表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/100

45

 PM6:23

 長命寺港

 

 普段なら静かな夜の港、サイレンと爆音、銃声が響いている。

 そこは、完全に戦場。

 いたる場所で火の手が上がり、停泊している小型船のいくつかは沈没している。

 巨大な爆音。湖岸に停車していた県警のパトカーが大爆発を起こした。上空に持ち上げられた車体はひっくり返り、すでに火だるまになっていた一般車の上に落下。傍で伏せていた警官が、悲鳴を上げながら退散する。

 「畜生!なんて野郎だ」

 護送車の陰に隠れ、銃を構える神間と高垣。全員の視線の先には、炎上した漁船。その船頭に立つのは、おどろおどろしいニンギョウ。

 一方、背後では住民の避難が行われていた。大津市方向へ向かう自家用車やバスで、小さな生活道路はごった返している。

 そこを、光の列に逆らって、現場へ走る1台のパトカー。停車すると深津と寺崎が出てきた。

 さらに走ってくる車。カローラ スパシオからは、横山が。

 「神間!高垣!」

 小走りに、彼らに近づく。

 「どういうことだ。まるで空爆されているようじゃないか!」

 「まさにそれよ。寺崎君」

 その時、ニンギョウが正面に両手を伸ばす。

 ドスンと鈍い音とともに、手の先から何かが発射された。

 ゲームセンターなどに置かれている、中くらいのぬいぐるみ。

 空気を切り裂き、港湾に建つ小さな商店のシャッターを貫く。途端に大爆発。店舗が火を噴き、がれきを四方八方にまき散らす。

 再び発射される。今度は駐車場に。

 自動車が連鎖的に吹き飛んでいく。

 「成程な」

 「奴自体が、動く高射砲なのよ」

 手こずる中、突如ニンギョウが頭を抱え、悲鳴にも似た叫び声を発する。

 「タス・・・ケテ・・・クレ!」

 その声の主は、ニンギョウに内包されているプログラムなのか、それとも俵田と名乗る通り魔の魂なのか。

 「しかし、どうしてニンギョウは、俵田と名乗ったんだ?」

 「その答えは、横山が出してくれたさ」と寺崎が神間に言う

 「本当か?」

 横山が言う。

 「推測にすぎないが・・・論説は後だ!このままじゃ、避難している人たちにも被害が」

 深津は叫ぶ。

 「ささごいはまだか?」

 「間もなく到着するわ」

 刹那。

 ガシャン!

 頭上で、何かがぶつかる音。

 「まさか・・・」

 「ウソだろ・・・」

 全員が見上げて、自分の目を疑った。

 天に向けて伸びる糸が、滋賀県警のヘリコプターを絡めている。否、糸ではない。何十、何百とつなげられたボールチェーン。

 ニンギョウの右腕から放たれたそれを、ヘリが必死にあがいて抵抗する。

 だが、ニンギョウはびくともせず、腕を上下させ、獲物をもてあそぶ。

 「まずい!このままじゃ墜落する」

 眼下の警官隊も、無事じゃ済まされない。

 ヘリのバランスが、崩れ始めた。

 ―チェーンが火花を上げて、千切れた!

 「来た!」

 墜落の惨事を断ち切った、その正体。

 南の空から響いてくる、県警のヘリとは違う、重厚なローター音。

 サーチライトを湖面に照らしながら現れた、UH-60T ささごい。

 開いた両側ドアからせり出した、機関銃付きのアームが垂直に、機体下部に降りると、照準を合わせてボールチェーンを撃ったのだ。

 バランスを保ったヘリに、佐々木が無線で声をかける。

 「“ささごい”から県警ヘリ“おおとり2”へ」

 ―――こちら“おおとり2”。助かった。

 「ここからは、俺たちの仕事だ」

 ―――どうやら、そのようだ。

  メインローターがいかれそうだ。撤退する。

 「了解」

 ささごいの下を、旋回した県警ヘリがすり抜け、大津市方面へ飛び去る。

 ―――隼から“ささごい”へ。

 「こちら、ささごい」

 県警本部から、隼が無線を発する。

 ―――標的は、炎上する漁船の上だ。どういうわけか、意思を持つように、奴と同調して動いている。

 「まさしく、ゴーストシップ」

 ―――そうだ。現在、住民の避難が行われているが、間もなく完了する。

  それまで、奴の気を逸らしてくれ。本格的な攻撃は、それからだ。

 「あの化け物が、化学兵器を搭載しているというのは」

 ―――本当だ。それを考慮して、行動してくれ。

 「了解。給料分、働かせてもらいますよ」

 交信終了。 

 サポート担当に指示を出す。

 「射撃準備。奴を、沖合に誘導する」

 「了解」

 スタッフは、目の前のコンピューターをいじる。

 外部操作型の機関銃は、ウイーンと機械音を響かせながら、銃口をニンギョウの手前にセットした。

 「完了しました」

 「まだだ」

 上空でホバリングするささごいに、興味をひかれたニンギョウ。湖岸に向いていた漁船がクルリと向きを変え、ヘリの正面に。 

 「発射」

 規則正しい音に合わせて発射された銃弾。全てが船頭の水面に着弾する。

 しかし、反応がない。

 ヘリの轟音だけが、無駄に響き渡る。

 「!?」

 佐々木が、何かを感じ取った。

 操縦桿を握り、機体を後退させながら上昇。

 ワンテンポ遅れて、両腕をヘリに向けたニンギョウ。発射されたぬいぐるみが、先ほどまでいた上空で爆発する。

 はるか上空。砲撃すら届かない相手に向けて、ニンギョウは両腕を構えたまま、こちらを睨む。

 「そうか。そんなに遊びたいのか・・・行くぞ!ありったけの弾を、撃ちこんでやれ!」

 『了解』

 先ほどと同じ、いや、それより早いスピードで前進、降下しながら奴の上空を過ぎ去り、再度上昇、旋回。船舶右側に向けて銃弾をぶち込む。 

 再び上空をかすめた相手に向けて、砲撃を開始する怪物。

 機体のそばで爆発するそれを、華麗な操縦桿さばきで避けていく。

 その間に地上では、避難する車列が現場から次々と遠ざかり、負傷した警官を搬送するため、数台の救急車が戦場へ向かう。

 「すごいテクニック・・・」

 感嘆する高垣に、深津は叫ぶ。

 「こっちも応戦するぞ。準備しろ!」

 「了解」

 スパシオに走り寄る、トクハンの捜査官たち。

 車両後部に積まれていたのは、対妖怪用に作られた重火器や弾丸の数々。

 「また、ぎょうさん持ってきたな、横山」

 「出血大サービスってやつさ」

 神間は微笑しながら、銃弾の入った箱を取り上げ、銃創に装填した。

 それに続いて、それぞれが銃や弾に手を伸ばす。

 全ての準備が完了へと進む中、走り寄ってきた警官が、ゴーサインを上げた。

 「住民の避難は完了!負傷した警官の収容も終わりました」

 「よし」

 深津は手にしたショットガンのフォアエンドを、思い切り引いて叫んだ。

 「反撃開始だ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ