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18

 医務室で待つ釘宮と小鳥。

 暇なのか、フエラムネをピーピー鳴らす少女。

 目線の先にいる鈴江は、その音にも反応せず、いつまでたっても目を覚まさない。

 「おい、どうなってるんだ。すぐに目を覚ますはずじゃなかったのかよ」

 「ええ、おかしいわね。つまり、起きないってことは・・・」

 「何だよ」

 小鳥は鳴らしていたフエラムネをかみ砕いて言った。

 「これは単なる“憑物つきもの”じゃないって事よ」

 といわれても、釘宮にはさっぱり。

 「素人にも分かりやすく話してくれ」

 「亡霊だとか犬神に代表される憑りつく存在、それらが人間に憑りつくこと、ないしは憑りついた状態。私達はそれを“憑物”と呼ぶの。

  “憑物”が形成される原因は、大きく分けて3つ存在するのよ。

  1つ目は偶発的憑依。これは事故とか自然災害といった大規模災害が理由で、その場にいた浮遊霊や地縛霊が、その周囲にいる―被災し、死に最も近い場所にいる人間に憑依するケース。

  2つ目は、自然的・体質的憑依。たまたま亡霊の多い場所を通りかかった、あるいは、幽霊・亡霊を視やすい、ないしは憑りつかれやすい体質の人間に自然と憑依するケース。テレビのオカルト特番は、大抵コレね」

 「3つ目は?」

 「これが厄介なのよ」

 頭を掻いて言った、3つ目の条件。

 「自主的憑依。心霊スポットのように、自ら憑依されやすい場所へ向かう、あるいはそのような環境を自らの意思で作り出し、知らぬうちに憑依されるケース。

  亡霊の怒りを買う事がほとんどで、下手すれば殺され、彼らの世界に引きずり込まれてしまうわ。それにこのケースでの除霊にはたくさんのパワーを使うし、成功する確率は限りなくゼロ。仮に除霊に成功したとしても、立ち直るまでに時間がかかる上、再び憑依される可能性が高い。

  今回の鈴江さんの件は、そう、自主的憑依に酷似したものがあるわ」

 釘宮は、椅子から立ち上がると、声を震わせた。

 「まさか鈴江が?有り得ない!

  だって、どっちかと言うと気が弱い方だし、ホラーとか苦手って言っていて」

 「落ち着いて。酷似しているけど、除霊は比較的容易だった。

  1年前に、自主的憑依に遭遇した中学生の除霊をしたけど、その時より霊たちの抵抗は低かったし、何より攻撃が無かった。

  自主的であって、そうでない」

 「その答え、見つけてきたわよ」

 扉を開けて、あやめと大介が帰ってきた。

 大介は手にしていた釘宮のカバンを手渡す。

 「どういう事?あや姉」

 あやめの顔は深刻そのものだった。無論、大介も。

 「さっき、彼の所属するサークルの部員に話を聞いたの。

  それによると、鈴江君は“1人かくれんぼ”をした可能性が高いわ」

 「ちょ・・・まっ・・・」

 小鳥は目を見開いたかと思うと、舌打ちをし、吐き捨てた。

 「なんて馬鹿なことを!」

 「“1人かくれんぼ”って、最近ネットで話題になってる、アレか?

  それってさ“こっくりさん”と同じようなモノじゃないの?」

 釘宮の言葉に、小鳥は今日最大限の大声で反応した。

 「あんな子供騙しと一緒にしないで!!」

 「ご、ごめん」

 委縮した釘宮を見て溜息。

 小鳥は傍のベッドに腰掛けると、両手で顔を覆った。

 「“こっくりさん”は確かに狐憑きと関連のある遊戯よ。だけど、狐が現れるのは稀。あの遊びは集団同調が生み出した、作られた心霊パニックに他ならないわ。

  それに比べて“1人かくれんぼ”は、れっきとした降霊術なのよ。さっき話した自主的憑依。あれの最もたる実例」

 そう、それこそ“憑依されやすい環境を自ら作り出す”ことなのだ。

 「人形に、人の怨念が移りやすい毛髪や爪、供物として最も力のある米。どれを取っても、霊を呼び出す環境としては最高よ。特に人形は、人間に比べて怨念や亡霊が憑りつきやすい。

  誰が呼んだか知らないけど、それに“あそび”って言葉をつけて―――」

 「表面的には安全の様に振る舞っているだけ」

 「正解。

  言ってみれば“脱法ハーブ”と同じよ。麻薬と同じ成分を含んでいるけど、法に触れない。“脱法”って言葉でオブラートに包んでいるけど、内容は麻薬と同じく危険。

  そう、“1人かくれんぼ”は降霊術版“脱法ハーブ”って言っても過言ではないわ。

  ああっ、最高!何を考えてかは知らないけど、馬鹿なことをしてくれたものよ」

 絶望の眼差しで天井を仰ぐ小鳥に、大介は話す。

 「それなんだが?」

 「?」

 彼の方を向く。

 「どうやら彼の意思ではなく、サークルに強制されたようなんだ」

 「強制?」

 「映像研究サークルは、今年の学園祭で放映する作品を制作していたんだが、途中で部員が一人抜け、新たな作品を作らなければいけなくなった」

 「だから自主的憑依に酷似していて、そうでなかった。恣意的意思が介在していたが故・・・って、ちょっと待って。映像って事は、まさか」

 無言で小鳥を指差す。正解者は再び天を仰いだ。

 「製作していたのは、都市伝説を検証するドラマ作品。そこに1人かくれんぼの映像をぶち込もうと、部員の緒方って奴が提案。それを認可した部長の渡瀬が、丁度実家に帰省する鈴江君に、この撮影を強要したんだと」

 「頭のネジ、抜けてるんじゃないの?」

 「で、引き受けたのか」と釘宮

 「“部員たちの努力を無駄にするようならば、この部から去ってくれ”と脅されてな」

 聞いていた2人に、怒りが込み上げてきた。

 それぞれ理由は違うが、その矛先は一緒。

 「他人を踏み台にして・・・大介!その部長はどこだ!一発殴ってやる」

 「俺も殴りたいし、話も聞きたい。だが、もう帰っちまったみたいだ。

  それにだ釘宮、最優先事項は鈴江君の方だ」

 小鳥は言う。

 「実家でやったのなら、その家も危険ね。家族に危害が及ぶかも。

  確か、鈴江さんの実家は長浜市でしたよね?」

 「!!」

 何かに気付いたのか、目を見開いた。今度はあやめが。

 「どうしたんだ?」

 「滋賀県で起きてる連続殺人。あれが“1人かくれんぼ”の結果だとしたら?

  まさかと思うけど、長浜港で発見された通り魔の怨念が、どういうカラクリかは分からないけど、その人形に移って、犯行を重ねている」

 「それじゃあ、まるで“チャッキー”じゃないか」


 大介の指摘した“チャッキー”。ホラー映画“チャイルドプレイ”に出てくる子供の姿をした人形。

 作品では、この人形に殺人鬼の怨念が憑りつき、次々と人間を惨殺していくのだ。


 確かに、この映画の様に凶暴な怨念が憑りついたのなら・・・。

 問題は、この事件の立件だ。何せ、亡霊は憑依していなければ実存を証明知ることは難しいし、それが憑物なのか、あるいは病的心理的要因を持つ人間の行いなのかを見分けるのも至難の業。

 仮に怨霊が憑依した人形が犯行を重ねているとする、あやめの仮説が正しければ、姿ある犯罪者として特例ではあるが、妖怪犯罪と容認されるはず。

 そうでなければ、この事件の立件は難しい。例え、エクソシストを抱えるバチカンの力でも。

 では、専門家の意見を聞いてみるとしよう。

 「確かに人形に何らかの怨念が憑依し、他人を攻撃しても不思議じゃない。あっちこっちに移動するのも納得できる。

  ラガディアン人形の“アナベル”は知ってる?アメリカに存在する呪いの人形で、人間の精神を宿しているって言われていて、所有者の子供に危害を加えたり、あちこちに移動するのが特徴。お祓いをしても怪奇現象の止まらない、文字通り悪魔の人形」

 「じゃあ、今回も“アナベル”みたいに・・・」

 「でもね大介さん。今回の様に都市を股にかけて移動し、短期間でこれだけの人数を殺害しているのが、今までの呪いの人形と比べて、圧倒的に違う点なのよ。

  人形が起こしたか否かと言われれば、私はNOね。有り得ない」

 「でも、彦根城で犯人と対峙したんだけど。まるで人形が合成したような姿をしていたのよ」

 「人形に憑りついた“憑物”は、スタンドアローンで行動するし、同じ構成物―まあ、人形ね。それと遭遇すると、相手を攻撃することが、怨霊関連の文献で判明しているわ。

  呪われた人形を他の人形と一緒に展示したら、翌日には片方の人形が破壊されていたなんて報告は、世界各国で報告されているもの」

 怨霊専門家の意見で、妖怪犯罪の専門家は頭を抱える始末に。

 彦根城で対峙したのは、一体なんだったのか。

 1人かくれんぼ、通り魔の遺体発見、大量殺人。このすべてが長浜市で発生したのだ。

 論理的には説明できぬ、底知れない恐怖が、4人にこみ上げてきた。

 「とりあえず、鈴江君は病院に移しましょう。彼の下宿先も不安だから。

  小鳥。この近くで安全な病院は?無論、あなたの観点で」

 「強いて言うなら、登美とみおか総合病院。

  新設された総合病院よ。憑りつくような亡霊は比較的少ない」

 「俺は、こいつに付いて病院に行くよ」

 釘宮は立ち上がり、あやめを見た。

 「分かった。本部に連絡して、車を寄越すわ。

  大介、今から滋賀に飛ぶわよ。今夜も奴が現れるかもしれない、どうしても正体を明確にしたい」

 「私も!」

 小鳥に、あやめはストップをかけた。

 「これは遊びじゃないの。大人しく家に帰る事、いいわね?」

 「でも私がいれば、相手が憑物なのか否か分かるかもしれないわ」

 そう言われ、あやめは考えた。

 駄々をこねる妹。

 「いいでしょ?あや姉」

 溜息を吐き、呟くは

 「またお母さんに説明しなきゃね・・・いいわ」

 笑みをこぼす小鳥に、人差し指を立てて言いつける。

 「いい?憑物かを区別するのは、安全が保障されてからだからね?

  私たちの仕事に、勝手に介入しないこと。この前みたいに」

 「はーい」

 「わかってるのかしら?」

 能天気な返事に呆れている時間は無い。

 即行動。大介はトクハン本部に連絡。医師免許を持つ横山刑事にコンタクトを取った。

 その間にあやめは戦闘用に巫女装束に着替えると、後を釘宮に任せ、2人と共に青いレパードに飛び乗るのだった。

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