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 10月11日 PM3:24

 奈良県奈良市 学研奈良登美ヶ丘駅


 ニュータウンとして建設の進む奈良市北西部の地、登美ヶ丘。近鉄けいはんな線学研奈良登美ヶ丘駅に、小鳥が降り立った。

 周囲は大型ショッピングセンターが1つポツンと建つだけ。未だ建設機械が稼働し、現在進行中の様相を見せる駅前。

 そのロータリーにタクシーに混じって停車するホンダ S2000。車内から出てきた宮地メイコが、彼女の元に向かう。

 「メイコさん!」

 彼女を見つけた小鳥も、走り寄る。

 「鈴江さんの様子は」

 「それが・・・」

 言葉を濁す宮地。

 「厄介なことになった。

  私たちが見ていない間に、彼が登美ヶ丘から、別の病院に移されたわ」

 「何ですって!?場所は?」

 「長浜総合病院。家族の意向で・・・どうやら、近江の事件の翌日に行った聴取が理由だったみたい」

 「つまり、実家で面倒を見ると?」

 宮地は頷いた。

 「分からなくもないわね。自分の子供を、あんな目にされたんですから」

 「長浜には」

 「大丈夫。県警本部に待機していた寺崎君に連絡して、病院に向かってもらったから。

  ・・・彼の実家と、下宿先は?」

 小鳥は答えた。

 「下宿先の西大寺の部屋は、何とか除霊しました。実家の方は、少し強引ですが・・・」

 「不法侵入?」

 その響きに、彼女は体をすくませた。

 「関ケ原にいる仲間に向かってもらいました。怪しまれないように、ガス会社の社員に偽装してもらって。相当、大変だったみたいですが」

 溜息を吐くも

 「まあ、いいわ。一般人に幽霊や妖怪の話をしても、信じてもらえないのが現実ですもの。不法侵入もやむを得ず。

  心配なのは、近江の事件でもしゃしゃり出てきた、奴らの攻撃・・・」

 小鳥は聞く。

 「何者なんですか?

  異端とかツクナンチャラとか言っていましたけど」

 だが、宮地は答えようとはしなかった。

 「あやめちゃん・・・あなたのお姉さんなんだけど」

 話題を変えると、今度は小鳥が顔を俯かせた。

 「まだ・・・ですか」

 「ええ。随分、自分の体を酷使していたみたいだから。

  いつ目を覚ますか、ケアマネージャーも見当がつかないって。

  大丈夫よ。すぐに目を覚ますわ」

 「心配なんです・・・だって、これが初めてじゃないんですよ。いつも事件でボロボロになって。それでも、あや姉は何事も無かったかのように、家の玄関に現れて・・・」

 「小鳥ちゃん」

 かけられる言葉が、見当たらない。

 「・・・いいですか?」

 弱弱しく言った小鳥に、宮地は自分の腕を後ろから彼女の肩に回すと、そのまま車へと一緒に歩くのだった。

 

 同日 PM5:35

 都古大学部活棟 文化研究サークルボックス

 

 大介は、サークルの部室ボックスで、要から話を聞いていた。

 昼とは打って変わって、清楚な淡い緑色の袴姿。和装サークルに話を聞きに行ったとき、拝借して着ているとのこと。

 まあ、そのことは置いておいて。閑話休題。早速、彼女の話を聞いてみることとしよう。

 「外部から?」

 「ええ。この学校って相互協定結んでいる大学が何校かあるでしょ?

  どの大学かは分からないけど、学生が1人、映像研究サークルに仮入部したって噂よ」

 「ちょっと待ってください。噂って事は、誰も学生を見ていないんですか?」と釘宮

 「そうなのよ。誰に聞いても見たことないって。変でしょ?」

 口に手を置いて、大介は言った。

 「確かに変だ。こんな閉鎖的空間だから、誰か外部の人間が入れば、すぐに分かるのに」

 「と言うことは、幽霊部員?」と釘宮 

 「その可能性が高いかもね」

 大介は少し考え、口から手を放して言った。

 「確か和装サークルの麗奈先輩は、映研の渡瀬部長と知り合いでしたよね?彼女から、何か情報は?」

 「それ聞いてきて、この袴を借りたんだけどね。

  大介君が、2人と居合わせた時があったじゃない?あの後から、麗奈が何回も、彼に事情を聞こうとしたそうなんだけど、何も。

  終いには、“編集が忙しくて間に合わない”と言って、最近は顔すら合わせていないわ」

 「そうですか」

 言い終わると、要は机上からマグカップを持ち上げ、コーヒーを一口。

 「あの2人、付き合っているんですかね?」

 「否定はしているけど、私から見て十中八九・・・“青鈍マジック”って知っているかしら?」

 「なんですか、それ?」

 「学祭の準備期間中って、どの団体も死ぬほど忙しくなるでしょ?そんな時期に、お互いを支え合ったり協力したりするうちに、異性の間に恋愛感情が芽生えて、ものすごいスピードで成長するのよ」

 「吊り橋効果みたいなものですか?」

 「そうそう!」

 要は、釘宮を指差して言った。

 「この一連の恋愛状況を、誰が言ったか“青鈍マジック”。

  ただ、成長も早いように、衰退も早いわ。このマジックで成立したカップルの9割は、学祭終了後、その熱が冷めて破局するの。

  まあ、私にできるのは、麗奈と渡瀬君の仲が、一過性でないことを願うだけだけどね」

 そんな他愛のない話の中、大介は部長を見ていた。

 学祭関連の書類に目を通していた雨宮部長が、首を傾げていたのが、気になっていたからだ。

 「どうかしたんですか?書類に何か不備でも」

 「いや、そうじゃないんだ。

  つい2日前だったか。映研のボックスから怒鳴り声が聞こえたような記憶がな」

 「本当ですか?」

 雨宮によると、2日前に映研の隣の文芸サークルのボックスに遊びに行ったそうだ。

 この文芸サークルは、学祭3日間、全く違うフレーバーのオリジナルカレーを販売するのが伝統であり、学祭の名物である。また、その味見を部活棟の人間にさせるのも、また名物然り。

 その最中に、怒号を聞いたそうだ。その声の主は、部活棟では聞いたことも無い人間。

 「なんか、映像がどうのとか、かくれんぼがこうのとか・・・」

 そう言われ、大介は頭にふとよぎるものがあった。

 「まさか、ひとりかくれんぼ」

 「確か鈴江は、その時の状況をカメラに収めていた・・・もしかして」

 全員が互いに見つめ合い、同時に口を開いた。

 『その映像を、まだ映研は回収していない!?』

 次いで大介は、質問する。

 「部長。それで怒号の主は見ましたか?」

 「そう言えば、白いワイシャツ姿の男が、ボックスから出ていくのを見たな」

 「白いワイシャツ?」

 「ああ・・・!!」

 不意に、部長が立ち上がった。

 「あいつだ!」

 そうドアを指差した。

 慌てて外を見た大介に、その姿はくっきりと見えた。 

 白いワイシャツ姿の男。そいつは部活棟を出て、駐輪場を横切っていく。

 「少し、話を聞いてくる」

 外に出て、尾行を開始。

 すぐに、意外な事実にも直面した。

 その男は、入り口近くに停車していた白いトヨタ スプリンターレビンに乗り込んだのだ。

 なんということだろう!一石二鳥とはこの事。

 と、1人盛り上がっていた、その時。

 不意に、肩を叩かれた。

 「お主も、オタクかーい?」

 某人気ゲームのキャラクターの台詞なのだが、この大学では挨拶感覚で飛び交っている。

 何せ、この大学は大手教育サービス会社の調査によると、「オタクな学生が多い日本の大学」のトップ5に入っているとのこと。

 その声の主の方を振り返ると。

 「作田?」

 少し背の低い、メガネの少年。

 大学執行部-中学高校では生徒会に相当-のメンバーで、化学科1回生 作田純弥さくたじゅんやが現れた。

 「どうしたん?」

 「あの車に用があってね」

 「レビンか?」

 作田は頷き

 「駐輪場の前に停車しているって、苦情が来ているからね」

 「待てよ。今の時期は、学校内の揉め事は学祭実行委員に、仕事が委任されているんじゃないのか?」

 「それは学祭1週間前からの話。まだ通常通り、執行のお仕事」

 すると大介

 「あの車、持ち主は特定できているのか?」

 「この学校の学生ではないのは分かっている。だから、車が現れるまで待っていたんだ」

 「俺も、いいか?あの車に用事がある」

 「ご自由に」

 2人は、車へと歩み出した。

 丁度、シャツの男が車に乗り込むところだ。

 「すみません」

 作田が話しかけると、その男は振り返った。

 顔つきから、明らかに2人より年上。

 「はい?」 

 「学生執行部ですが、ここ、駐車禁止なんですが」

 「ああ、御免なさい。すぐに移動させますね」

 「とりあえず、学部と名前を教えて頂けますか?」

 そう言って、メモ帳を取り出した。

 「野々市孝太ののいちこうたです。

  許してくれませんか?私、外部受講生で・・・」

 「外部・・・学校は?」

 ついに大介が口を開いた。

 すると彼は怪訝な顔をしながら、答えた。

 「関西芸術産業大学。第二芸術学部。ここには、文化財の勉強に」

 芸術大学としては、関西では一流の大学だ。

 「成程・・・野々市さん。この場所に車をよく停車していたみたいですけど、どこか部活に所属しているんですか?例えば・・・映研サークルとか」

 カマをかけた。

 相手は顔色を変えない。

 「いいえ。ラウンジが近いからですよ」

 「そうですか・・・!?」

 その瞬間、大介は何かに気付いた。

 (まさか・・・いや、これで揺さぶりをかけてみるか?)

 「そう言えば、あなた達1回生?」

 「ええ」

 作田が答えた。

 「ここに通っている鈴江楓太って学生を探しているんですが、何か知りませんかね?

  以前に学食で、彼から500円借りたものですから」

 その瞬間、全てを察した。 

 嘘だ。この男は、鈴江を探しているが、理由はそうじゃない。

 (やはり、彼は回収しに来たんだ。1人かくれんぼの一部始終を収録した、あのビデオを!)

 「いえ、知りませんね」

 大介が思考回路を巡らせる中、作田は答えた。

 (考えろ。こういう時、あやめなら、どう動くのか)

 シナプスが彼の脳内で、警鐘を鳴らしながら走りまくる。

 この先のシナリオに、ゲームのように選択肢は現れない。

 「あなたは?」

 その男の微笑した顔。まるで突き付けてきた挑戦。

 全て統合された答え。それは―――。

 「いやー。心理学科では、そんな奴聞いたこともありませんわ」

 表情を少し崩して、彼に答えた。 

 彼の反応はドライだった。

 「そう・・・ですか。あ、すぐに移動させますね」

 そう言うと、野々市は運転席側に移動すると、レビンのエンジンをスタートさせた。

 近くで見ると、改めて分かることもある。

 車高が少し低いし、マフラーも改造されている。

 スモークで車内を遮ったそいつは、バック走行で外へと出ていくのだった。

 「ナンバーは・・・よし、記憶した」

 「どうしたんだ?」

 不審がる作田に、大介は言った。

 「いや。ただの思い込みだと思うんだが、知り合いの学生が、あの車に後をつけられているって」

 「そうなのか?なんなら、こっちで調べて、学生課にでも通報しておこうか?」

 「いや、いいよ。ただでさえ、執行は学生大会を控えて忙しいだろ?」

 その言葉を出すと、頭を抱えた。

 「変なことを思い出させるな。これから、意見書をまとめにゃならんのに・・・じゃあな」

 そう言うと、作田は部活棟に引き返していった。

 去り際

 「なあ、彼の探していた鈴江って、何者なんだろうな?」

 「さあね。

  執行で探そうとするなら、止めておけよ。プライバシー云々で、学生課の職員から叩かれるのがオチだからさ」

 「・・・だよな。悪かった」

 右手を振りながら、作田は大介の視界から消えた。

 あかね色の空。仰ぎながら、大介は呟いた。

 「あやめ。後は、キミの回復が頼りなんだ」

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