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 前回と同じルートで滋賀へ走るレパード。

 日の暮れたハイウェイ。赤いシングルランプが屋根で輝く。

 小鳥の親にも、連絡は済んだ。彼女とあやめの力に、理解をしてくれる母親だったことが有難い。

 だが、一抹の不安を大介は持っていた。

 「大丈夫かよ。陰陽師で力があることは分かったが、それでも一市民に変わりはないぜ」

 「平気。以前にもこういうのあったから」

 「だからって・・・」

 「その時に、私がいいって言うまで、動いちゃいけないって誓約、させたからね。

  いい?ちゃんと守るのよ」

 後部座席に座っていた小鳥は言う。

 「私は犬じゃないってーの!」

 その時、無線が叫ぶ。

 ―――特803。応答して。

 無線を引っ張る。

 「こちら、特803」

 声の主は、高垣刑事。

 ―――あやめちゃん?

  昨日、彦根城で遭遇したフォードの目撃情報が出たわ。

 「場所は?」

 ―――東近江ひがしおうみ市内の道路を、貴生川きぶがわ方面に。

    待って・・・最新の情報だと、車は近江鉄道京セラ前駅付近で消息を絶ったわ。

 そう言われ、大介は腕時計を見た。

 「午後7時・・・か」

 「目的地は信楽しがらき辺りかしら」

 ―――確認中だけど。どうやらフォードは、別の車を追いかけまわしていたそうよ。

 「まさか、犯人の車か?」

 「だとすると、盗難車の可能性が高いわ。特定は困難かもね」

 ―――これも確認中だけど、どうやら白のフォードは3台いたそうなの。

 おかしい。

 あの時、2人の前に現れた車のうち、フォードは1台だけだったはず。

 「何者なんだ、連中は」

 ―――それが、一日中捜査していても、情報は皆無。

    何も分かっていないってのが現状よ。

 「警部は?」

 ―――神間君と宮地さんを向かわせたわ。

 「了解。もうすぐ草津田上ICから、新名神に乗って先回りします」

 ―――いえ。2人は彦根署に。

    万が一があるからって、警部からの指示よ。

 「分かったわ」

 レパードはICを新名神ではなく、名神高速へ走り彦根市へ向かう。

 交通量が増えてきた。車間を開けるため、自然とスピードダウン。

 ふと、あやめは口を開いた。

 「長浜、米原、彦根、東近江・・・犯人は進路を南に取っているわね」

 すると小鳥。

 「どこか行きたい場所があるんじゃないかな?

  亡霊には、特定の場所に思い入れが激しい者もいるから。例えば生まれた家とか、自分が死んだ現場とか」

 「地縛霊とか?」

 「まあ、そんな感じ。

  今回の相手が向かうとしたら、目的地は鈴江さんの下宿先がある奈良市、あるいは都古大学のある高の原―京都・奈良県境周辺」

 背筋に寒いものが走る。

 「冗談はよしてくれよ」

 「あくまで可能性よ。どこへ行きたいのか、それは直接聞かないと分からないわ」

 そう言って、小鳥はカバンからペットボトルのバヤリースオレンジを取り出すと、一口含む。

 話が一区切りついたところで、次いであやめからの話題。

 「それ以上に気になるのは、彦根城で襲ってきた連中ね。

  統率のとれた動きに、武器の扱いに長けている。素人連中じゃないことは確かね。警官を射殺したのは、恐らく彼等。

  まず言えるのは、連中は、今回の連続殺人の犯人と面識があり、その犯行を応援している素振りがあること」

 大介は、頭に人差し指を向けて、考える。

 「なあ。あの時さ、連中が変なこと言ってなかったか?

  “今です!今のうちにお逃げください!”って」

 「どこが変なの?」と小鳥

 「いや、面識があるのならさ、丁寧語なんて使うか?」

 「犯人は、彼等より年長者なのかも。

  例えば・・・先生とか?誰かを敬っているのよ」

 その言葉に、何故か反応したあやめ。

 ハンドルを握りながら、呟く。

 「成程、先生・・・か」

 不意に、再度無線が鳴る。

 今度は隼直々の通達だ。

 ―――大介!今、どこにいる?

 呼ばれた本人が、無線を取った。

 「もうすぐ、竜王りゅうおうインターだけど」

 ―――そこを降りて、大至急、近江八幡おうみはちまん駅前のショッピングモールへ向かってくれ。

 その声は、深刻。只事ではない。

 「どうかしたんです?」

 雪女状態のあやめは、冷静に返す。

 ―――手配中のフォード エクスプローラーが、そのショッピングモールに突っ込んだ。大勢の負傷者が出てパニックになっている!

 「なんてこと・・・」

 ―――それ以上に気になるのは、突っ込んだフォードのボンネットには、大柄の人影が乗っていたそうだ。

 「ジャッキー・チェンのモノマネでもしてたか?」 

 と、おどける大介に父親は大声で

 ―――真面目に聞け!

    体格は、お前が彦根城で遭遇したのと、全く同じだそうだ。

 その言葉が、何よりの脅しだ。

 ショッピングセンターに殺人犯。

 「おいおい!そんな場所で大量殺人なんてされたら!」

 ―――今、高垣と深津を向かわせたが、国道が渋滞している故、到着は遅れる。

    到着次第、近江署と連携して、そっちの判断で動いてくれ。責任はこっちが取る!

 「了解!」

 通信を終えたあやめ、それを聞いていた大介と小鳥にも、まだ動揺が。

 「早すぎる!まだ、深夜じゃないってのに」

 「だからよ。このままじゃ、長浜の時よりも、大勢の人間が殺されるわ。絶対防がなきゃ!」

 彼女は赤のランプを屋根から引っ込ませると、別の青いシングルランプを取り付け、点灯。

 一般的なパトカーよりも高くない、独特のサイレン音を響かせ、レパードは現場へと疾走するのだった。

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