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 同時刻 

 滋賀県警本部 資料室

 

 息子、大介に頼まれた野洲市の事件の問い合わせの対応が終わると同時、対策本部にいた寺崎から連絡が入ると、協力してもらっていた女性警官にその場を任せ、本部に戻った。

 対策本部には神間と高垣が。

 「どうした?」

 「ニンギョウが、どこでマスタードガスを手に入れたのかが判明しました」

 神間が言う。

 「萬蛇教が仕込んだんじゃないのか?」

 「峰野からの報告です。

  姉ヶ崎に頼まれて、琵琶湖で船舶輸送を運営していた会社の社史を調べていたそうなのですが、近江日報の電子版記事に、気になる記述が」

 「電子版?」

 首をかしげる隼に、県警本部の碇警部が言う。

 「インターネット配信されている新聞ですよ」

 「俺も、ついに年かな?」

 「私も最近、若いのから教えてもらったばかりですから。お互い様です」

 高垣が話を進める。

 「記事によると、つい最近発見された琵琶湖汽船の百年史に、旧日本軍が琵琶湖に、特殊兵器を投棄したとの記述が見つかったと」

 「確かか?」

 「既に、岩崎さんが、本社に向かいました」

 岩崎刑事。年配の刑事なのだが、実は伊豆事件の最中に盲腸で倒れ、大事を取って休養を取っていた。

 1時間後、そんな彼から、電話がかかってきた。

 「イワさん。どうでした?・・・高島?」

 

 PM12:36

 滋賀県高島市 


 県北西部、湖西地区にある都市。日本のさくら名所百選にも選ばれた海津大崎の桜や、野坂山地の森林と自然豊かな場所である。また、大手百貨店の高島屋の名前も、この地名から由来している。創業者の義父が高島の出身であることから、この名前が付けられたそうな。

 琵琶湖に面した駐車場。黒の日産 インフィニティが停車し、その車内で岩崎刑事が話していた。

 重傷を負ったあやめと同日に退院し、大事を取っていたが、この事件が起きたので、少し早く現場復帰を果たしていた。

 「ええ、そうです。そこにある、琵琶湖バイオ研究センターに」

 ―――研究センター?どういうことです?

 「大津市の琵琶湖汽船本社に出向いたところ、確かに、特殊兵器の事象は、社史に記載されていました。

  社史での項目は“特殊X砲弾の湖中投棄”。

  その是非を確かめるため、阪神大学の研究チームが、このバイオ研究センターと合同で調査をしたんです」

 ―――それは、いつ?

 「半年ほど前だそうなんですけど」

 岩崎は、手帳を開いた。

 「社史によると、“特殊兵器は昭和20年9月上旬、大阪枚方にある砲兵工場から新唐崎港に輸送され、長さ35センチ、太さ8センチ、重さ3キログラムの砲弾で、それがトラック1台に、50個は積まれていた。

  投棄が火急に、夜陰に乗じて行われたことなどから、軍事機密に属する新型爆弾ではないかと推測される。”と記載されています。

 ですが、この時輸送したトラックは何台だったのか、どの辺りに投棄されたのか、そしてこの砲弾が何だったのか、正確な記載がされていないんです。

 しかし専門家の多くが、これは毒ガスであった可能性が高いと」

 ―――根拠は?

 「生き残った枚方砲兵工場の作業員数名の証言です。

  “終戦直前、来る米軍との本土上陸決戦に備えて、あの工場できい剤-マスタードガスを製造していた。”

  太平洋戦争時の大阪について調べていた高校の社会科教諭が、親交のあった阪神大学の教授に伝え、学会で発表したんです」

 ―――それで、同じ大学が調査を。

 「戦時・戦後を研究していた歴史家たちは、この社史や地域史、当時の社会情勢などから、砲弾は大津市の和邇わに沖に沈められたものとみていたんです。

  ですが、正式な調査の末、砲弾らしき金属物質が、近江八幡市沖島の北東10キロ地点に投棄された可能性が高いという結論を出したんです」

 近江八幡。ショッピングセンター襲撃事件が起きた都市だ。

 その沖合にある琵琶湖最大の島が、沖島。通り魔の俵田が潜伏していた竹生島とは違い、現在も約350人が住む有人島。

 状況からしても、合致する。

 ―――つまり、そこにマスタードガスが?

 「そう言いたいんですが・・・」

 岩崎は言葉を濁した。

 「警部は、琵琶湖が環境破壊に悩まされていることを御存じで?」

 ―――ニュースで聞いたことがあるよ。

  昭和30年代後半に沢山の工場が建てられて、その汚水が流出。また、生活排水の垂れ流しも合わさって、アオコや赤潮が発生する深刻な水質汚染が引きおこされた。

  その後、琵琶湖富栄養化防止条例が施行され、人々の懸命な取り組みで、なんとか改善はしているようだけど。

 「その水質汚染が、厄介の種でして・・・投棄された砲弾の上に、大量のヘドロが蓄積していることが判明したんです」

 ―――何だって?

 「正式に調査するとなると、莫大な費用がかかる上、下手をしたら湖底に溜まったヘドロをかき回し、その上砲弾が破損した場合、深刻な環境問題が起きるということで、それ以上の調査は行われず、終了したんですよ。

 唯でさえ、政府は湖中放棄の事実は認識していませんからね」

 ―――そっか・・・イワさんは、この事実、どう見る?

 「十中八九、本当の事でしょう。現に、似た事例が全国で報告されているとなると」

 ―――分かった。こっちに戻ってきてくれ。

 「了解」

 岩崎は電話を切ると、車のエンジンをスタートさせた。

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