表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/100

38

 PM3:56

 奈良・都古大学 部活棟1階


 間もなく学祭ということで、慌ただしさに拍車がかかる今日の部活棟。

 文化研究サークルのボックスで、あやめは隼と電話をしていた。

 「やはり、旧日本軍の忘れ物ですか」

 ―――そっちはどうだ?接触するつもりと聞いたが。

 「まだ、対象の車両が現れていませんから」

 ―――危険過ぎやしないか?

 そう聞くと、あやめは微笑した。

 「修羅場を潜り抜けてきた場数なら、誰にも負けないって自負していますから。絶対、上手くやりますよ。

  そちらは、どうですか?」

 ―――うむ。未だ奴は姿を現さん。滋賀県は、市民の目の見えないところで、一触即発の事態だ。

  今はニンギョウの怨念の原因となった敦賀通り魔事件の再捜査、それと、宮地が警視庁に向かったよ。

 「公安ですか?」

 ―――萬蛇教を敵視していたガイラ教は解散したものの、現在も名前を変えて生きている。

  今回、萬蛇教が行動を開始したことが確認されたとなると、必然的にガイラ教も動きを見せるだろう。

  奴らが何らかのアクションを起こしていれば、公安も目を光らせるからな。それに、宮地は公安に強いパイプを持っている。

  それに・・・。

 「―――そう、ですか・・・ええ、そのまま奈良へ」

 

 

 同時刻

 2階 学生執行部ボックス

 

 メンバーが仕事を、そこそこ忙しくこなす中、大介は作田と話していた。

 「例のレビン?」

 「彼の探していた生徒を見つけてね、少し話がしたいんだ」

 作田はノートパソコンに向かい、話しながら書類作成をしていた。

 「今のところ、あの車が来たって話も、苦情も無い。そろそろ、仕事が実行委員会に移行されるから、詳しい話は、そっちで聞いてもらうことになるけど」

 そう言い終えた時、後ろの長机で認印の判子を押していた男が呟いた。

 「レビン・・・そいつ、外部生の奴か?」

 彼は史学科3回生、瀬島徳喜せじまとくよし。執行委員長だ。

 「そうですが」

 「最近、外部生に関わった生徒が何人か、学校を長期欠席しているという噂を聞いてな」

 「何ですって?」 

 彼の中で、嫌な予感がした。

 野々市本人も、長期欠席の期間に、教団に入団し、洗脳された可能性が高い。否、既に確信に近い。

 「特に、彼の周りには女子が多く集まっていたそうなのだが、こっちは分からん。カノジョの出来ない卑屈な童貞どもの戯言かもしれないし。

  おっと、所帯持ちには関係ないことか」

 にやけて冷やかした彼は、傍のマグカップに手をかけた。

 人気深夜アニメのヒロインが刻印された、彼専用カップ。皮肉にも、彼もまだ、おひとり様だ。

 「お言葉ですが、私と姉ヶ崎は、そういう関係ではありませんので」

 「でも、よく一緒にいるじゃないか。隠さなくても、いいんだぜ」

 その時、ドアを開けた1人の声が、大介の耳に届く。

 「ちゃんと注意したのかよ。あの白い車、また停まっているよ!」

 「その件でしたら、再び注意をいたしますので―――」

 振り返ると、作田が大介の肩を叩く。

 苦情を言ってきたのは、昨日、執行に同じ文句を言ってきた体育会の関係者。

 彼が去ると、作田はその場にいたメンバーに言う。

 「大丈夫だ。俺が対応する」

 後輩を仕事に戻るように促すと

 「一緒に行こうか?」

 「いや、いいよ。ただ話をするだけだから」

 「そうかい?じゃあ、キミに任せるよ」

 「おう。仕事頑張ってな」

 笑みを作り、手を振りながらボックスを去る。

 ドアを閉め背を向けると、スイッチが入ったように、大介の顔から笑みが消えた。

 完全臨戦モード。

 すかさずスマートフォンを取りだすと、ダイヤル。

 「あやめ、例の車が現れた。

  ・・・分かった。正面玄関で落ち合おう」

 その瞬間

 「待ってくれ」

 目の前を、野々市が通過した。

 姿を隠す暇は無かったが、2人の間にある喫煙所、そこに群がる生徒たちの御蔭で、ある程度目くらましになっていた。

 最も、向こうはこちらに気付いていない。

 その表情は、以前会った時と変わり、強張っていた。

 「今、目の前を野々市が通過した。恐らく映研のボックスに向かったようだ」


 「そのまま、彼を監視して!

  麗奈先輩と青柳君には、彼が来たら一報入れるようには伝えているけど。大介は、部屋を出てからも尾行を。気付かれないように、細心の注意を払って」

 ―――了解。

 ケータイを片手にボックスを出たあやめは、駐輪場を突っ切り、レビンの傍に。

 大介の言っていたことを確かめるためだ。

 その車は駐輪場入り口前に、ボンネットを南へ向かせて停車している。

 スモークで車両の内側は見えなかったが、他に誰もいないようだ。

 ゆっくりと近づいて、横目に車のエンブレムを確かめる。

 (確かに、萬蛇教のマークね)

 そのまま車を追い越すと、立ち止って手にしたケータイを開く。

 カメラ機能を作動させると、回れ右で来た道を引きかえす。

 そして―――

 カシャッ!

 去り際、ケータイを仕舞う素振りを見せながら、さりげなく車のエンブレムを撮影。

 ケータイの着信内容を確認し、来た道を引き返した。そう周囲に見せかけて、彼女はケータイを折りたたむと、小走りに進路を左へ。

 ラウンジを突っ切り、泉の広場を横切って教室棟。その脇にある通路を通って、学生専用駐車場に。

 レパードに乗り込むと、そのままケータイを手に、大介からの着信を待った。

 2分、3分、4分・・・。

 不意に鳴る着信に、即座に答える。2コールすら許さない速さで。

 ―――出るぞ。先回りして、そっちに向かう。

 「了解。車を回しておくわ」

 静かに答えて、そっとキーを回した。

 命を吹き込まれたレパード。その青い体を動かして。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ