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 歯ぎしりするレイラス。リオは言う。

 「どうするの?」

 「・・・」

 何も発さず、目の前、コインが沈んだグラスを凝視していた。

 「そんなに見ていても、何も変わらないわ。話すか話さないか言いなさい」

 「・・・」

 「OK、じゃあ勝手にやるわよ」

 ガラス入りグラスを、他のテーブルに移し、1枚の写真を取り出し、見せつけた。

 「このぬいぐるみに、見覚えがあるわね?」

 その言葉に、あやめと大介は近寄り、リオの手元を覗き込む。

 写真にはピンク寄りの奇抜な色をした、ワニの形をしたぬいぐるみ。

 「そんな・・・」

 「知っているの?アヤ?」

 「ニンギョウのコアにいるヤツよ。間違いない」

 「連続殺人を犯しているって個体?」

 頷いたあやめに、リオは舌打ちした。

 「最悪ね」

 目線を元に戻した彼女。レイラスは逆に視線を逸らした。

 「一体、その人形は?」

 「答えてくださいな?」

 リオの言葉に、彼は狼狽するも、こちらを向こうとも話そうともしない。

 「では、私が答えますよ?

  これは集団自殺事件を起こした“バラゴンの聖骸寺院”が生み出した、強力なブードゥー人形。教団はアニマと呼んでいるけどね」

 『!?』


 リオは、詳しく話をしてくれた。

 それによると、聖骸寺院集団自殺事件の現場で唯一焼け残った地下倉庫から、奇妙な人形が詰まった木箱が多数見つかり、その場にいた捜査官が異変をきたした。

 本部からリオとハリーが呼ばれ、捜査に加担することになったが

 「現場に、おびただしい妖気が流れていたわ」

 リオはすぐさま、その妖気の原因が人形にあることを突き詰めた。直感的に危険なものであることを察した彼女はハリーとともに、傍にあった資料で人形の個数を確認後、すぐさま調査に回した。

 だがその時、資料と在庫の間で、2個の誤差が生じていた。何者かが2つ、外部に持ち出した。

 捜査官はおろか、教団関係者も手を触れた形跡は見られない。その事実を知ったリオは、エリスを経由してバチカンに、緊急事態を報告した。世界中にエクソシストを有するバチカンなら、対処ができると思っての行動だった。

 だが時すでに遅し、日本国内で連続殺人が幕を開けていたのだった。

 近江八幡の一件で、隼から事態を知ったリオは、単身日本に飛んできて、今に至る。


 レイラスは鼻で笑う。

 「そんな、おとぎ話―――」

 「知ってて、日本に持ち帰ったんでしょ?

  我々FBIは、現場から押収したアニマを多角度から分析したわ。日本が開発したI式妖気計測装置を使用したところ、数値は367Ipt」

 と、言われても、大介には理解不能。

 「それって、強いの?」

 「この計測方法だと、日本でオーソドックスな呪術人形、貴船神社の藁人形が100Iptだから」

 「それの3倍以上・・・つまり、すごく強力ってこと」

 「まあ、素人には、そう解釈してもらって結構」

 そう言われても、いまいちしっくり来ない。

 「“協力者”にも手伝ってもらったわ。いろいろと」

 イリジネアに関わる人間、ないしは妖怪ということだ。

 「このアニマは、日本の式神と酷似したものと判明したわ。術によって命を吹きこまれ、マスターの目的遂行のため行動する。それも殺人や破壊といった、邪悪な目的にのみ有効。

  その上、命令は遂行されるまで、一切のキャンセルを受け付けない。それどころか、一般的な銃弾や打撃攻撃は通用しないし、周囲にある類似した構成物―つまりぬいぐるみとか、その類ね。それを自分の中に取り入れて巨大化していく。

  私が見てきた中で、一番最悪な呪術用具よ。

  あなたたち萬蛇教は、何らかの犯罪計画を企て、そのためにこのアニマを使用した。それは現在進行中の連続殺人とは違う、別の計画。違いますか?」

 対峙する2人に

 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

 宮地がストップをかけた。

 「萬蛇教は、聖骸寺院と関係を持っていたんですか?あり得ない。だって、自分たち以外を異端とみなしている団体が、ほかの宗教に歩み寄るなんて」

 「歩み寄ったんじゃないわ。偵察よ。

  事件の起きる数か月前に、萬蛇教は信者を2人、スパイとして聖骸寺院に送り込んだそうよ。その1人がレイラス、あなたよ」 

 一瞬、狼狽はしたが、いつもの通り冷静を保つ。

 もう、認めたほうが楽なのに。

 「そんなの、知らないね」

 「いいえ。すでにネタは上がっているわ」

 「なに?」

 「潜入したもう1人の信者。このアニマを使って事件を起こしたわ。場所は南イタリアのアルベロベッロ。よりにもよって、私の仲間がいる国でね」

 そうか。いつもならすっ飛んでくるエリスが来ないのは、そういうことか。

 「彼が、吐いたのか?」

 「教団にとっては優秀なのでしょうね。スパイの事実を喋らず、奥歯に仕込んだ毒薬で自殺しましたよ。

  現在、地元警察とエクソシスト第5部隊主体の元、街の沿岸部を封鎖して対処中です。既に、17名の犠牲者が出ています」

 「・・・」

 レイラスは黙りこくった。

 「ならば、私がスパイをした事実は、存在しない」

 「そこで、我々FBIが出てくるのよ。

  聖骸寺院を脱走した信者たちに話を聞いたところ、集団自殺事件の6日前、アジア系男性2名が騒動を起こして脱走したことを知ったの。製作した似顔絵を基に、各方面に捜査をした結果、貴方たちが浮上したってわけ。

  私は、貴方を聖骸寺院集団自殺事件の重要参考人として、身柄を拘束することも可能ですから」

 この各方面に、CIAも入っているのだろうな。というより、完全にCIAオンリーだろ。

 ふと大介とあやめは思うのだった。

 世界一のスパイ集団を統括する組織に、脅しをかけられる女性だ。身柄を拘束されたら、どうなることやら。

 「ならば、そうすればいい」

 リオは、椅子からゆっくりと立ち上がり

 「そうした瞬間、お仲間のように自殺されるのがオチです。そうなれば、事件の根本的な解決などできない。

  このようなゲームを仕掛けていただいて、本当に好都合ですわ」

 話しながら、彼の右側に

 「貴方たち教団は、何を企んでいるのです?それと、あのニンギョウを止める方法は?

  これが、私の聞きたい2つの質問です」

 すると、レイラスは眼だけ動かして、彼女を見た。

 沈黙の後、口にした言葉は

 「黙秘だ」

 「なんですって?」

 顔をしかめずにはいられなかった。

 「聞こえなかったのか?黙秘する、そういったんだ」

 「自分の立場が分かっていないようね」

 「分かっていないのは、君たちだよ。何度も言うように、我々は異端者と口を利くつもりは、毛頭ないのだ。

  逮捕するならするがいい。拷問にかけるなら、どうぞ気のすむまで。それでも、私は喋らない」

 力説する彼の眼は、恍惚。

 再び前を向くと、テーブルに広がった銀貨を袋に入れ始めた。

 あやめが言う。

 「あなたが黙ったところで、野々市がいる」

 「無駄だ。そいつは、表面的なことしか知らない」

 「例え、爪の先ほどの情報でも、私たちには武器になる。ゼロからイチを生み出せるのなら」

 片付けが終わると、レイラスは立ち上がり、言う。

 「だとしても、私は何も言わない」

 「卑怯者」

 「自分で仕掛けたゲームだ。自分から無効を申し込んでも、文句は出ないだろ?

  ・・・では、そろそろ部屋に戻らせてもらうよ。なんせ僕は、このホテルの宿泊者だからね」

 萎縮する野々市を引き連れ、レストランから去ろうとするレイラスに、あやめは振り向く。

 すると

 「1つだけ言っておこう。ニンギョウによる連続殺人と、コース変更は、我々にとってもハプニングであったということを」

 「ハプニング・・・つまり、ニンギョウは最初から暴走していた?」

 「教団は最早、あのニンギョウを“計画”から除外した。既に“計画”は最終段階に入った。

  ニンギョウに気を取られて、グズグズしていると、もっとたくさんの死人が出るよ」

 不気味な笑い声を上げて、彼は部屋を後にするのだった。

 彼の姿が見えなくなり、全員は肩の力を落とした。

 「疲れたぜ・・・全身の神経が悲鳴を上げている」

 「落ち着くのは早いわ。ミスター・ダイスケ」

 リオの言うとおり。話題のニンギョウが、今現在、琵琶湖に出現中なのだ。

 「メイコ。今の様子、わかるかしら?」

 「待ってて」

 宮地が電話をかける中、あやめは、ホテルのウェイターに事情を説明していた。

 「そんな!」

 突然の声に、3人は驚く。

 「高垣さんからの報告によると、警官隊とニンギョウが交戦中。こちら側に、甚大な被害が」

 「冗談でしょ?」

 「奴が出現した長命寺港周辺に、避難指示が出されたわ」

 にわかに信じられなかった。というより

 「どういう状況なんです?」

 「情報が錯綜していて、よくわからないそうよ」

 横から、あやめが聞いてくる。

 「ささごいは?」

 「もうすぐ、現場上空に到着するわ」

 武装させたヘリコプターを向かわせるなんて、普通じゃない。

 あやめは、宮地に言う。

 「念のため、ほかのヘリコプターも、いつでも発進できるようした方がいいかも」

 「そうね」

 胸騒ぎを覚える、彼女たち。

 一体全体、どうなっちゃっているのか!

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