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 ニンギョウについての調査も大事だが、それ以上に危惧すべきは復活したカルト教団 萬蛇教の犯罪計画である。

 東京・警視庁の公安部に情報を入手に向かった宮地から、説明があった。

 「公安部も全力で萬蛇教を追っていますが、その行方は分かっていません。地下組織化を徹底してるようで」

 「天下の公安だぜ?そんなことあるのかよ」と寺崎

 「普通ならあり得ないわ。どうやって活動をしているのか、いまだに謎」

 「敵視していたガイラ教の関連団体は?」

 隼が聞く。

 「まだ動きは見られないそうです。というより、彼ら自体、萬蛇教の再始動に気づいていません。

  ですが、再始動に気づいた彼らが、対抗措置として犯罪行動を起こすとも限りません。公安部は監視体制を強化し、目を光らせています」

 「でも、地下鉄サリン事件後に教祖が逮捕されて、ガイラ教は消滅したはずじゃ」

 そう話す大介。だが、あやめは言う。

 「消滅なんてしてないわ。力も信者も失って弱体化はしたけど、教団そのものは別の代表を立てて存続し続けた。でも2000年にガイラ教は破産し、名称使用を管理団体から禁止されたわ。その後、ガイラ信聖教を母体とした反教祖体制の「ローリシカ」に、さらに分裂して教祖主義を貫く「銀の月光」となったのよ」

 「じゃあ、今でも生きている」

 「ええ。むしろ復活傾向にあるわね。

  地下鉄サリン事件も、今では日本史の教科書に載るほど昔。大介みたいに・・・いえ、教団も事件も知らない世代が増えてきている。私たち大学生も例外じゃない。

  そういう学生を、どんどん取り入れて信者を増やしているのが、現在の実情。

  大介も気をつけなさいね。まあ、最終戦争だの教祖だの熱弁した日には、私は躊躇なく縁を切って、殴り倒すから、そのつもりで」

 「うわっ、おっかねえ」

 肩をすくめ、傍のコーヒーカップを口に持っていく。

 2人を横目に、宮地は言う。

 「まあ、冗談は置いておいて、肝心なのが彼らの犯罪計画ね。彼らはニンギョウを用いて何らかの犯罪行為をするつもりみたいだけど」

 隼は深津に聞いた。

 「ニンギョウの行方は?」

 「いまだつかめていません。県警本部がヘリと水上艇を用いて目下、捜索中。

  こちらも先ほど、妖気探知装置を搭載した“れいせん”を発進させたと峰野から連絡が来ました」

 「そうか」

 唸り声を上げる隼。

 リオが部屋に置かれたコーヒーメーカーへ向かい、コーヒーをカップに注ぎながら言った。

 「気になるのは、レイラスの言葉ね。

  “ニンギョウによる連続殺人と、コース変更は、我々にとってもハプニングであった”。“教団は最早、あのニンギョウを“計画”から除外した。既に“計画”は最終段階に入った”」

 すると神間

 「連続殺人とコース変更が、ニンギョウに内包されていた俵田の強迫性障害が起因したとすると、ニンギョウに元々内包されていたプログラムは、長浜を起点に南下することということだろうか?」

 「長浜、米原、彦根・・・近江八幡の時、ニンギョウは東近江にいたな」

 横山と神間の推理に、あやめは心当たりがあった。

 かつて、小鳥が出した推理。それが的中した。彼女は加えて、こうも言った。

 「目的地は鈴江のいる奈良市内か、大学のある高の原・平城近辺・・・」

 その呟きに、隣にいた大介も察した。 

 「一寸」とあやめを部屋の外に連れ出し、そう離れていない場所に位置する、自販機が置かれた休憩スペースに入ると、話を切り出した。

 「考えていることは分かるぜ。小鳥君の推理だろう?」

 「流石、我が妹よ。血、つながってないけど。

  大介は、どう思う?この予測が当たっていると?」

 「だとして、攻撃するメリットは?

  奈良市内は、以前あやめが提示した宗教テロの可能性はあるけど、冷静に考えたらニンギョウを用いる計画は無理がある。まあ、長命寺港のようなパワーならば、奈良市周辺を壊滅させるのは容易だろう。しかし、その状況が現れる前に、教団はニンギョウを、計画から除外している。あのロボットアニメ顔負けのパワーも、彼らには予想外だったんだろう。

  でも、都古大学が標的なら、納得はできるよ。延長線上にトクハン本部があるから。大学をダミーとして本部への攻撃を」

 「それは難しいわ。本部には外部からの攻撃を想定したシステムが、いくつも張り巡らされている。その中には警察庁長官すら知らないものもある。そこに操り人形で“カミカゼ”をしようなんて、馬鹿の真骨頂ってものよ。

  大学が標的なら、野々市が、映画部の渡瀬に抱いていた何らかの私怨を晴らすために」

 「それこそ、馬鹿の真骨頂だ。直接殺せばいいんだ。こんな遠回りして他人を巻き込まなくても。

  奈良ではなく、同じく南方にある三重県伊勢市が標的だとしたら?神道を攻撃対象として選んだ?」

 「ナンセンス。距離が遠すぎるわ。

  京都南部、宇治や中書島周辺が標的だとしたら」

 「人口密集地を通過する。目的地に着く前に、進路を阻まれる」

 考えられるもの、出すだけ出せるものをすべて晒した。

 晒してどうなった?

 あやめも大介も行き詰った。

 ニンギョウの最終目的地がどこか。

 それでも、ある程度のヒントがある。

 そのヒントは南にあり、教団の掲げる全ての宗教の破壊を満たす。尚且つ、警察などから妨害される可能性が少ない進路上にある。

 「そんな場所あるかしら?」

 「大阪南部、富田林にはBF教団の本部があるが?」

 「長浜から富田林は遠すぎる。それこそ都市部を横断することになるわ」

 頭を抱え、腕を組み、2人は考えた。

 時間はゆっくりと過ぎていく。

 駆け回る脳内シナプスが、同時に2人の思考を、1つの結末へ導いた時

 『・・・ひょっとして』

 互いに見合い、声を上げた。

 「おなじことを考えたでしょ?」

 「ああ。教団は恐らく、ここを攻撃するつもりだ!」

 休憩スペースを飛び出し、本部に戻った2人。

 一斉に彼らを見る捜査員に、あやめが放った一言は

 「見当がつきました。萬蛇教―ニンギョウの標的が!」

 「どこなんだ?」

 彼女は部屋の壁に貼られた、関西地区の巨大地図に向かって歩き、一点を指さした。

 そこは―――

 「奈良県臨仰りんこう市。日本国内における、唯一の宗教都市です!」

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