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PM6:10
京都府木津川市
トクハン本部 地下格納庫
捜査に使用されるマシン、装備を保管する格納庫。その一角に駐機する一機のヘリコプター。
青いボディに白いラインが一筋。
UH-60 ブラックホークをベースに、対妖怪犯罪捜査用に製作された、多目的輸送・攻撃ヘリコプター、UH-60T “ささごい”。
普段は捜査員の移動や人命救助に使われるが、今回は武装命令が下っている。
トクハン専属の整備スタッフが走り回り、両扉に何かを取り付けている。
12.7m外部操作型重機関銃。“武装偵察”が命令として下った際に装備される武器だ。
妖怪といっても、すべてが今までのような、人と同じサイズとは限らない。一部から怪獣とも呼称される大型妖怪も、少なからず存在している。そのための武装である。
そんなヘリに歩み寄る3人の人影。その中心にいる男はパイロットの佐々木。元陸上自衛隊所属のエリートパイロットだ。
トクハンの中でも、ヘリや水上艇などの機械を扱う「整備班」と「攻撃班」。彼らは自衛隊の精鋭メンバーから選出されており、今回のような武装出動の際は原則、防衛省に管轄が移行され、彼らと共同で現場指揮を執る。
佐々木はコックピットに乗り込むと、一緒に乗り込んだサポート担当に、慣れた手つきで計器をいじくりながら話しかける。
「攻撃許可は?」
「既に出ています」
「いやに早いな」
「自分たちに都合の悪いことは、さっさと蓋をしたい。そういうことですかね?」ともう1人。
佐々木は微笑して言った。
「自分可愛さで、世の中は上手く回る、か。三宅島の時も、これくらい早くに許可を出してほしかったぜ」
計器調整が完了し、ヘッドマイクを付ける。
「こちら“ささごい”。発信準備完了」
―――管制ルーム了解。
「現在の状況は?」
―――現着している警官隊、並びに水上警察隊に被害多数。付近住民に避難指示が出されました。
「了解した」
佐々木はマイクを手で遮ると、2人を鼓舞した。
「さあ、給料泥棒に舞い込んだ、久しぶりの仕事だ。やるぞ」
2人のサポート担当は、頷きあう。
―――目標ポイント、北緯35度155分、東経136度055分。滋賀県近江八幡市長命寺付近。
給油完了。最終点検、異常なし。気を付けて。
「ありがとう。ささごい、テイクオフ」
地下の巨大空間に響く警報音。
給油車が離れる。作業員が足早に、近くのエレベーターに乗ると、地上へ避難する。
ガコン!
床からせり出してきたカタパルトが、機体を持ち上げて、固定。
まっすぐ伸びたレールの上をゆっくりと走り、正方形に区切られたヘリポートブースへ移動する。
Hの文字が記された白いサークル。その中央に機体がゆっくりと降ろされると、来た道を素早くカタパルトが後退する。
間髪入れず、微かな振動の後、ヘリポートが天井向けてせり上がる。
「ゲート3、オープン」
無機質な声が響く中、青い鷹はそのまま、上へ上へ。
一方、地上。ヘリの真上は、駐車場となっている。閉館となって利用客もいない今は、雑草がアスファルトを突き破り、荒れ放題・・・というのは見せかけ。
広大なパーキングの一角が、2つに割れたかと思うと、アスファルトが直立、地面へと沈んでいく。
真下から光の差す穴。ぽっかり空いたそこから、ささごいが姿を現した。
ガタン!
ヘリポートが固定され、安全灯が灯る。
漆黒の闇に響く唸り声。ヘリのローターが回り始め、プロペラが回り、周囲に風を巻き起こす。
「GO!」
佐々木がレバーを引く。
ささごいは、その重い機体を持ち上げ、慎重に、かつ素早く、夜空に舞い上がった。
機首を下げ、加速の体勢を取ったヘリは、旋回しながら北への進路を取るのだった。




