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 彦根城とライカル近江で、大介たちを襲った連中の正体。

 そいつは西暦1990年に、当時流行のヨガ愛好団体からスタートした。

 のちに、宗教団体と変わったグループの名前は、正式名称を「萬蛇まんたみぎわの福音教団」、通称「萬蛇教」とよばれる教団である。

 教団のトレードマークは―――

 「エコマークに似た、地球を羽の生えた輪っかが包んでいる模様」

 「あのバッジ!」

 「そうよ。

  教団の幹部構成と信者数は、現在も不明。分かっているのは下に8人の幹部、4人の大幹部がいて、教祖は信者全員から“師”と言われている」

 大介は聞く。

 「それじゃあ、教祖の正体は?」

 「不名」とあやめ

 宮地は続けた。

 「萬蛇教の教義は1つ。世界中の宗教が崇拝する神様、ないし預言者は、大洋に身を置く“シクツオミ”という神様から生まれており、その神様を信仰することによって、世界平和が生まれる、と」

 「聞いているだけで、吐きそう」

 「現に、彼らの本部は、瀬戸内海に浮かぶ小島にあったし、支部を沿岸部に建立していたからね」

 「でも、そんな世界平和を謳っていたところが、どうして?」

 すると、プロジェクターの画像が変わった。

 「1つは、教団内の盛り上がりが異常なまでに上昇した事。そして、同時期に作られた、とある宗教団体に、信者を取られていったため」

 「・・・ガイラ信聖教」


 同じく1990年にヨガ愛好団体として発足したこちらの教団は、大規模なプロパガンダの御蔭もあって、瞬く間に成長していった。

 静岡県裾野に大規模な教団施設を建立し、信者をそこで修行させる程。そんな彼らは、教祖の東京都知事選の落選をきっかけに、終末論を持ちだし、暴走を始めた。

 修行と偽って洗脳した信者たちに、教祖が犯罪を指示していった。“聖戦”という名目で。

 自分たちを否定する教授や弁護士、その一家すらまとめて惨殺しただけでなく、最終的には、化学兵器であるサリンを製造して、長野県の大都市と、ラッシュで混雑する東京の地下鉄にばら撒いた。

 彼らの犯した最大の犯罪、西暦1995年3月20日に発生した「地下鉄サリン事件」は、世界で初めて化学兵器が使用された、たった1つの事例である。

 その後、警視庁は全国の教団関連施設を家宅捜索。それから2か月後には教祖と地下鉄事件の実行犯を拘束した。

 だが、事件から10年以上経つ現在でも、3人の実行犯は捕まっておらず、事件の被害者は化学兵器の後遺症とPTSDに苦しんでいる。無論、未だに洗脳が解けていない信者もまた、被害者である。


 「彼らも、終末思想を?」

 答えることなく、プロジェクターにリモコンを向ける。

 「彼らの掲げた思想は、これよ。

  教祖曰く、間もなく世界はシクツオミによる天変地異に見舞われ、大陸のほとんどが海中に没する。人類の間で大陸を巡る人種間戦争が起こる、と」

 「まんま“ウォーターワールド”じゃねーかよ」

 「その戦争を回避する方法は1つ。全世界の宗教を破壊と、自分たち以外の人類の絶滅」

 その瞬間、大介は息をのんだ。

 自分たちを“異端”と呼んでいた理由は、これだったのだ。

 が、一方で疑問が持ち上がった。

 「そこまでわかっているのなら、どうして当時の日本警察は対処しなかったんです?」

 「分からなかったんだ。今まで私が言った情報は、教団が葬られる寸前に判明した情報よ。

  彼等は、宗教団体になって以降、その行動範囲は閉鎖的になっていったの。信者は、他者との関係を一切断ち切り共同生活を行っていたから、脱出する信者もいなければ、発言する人間もいなかった」

 「全員が絆で結ばれていた・・か。それにしても―――」

 「マスコミとかが気付いた?でしょ?

  この頃のマスコミは、1980年に教祖が複数の女性信者と蒸発した「メガロの神殿事件」以降、新興宗教団体に対する報道は、どちらかと言うと控えめになっていたのが現実でしたから。

  マスコミすら気づかない事を、警察すら気づいていたとは思えない」

 あやめの言葉に、大介は口を閉じた。 

 「そんな水面下、いや深海の底深くで、見向きもされない暴走が牙を剥いた。

  教団は、全国で建設が進む人工島や新都心地区を、日本政府が戦争からの脱出を企てていると見なして、信者に破壊を命じたの。

  第一の標的は、神戸のポートアイランドと、大阪の関西新空港。

  ガソリンと劇薬を搭載した、何十台という数のタンクローリーを向かわせて、一斉に爆破するという攻撃を行った。でも、それは突然のハプニングで、失敗に終わった」

 「ハプニングとは?」

 「彼らの作戦開始日は、西暦1995年1月17日」

 「阪神・淡路大震災か」

  正式名称を兵庫県南部地震。兵庫県南部を震源としたM7.3の巨大地震。死者約6000人、負傷者約43000人を出し、神戸を中心に壊滅的な被害を生んだ。

  宮地によると、タンクローリーの車列は震災発生当時、神戸市内を移動中だったとの事。

  大規模な揺れでコントロールを失う、あるいは崩壊した高速道路から放り出されるなどして、全ての車両が壊滅。一部は爆発し、住宅街に延焼。あの大規模火災を引き起こしたのだ。

 「それでも、教団曰く“神が行った天罰”と位置付けたそうよ。現に、液状化現象でポートアイランドは壊滅的な被害を被ったからね」

 「つまり、教団からしたら成功?」

 「らしい。

  さて、こうやって最初の攻撃を成功と位置付けた教団は、更なる攻撃を計画したわ。次の標的は東京の臨海副都心。今のお台場。攻撃方法は車両と船舶、工作員による自爆テロが計画されたそうよ。

  でも、この計画をいち早く知った連中がいた。ガイラ信聖教の連中よ。

  臨海副都心攻撃を知った彼らは、萬蛇教が自分たちに攻撃を仕掛けてきたと解釈し、以前から計画していた首都への攻撃を、突如前倒しして実行することを決めた」

 「それが“地下鉄サリン事件”の真実か」

 「そうやって言っているからね。逮捕された複数のガイラの幹部が」

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