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25

 

 同時刻

 近江八幡駅付近検問。


 1台のメルセデスベンツ S600。その漆黒の体が、封鎖された不夜城へと近づいていた。

 対策本部の置かれていたバスの傍に止まると、後部ドアが開く。

 降りてきたのは、夜に同化しそうな黒いスーツの男。

 丁度バスから下りてきた柴村刑事が驚く。

 「なんだチミは!一般人が入ってきちゃいかんよ!」

 「中の様子はどうなっている?」

 「は?」

 「いいから答えろ」

 威圧的な態度に、柴村は答えなかった。

 「では、中にいる姉ヶ崎あやめに伝えろ。死んでも出てくるな、と」

 「なっ!?」

 柴村は驚いた。突然来て変なことを言う男、得体が知れない。

 「現場にいる捜査員に、危険を冒せと?

  犯人は化学兵器を持って―――」

 「アレは人じゃない、モノだ。心配はない」

 「誰なんだ、お前は?」

 その男は無言で、スーツの裏ポケットに手を突っ込んだ。


 一瞬、目の前が暗くなった。ここが天国か。

 いや、違った。

 小鳥が顔を上げると、白袴が姿を現す。視界を上にあげると姉の顔。

 彼らはゲーム機の影に間一髪隠れることに成功。銃弾を交わしたのだ。

 しかし、間髪入れずに飛んでくる銃弾。

 3人が隠れたのは、入口すぐのショベルタイプのドーム型クレーンゲーム機が並ぶエリア。

 ドームが破壊され、受け皿部分に積み上げられたお菓子やミニカーの箱が、バラバラと落ちてくる。

 このまま隠れている訳にもいかない。

 「行くか?」と大介

 「ええ。あいつらが弾倉を入れ替える時、それがチャンスよ」

 「小鳥君はどうする?」

 あやめは、自分の妹の頬に両手を添え、眼を見て言った。

 「私が、何が何でも守る。

  大丈夫。絶対に殺させはしないわ」

 そんな彼女に、小鳥は頷いた。

 「信じてるよ。あや姉」

 微笑みで答えた姉。揺るがない眼差しを向ける妹。

 血がつながっていなくても“姉妹”という繋がりは強い。そう、大介は改めて感じるのだった。


 白スーツの連続射撃が止んだ。

 視界には穴だらけになったゲーム機。中には煙が出ているものも。

 「死んだか?」

 「いや、分からん」

 そんなやり取りの中

 「おい!」

 1人がゲーム機の影から、だらんと力の抜けた手が出ているのを見つける。

 ショベルタイプのドーム型クレーンゲーム機が並ぶエリア

 「女か?」

 「近づこう。生きていたらありったけの弾をぶち込んでやれ」

 「ああ。異端者は生き返る。そう“師”は言っておられたからな」

 2人の男は歩きながら、マシンガンの弾倉を取り除いた。

 カシャンと、弾倉が地面に落下する音。

 ―――気付く隙は与えられない!

 ドームを左腕を軸に、あやめが飛び越えてきた。

 2人が新たな弾倉に手をかけたと同時、右手に握ったショットガンを彼らに向けた。

 片手で絞った照準。それは恐ろしい程に正確。

 引き金にかけられた指が動くと同じ、白スーツの男の体は後ろに仰け反りながら倒れていく。

 彼らの立っていた場所。そこにゆっくりと降り立つ巫女。

 赤いスカート調の装束がなびき、そこから覗くブーツが地面を掴む。

 だが、彼らが全てではない。

 吹き抜け、左前方から別のメンバー3人。

 あやめが認知する前に、飛び出した大介、彼のショットガンが火を吹く。

 更に飛び出してくる刺客。それでも2人に焦りはない。

 すぐにフォアエンドを引いて、引き金を引く。

 「全く、害虫みたいに次々と」

 「そんなことも言ってられないわよ・・・小鳥、奴は?」

 「多分、あの状態だから身動きは取れないはず」

 あやめは冷淡に、大介に言う。

 「・・・大介、奴らをゲームセンターに近づけないで。

  連中の弾丸が奴に当たれば、この一帯は地獄絵図になるわよ」

 「了解。

  吹き抜けの先に、開けた場所があるよな?あそこにボックスみたいなのがある。そこを砦に」

 「異議なし」

 すぐさま吹き抜となっている建物内を走り、500メートルほど先にある開けた場所へ。

 そこにあるボックス。占いコーナーとして占い師が常駐する場所を盾に、敵を待ち構えた。

 近づく大勢の足音。来た!

 「いたぞ!あいつらだ!」

 「異端は殺せェ!」

 「撃て、撃てェ!」

 声高に叫ぶ彼らの血に飢えた瞳と、抵抗なく引き金にかけられる指。

 規則正しい音と共に、ウージーサブマシンガンから放たれる銃弾。

 壁に穴が開き、吹き抜けのガラス製の柵が割れ、店頭の服や品物が踊りながら舞い上がる。

 占い師のボックスが防弾となった。

 2人は相手の攻撃の隙を見ながら反撃を開始!

 あやめのショットガンが火を噴く度に、誰かが倒れる。命中率はあやめが上手。

 しかし、そこには不安要素があった。小鳥だ。

 (このまま一進一退の状況が続けば、小鳥を守ることができない)

 そう思いながら引き金を引いていた。

 「あやめ!」

 大介の言葉に振り返る。背後に銃を構える敵。

 ウージーで蜂の巣にされれば、いくら治癒力の強力な、妖怪の血が流れているといっても、即死は確実。

 ショットガンを向けるも、間に合わない。

 (やられる!)

 死を覚悟したその時。

 「え?」

 男の体が横に弾き飛ばされた。

 その空間を飛ぶ、白い玉。

 「あや姉!」

 視界には剣玉を持つ小鳥の姿。

 白い玉と黒い剣、彼女が持つ、もう1つの剣玉。それがあやめを守った。

 「小鳥!」

 「どうせ、私を守らなきゃって思っているんでしょ?

  全く、いつまでも子供じゃないんだから」

 「・・・」

 「心配無用よ!あや姉の背中は、私が守るから!」

 「・・・頼んだわよ」

 そう話す間に迫りくる刺客。

 銃を持つ連中はあやめと大介が、刀やナイフを構える連中は小鳥が倒していく。

 ドーン!

 「今度は、何!?」

 爆音の起きた方向はゲームセンター。しかも黒煙が立ち上る。

 「おい、まさか・・・」

 「その、まさかみたいね」

 2人、いや3人の恐れは、現実となった。

 煙の中から出てきたのは、4足歩行に変化したニンギョウだった。

 もがいている最中、剣の突き刺さった両替機が爆発し、封印が解かれたのだ。

 厄介なのが増えた。

 そう思う中、白スーツの男たちは全員、歓声を上げる。

 「生きておられた」

 「当たり前だ。あのようなお方が、異端者ごときにやられるはずがない」

 「さあ、こちらに」

 彼らの眼は輝いていた。ショットガンに撃たれたり、ケガをしているにも関わらず。

 白熱光の下、動きを止め見回すニンギョウ。

 その様はネコか、それともライオンか。

 正解が分かったのは、それから10秒とかかっていなかった筈。

 あやめ達には、それが長く感じた。

 4つ足で走り出したニンギョウ。近くにいた1人に向かうと、頭部に埋められたワニ状の人形の口から包丁が飛び出した。

 悲鳴が轟き、押し倒された男。鮮血が辺り一面に飛び散った。

 その紅の中からのぞかせたニンギョウ。ライオン、否、血に飢えた怪物は、脊髄反射で微動する人体を踏み越えて、獲物をマークした。

 「大介、小鳥・・・ここから逃げるわよ!!」

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