは見せていなかったけれどもね」

 あの時、野々市に暴力を振るわれて、すぐに心配して介抱したのは、そういうことか。

 「だが、渡瀬部長が音信不通になってから、吉川先輩が心配し始めてね。それから、あの2人は付き合っていたのかって。

  ・・・彼女に会うのか?」

 釘宮はスポーツドリンクをがぶ飲みしながら聞く。

 あやめは答えた。

 「場合によっては、保護する必要があるし」

 「保護?まるで映画みたいだな」

 「事態は、私たちの斜め上を行っていたわ。このままじゃ、渡瀬さんが危ないかもしれない」

 その言葉に釘宮が

 「ま、まさか、青鈍祭が狙われる可能性は?」 

 「わからない。とにかく、渡瀬さんと接触したいの」

 その時、外の方から声が

 「話は聞かせてもらったァ!」

 とボックスのドアをダァァァンと・・・ではなく、頭をひょっこり覗かせた、声の主は要だった。

 「要先輩!」

 「元気ですね、朝から」

 部屋に入った彼女は、相変わらず道着姿。

 「麗奈は、西大寺に下宿しているわ。

  2人だけじゃ、話も聞けないだろうから、私が同行するね」

 「助かります」

 「友達のピンチだもの。そうと決まれば、急がないとね。

  あやめちゃん。すぐに車を」

 「了解!」

 立ち上がり、部屋を後にする彼らに、釘宮は言う。

 「俺も、知り合いに連絡を入れる。何かあったら、知らせるから!」

 「頼んだぜ!」

 3人はレパードに乗り込み、すぐさま大学を後にした。

 吉川のアパートは、近鉄大和西大寺駅北口から、徒歩2分の場所にあった。

 4階建ての学生マンション。

 AM9:26。駐車場にレパードを停めた時、マンションから麗奈が血相を変えて出てきた。

 「要!渡瀬君が見つかったわ」

 「どこ?」

 「そこの定食屋。夜勤帰りの友達が、ラインで」

 車に麗奈を乗せ、再出発。

 その場所は、西大寺駅から東へ徒歩3分の場所。北口メインストリートの中にあった。

 最近、いろんな場所に 進出している定食屋チェーン。

 あやめは向かいの銀行駐車場に車を停めると、すぐさま定食屋に。

 店のドアから、店内を確認すると、いた。

 テーブル席にいた彼に、丁度ハンバーグ定食が運ばれてきたところ。

 堰を切って、麗奈が店内に。

 「渡瀬君!今までどこにいたのよ!」

 一瞬狼狽した渡瀬だったが、何事もなかったかのように、食事に手を付けた。

 「心配していたのよ。学校にも来なくなるし」

 「悪かった」 

 「悪かったって―――」

 要が麗奈を止め、代わりに席に座ったあやめが、彼に話す。 

 「渡瀬先輩。覚えていますか?」

 「ああ。いつぞやかに。

  何度来ても同じだ。あの時の怪我は―――」

 「すべて分かっています。何もかも。

  連中の狙いは、鈴江君に渡したカメラとビデオテープ。そうですよね?」

 彼は答えず。食事を続ける。

 味噌汁を飲み、白米を一口。

 構わず話を進める。

 「いままで、どこに?」

 「ずっと、高校時代の友人の家を回っていたよ。香芝のな」

 「香芝?奈良の?」

 「ああ。

  自分の地元に帰ったら、いけないのかよ」

 その瞬間、あやめは一つの結末に至った。

 「まさか・・・渡瀬さんと野々市は、すでに面識があった」

 箸が止まった。

 「恐らく、その出会いは、野々市の学校。例のスナッフビデオ」

 彼は食べ続けた。

 ハンバーグを歯で噛み切り、白米をかきこむ。

 それは腹を満たすためではなく、まるで、自分の不安を自傷で抑えようとしているが如く。

 すぐに茶碗は空となり、席を立って大きな炊飯器の方へ向かい、おかわりの御飯をよそった。

 着席。再び飯をがっつく。

 「渡瀬さん。野々市が、いえ、その背後にいる何者かが、犯罪行為を企てていることは分かっています。ですが、それがなんなのか、今の時点では判明していません。その答えを、貴方が持っているかもしれないんです。

  あなたの身の安全は保障します。ですから、私たちを信じてください。麗奈さんのためにも」

 再び箸が止まった。

 「このままじゃ、彼女も巻き込まれかねませんよ」

 「・・・」

 「付き合っているんですよね?」

 「・・・」

 「渡瀬さん!」

 横から、麗奈が言う。

 「私からもお願いするわ。知っていることがあったら、話して。

  約束してくれたよね?私にウソはつかないって、付き合うときに約束してくれたよね?」

 しばらくの無言の後、彼は口を開いた。

 「俺と麗奈・・・いや、それから副部長の緒方の安全を。話はそれから、いくらでもしてやる」

 「分かりました」

 「だが、一つだけ聞かせてくれ。お前は、何者なんだ?」

 すると、彼女は手帳を出す。

 「姉ヶ崎あやめ。刑事の端くれです」

 「そうか、警官だったか。これで、野々市も―――」

 その時、大介の電話が鳴った。

 店先に出た彼は、すぐ戻ってきた。

 「あやめ!すぐ大学に!」

 「どうしたのよ?」

 「部活棟で、緒方副部長が・・・」

 「早く言いなさい!」

 「半殺しの状態で発見された」

 その瞬間、あやめは立ち上がり叫んだ。

 「しまった!!」

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