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10月2日 AM10:04
都古大学
何故か知らないけど懐かしい。兎に角懐かしい。
大介は秋風の中、大学へ登校した。
今日は土曜日。
「ああ、帰ってきたぜ。俺の学び舎」
そこへ友人、釘宮が彼を見つけて近寄る。ラケットの入ったケースを右肩にぶら下げて。
「久しぶりだな。百万年会ってない気がするぜ」
「それは言い過ぎだろ?これから授業か?」
「今から2限目だけね。テニス部の練習も終わったし。お前も?」
「いや。南條先生の所に行ってくる。休んでいる間の資料を預かってくれているそうだから」
釘宮は校舎の方に、目を向けた。
「へえ。あの南條先生が」
「あの人って、ここに来る前に大阪府警に勤務していたって言っていただろ?
それ以来、ウチの親父と親交があるんだと」
驚きながら頷く彼、次いで
「なあ、姉ケ崎は?5日前の三保半島の事件で怪我をしたって聞いたけど」
「ああ。結構な大けがだったんだけど・・・」
そう、犯人を追いつめるため身体も精神も削った。人間だったら再起不能なレベルまで。
彼女が妖怪のハーフで、その特徴である強い治癒力が幸いしたのだろう。
その時、大学正門の坂を見慣れない車が上ってきた。
「アレ、誰の車?」
「さあ?教授じゃないな」
「まさか・・・」
その車は、ダークブルーツートンのニッサン レパードF31型。10年以上前の車。
2人の前を通過すると、傍の学生用駐車場へ。停車した車の運転席にあやめが。
「あやめ!」
「え!?」
ラフな私服の彼女は、窓を開けると顔を出すと、笑顔で
「皆さん、お元気ですか?」
「あやめ・・・それ、車種違う。ってか、古い」
「・・・失礼します」
再び車の中へ。
「・・・あれがしたかっただけか?」
「さあ?」
ドアが開き、ラフな私服に身を包んだあやめが降りてきた。
大介と釘宮が、彼女に近づく。
「釘宮君。久しぶり」
「どうしたんだ、この車。いつものZは?」
「伊豆で結構ひどい目に遭ったからね。防弾ガラスも車体もボロボロ。おまけに、もうすぐ車検だから修理がてら専用工場に出したの。そこの代車」
大介が言う。
「代車って・・・前世紀の車だぜ」
「あら?パワーはあるし、Z33に劣るけど防弾装備もある。古い車だからって、見下しちゃいけないわ。それに、対妖怪犯罪用ってなれば、使える車は制限されてくるしね。
用意されていたのは、この後期型レパードか、ガゼールか」
「そうか。
って、何で古い車ばっかなんだよ!」
鍵穴にキーを差し込み、ドアをロックする。今では見る事の出来ない光景。
「さて、早く南條先生の元に行きましょう?」
「そうだな。これが終わったら、飯でも食べに行かないか?」
「いいわね」
「釘宮も来るか?」
「聞かなくても」
その時右手、大学院棟側の道路をとぼとぼ歩く人物の姿。
「おう、鈴江じゃないか!」と釘宮は手を振った。
鈴江と呼ばれた人物は、控えめに手を挙げて声にこたえる。
「誰?」
「英会話のクラスで、隣の席なんだ。確か映像研究サークルに入っているハズ」
釘宮は鈴江に近づき、話す。
「授業は終わったのか?」
「うん。まあね」
「これからさ、昼飯でも食べに行こうって話をしてたんだけど、どうだ?」
「ゴメン。これから用事があって、実家に」
彼は両手を合わせて頭を軽く下げた。
「実家って、長浜だったよな」
「ああ、それじゃあ」
再びとぼとぼとした足で、坂を下って行った。
その姿に、釘宮は首をかしげる。
「どうした?」と大介
「いや・・・実家に帰れるって言うのに、やけに元気がないなって」
「親と喧嘩でもしたんだろ?
早く行こうぜ。授業に遅れちまう」
3人は校舎正面玄関へと歩き始める。
だが、あやめは再び振り返る。
(なんだったの?さっきの嫌な感じは)