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階段を上がり、自分の部屋の前に戻ったレイラス。後ろをついてきた野々市に言う。
「ビデオの回収は、まだなのか?」
「はい。撮影者の鈴江自体が、どこにいるのかすら」
瞬間、レイラスは振り返り、鳩尾に膝蹴りを食らわせた。
声を漏らし、その場にうずくまる。
「使えないやつめ!
あの計画をビデオに撮影されるわ。持ち主すら見つけられないわ」
「申し訳ございません」
「貴様が、ニンギョウの起動に、恰好の環境と人物を見つけたと言うから一任したのだぞ。我々が見据えているのは未来だ。ここで“計画”が挫折すれば、来る“パーフェクトブルー”へのステップも遅れるのだぞ。それはイコール、シクツオミ様への冒涜となるのだ」
「はい」
レイラスは部屋に入ると、スーツケースをベッドに置き、開いた。
「まずは、あの女を黙らせることが、先決だ」
「FBIのですか?」
「いや。日本警察の、あの女だ」
「男は、口にはしませんでしたが、都古大学の学生です。あの女性は―――」
「成程、大学生で警察官」
「しかし、そんなアニメのような存在が、いるのでしょうか?」
「さあな」
そう答えるレイラスだったが、かつて幹部連中から、ある話を聞いたことを思い出した。
(日本警察には、オカルト関連の事件を捜査する専門のセクションが存在すると、誰かが話していたな。
こっちも力は弱いが、呪術師の家系の末端である手前、そういう話にはアンテナを伸ばしていたが。
・・・そうか。あの少女がそのセクションの捜査官。大学生にアルバイトをさせるとは、日本警察も落ちたものだな)
荷物をまさぐる彼は、肌着を取り出すと
(待てよ。本部からの情報だと、近江八幡で交戦した2人の巫女も警察官。それに、赤い巫女と彼女、口述での情報だから断定はできないが、容姿が似ている。・・・まさか、同一人物!?
そんなハズはない。日本のどこに、拳銃を扱える女子大生がいるというんだ!それに、手から刀を生み出したという、不確定な報告・・・建物外部にいた偵察班の話だから、どうせフェイクだろうが)
その途端、レイラスの中で恐怖がにじみ出てきた。
(それでも、武装した信者でさえ皆殺しにされた、あの現場から、彼女は生還している。ならば、あの女は、ただの警官でも、女子大生でもない!
あの女・・・手帳には苗字はわからなかったが“あやめ”とあったな。それに、もう1人いた桃色の巫女は妹の可能性と・・・)
レイラスは、手にしている肌着を、野々市の前でめくった。
黒く光る、オートマチック拳銃。
「グロック17だ」
「これで、あの女性を?」
「いや違う。あの女には妹がいるはずだ。そいつを探し出して射殺するんだ。
愛する家族が死ねば、嫌でもわかるだろう。異端が聖なる者を冒涜すると、どうなるか」
その言葉を聞いて、野々市は体を震わせた。
興奮ではない、恐怖だ。
「できないのなら、今ここで、お前を殺す。
シクツオミ様への罪滅ぼしができる、たった一度のチャンスだ。やってくれるな?」
選択の余地はない。
震える手を、どうにか押さえながら、野々市は拳銃を手にすると、ズボンに挟み、服で隠す。
「使い方は、研修で教えたな」
「はい」
「よし、行け。
ただし、ビデオの回収も並行するんだ。いいな」
恐る恐る部屋を出て行った野々市を見送ると、スマートフォンを取り出す。
「はい・・・はい・・・。
警察が接触を図ってきました。手は打っていますが、攻撃実行には影響はありません。後は、あのニンギョウだけですが。
心配はいりません。すべてはシクツオミ様のために」




