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 車を飛ばし、あやめと大介は大津市の、滋賀県警本部へ向かった。

 服は着替えても、顔や腕には傷痕が、うっすら。

 既にリオと宮地は到着しており、そろったところで、隼たちから経緯を聞く。

 先の長命寺港の一件では、漁船に乗っていた5名が爆死、あるいは惨殺された。攻防戦では、住民と警察側合わせて40名が重軽傷、ニンギョウの攻撃により住宅17戸、車両36台、船舶9隻が焼失。

 チェーン攻撃を食らったヘリも、数日飛行不能となった。

 「ライカル近江の時とは比べ物にならない戦闘力だ」

 「ミス・タカガキは?」とリオ

 「心配ない。

  右膝にかすり傷を負ったが、捜査に支障が出る程ではない。

  医務室で処置て、少し休ませている」

 それを聞き、リオだけでなく大介たちも安堵した。

 「あの野郎、どこで爆弾を?」

 憤る寺崎に、あやめは言う。

 「これは憶測に過ぎませんが、ニンギョウはどういう理屈かは分かりませんが、吸収した新型兵器を、火薬と猛毒ガスに分離し、それを武器とした」

 「確かに、突拍子もない理論だな」

 続けて、深津は横山に

 「で、さっき言っていた、ニンギョウに俵田が憑依していた確証ってなんだい?」

 「単刀直入に言おう。彼は強迫性障害であった可能性が高い」

 「ん?なんだそれは?」

 首をかしげる捜査員たち。

 だが、現役大学生でもある大介とあやめは、心当たりがあった。

 「OCD。何かしらかの事象に対する強迫行動を打ち消すために、彼は通り魔を?」

 「そうです」

 「犯罪心理学において、通り魔がその犯行を行う主な動機として、自己確認、あるいは間接自殺。

  今回のようなケースは、稀でしょう」

 すかさず、隼が問う。

 「ちょっと待て!どういうことか、わかりやすく説明してくれないか?

  その・・・OCDか?」

 あやめが答えた。

 「強迫性障害、Obsessive-Compulsive Disorder。

  不安障害の一種で、ある思考やイメージ、衝動が持続的に繰り返し浮かんでくることで、それに伴って浮かんでくる強い不安や苦痛―強迫観念と、それによる苦痛の低迷を目的に、繰り返し行い続ける行為―強迫行動、ないしは儀式行動の2つから形成される心理障害です。

  強迫行動は、本人の苦痛が低減、消失したと納得すれば終了しますが、再び強迫観念が生じると、行動を開始します。これが重篤となりますと、行動のみに1日の大半を費やすこともあり、日常や社会生活を送ることも困難になるのです」

 誰しもが驚きと納得の声や表情を浮かべているが・・・心理学科生の彼も。

 「どこで勉強したんだい?」

 「どこって・・・」

 ため息交じりで、彼女は言う。

 「臨床心理学概論の教科書、読んだ?アレにぜーんぶ書いてありますよ」

 「あ・・・」

 「しっかりしてよ。何のために勉強しているの?」

 「面目ない」

 うなだれる彼をよそに、リオが口を開いた。

 「犯人がOCDであるという、その根拠は?」

 「最初の犯行。敦賀駅の監視カメラの映像です」

 横山は、神間に目配せし、傍のモニターのスイッチを入れる。

 多数の乗客が地下通路、ホームへ向かう階段が映し出されている。

 「これが俵田。よく見ていてくれ」

 横山が指さした人影。後姿だが、その行動は特異。

 「ん?階段を四段上がることに、足を止めている?」と神間

 「そうだ」

 すると次いで、ホームの映像。

 彼が向かったのは

 「5番線と3番線ホーム?確か、福井県警の調書によると、最初の犯行は4番線・・・まさか!」

 寺崎に対し、大介が言う。

 「鉄道マニアの友達から聞いたんですが、敦賀駅の4番ホームは、5番線の先にあって分かりにくい構造になっているんです。

  彼はここから、4番線に向かって歩いた」

 「それに彼の最初の被害者は、4番線に到着した普通電車の4両目から降りてきた乗客です。

  ここまで見ていても判るように、俵田は“4”という数字に対して強迫観念を持っていたとみられます。

  強迫観念には主に、汚染、数字・順序、暴力・性、災害、死に関する考えなどが挙げられます」

 「数唱恐怖・・・“4”という数字に対する恐怖を拭うために、殺人を?」

 あやめの言葉に、横山は静かに頷いた。

 「だから、被害者全員が4回刺され、刺し傷の深さが4センチ。そこまで徹底しなければ、彼の苦痛は拭えなかった。恐らく数唱恐怖払拭のための殺傷行為は、以前から小動物を用いて行われていたのでしょう」

 「それがエスカレートし、殺人にまで至った・・・そうね?ミスター・ヨコヤマ?」

 「だけどよ、横山。敦賀駅で襲われたのは3人だぜ?徹底して4という数字、ないし行為を行っていたとは思えないな」

 寺崎の言うとおりだった。

 「できなかったんだ。外的要因で」

 「は?」

 「この時、4番線に停車した電車は、1両に対し3つしかドアが設置されていなかったんだ。彼は恐怖を拭うため4両目の乗客を4人殺す必要があった。それで不安は払拭される。

  だが、電車は3ドア。4という数字にある種の呪縛を持つ彼に、それは勘弁ならなかった。かといって見逃すこともできないし、我慢できない。

  ・・・このことに気づいて、福井県警に照会したんだが、敦賀駅の被害者は全て、この電車の4両目の乗客だった。つまり、3つのドアから降りてきた、前から4人目の乗客を刺したんです」

 横山の推理に、全員が言葉を失う。

 その中、あやめも推理に参加した。

 「成程。敦賀駅で3人を殺傷した彼にとって、被害者数が3というのも、ただの苦痛要素でしかなかったわけね。だから駅から出て、残りの1人を刺した」

 「福井県警の調書だと、この時も誤算が出た。1人を刺した直後、振り上げたナイフで別の1人が負傷した。結果的に数合わせで残り3名が襲われ、俵田は車を奪い、逃走」

 「すべては、自分の不安を消すために・・・不条理な大量殺人ね」

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