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封鎖を解除した2人は、夕刻、日の沈む中を部活棟へと歩く。
彼らの荷物を、こっちに置いてくれているという。
「やっと解放されたってもんだぜ」
「背伸びは今のうちにしときなさい。まだ、事件は序の口なんだから」
部活棟に差し掛かった時、道路を挟んで向かいのB棟―通称ラウンジ棟。その前にある業務用駐車場から、白のトヨタ AE86レビンが発進。正門方向に走り去った。
「あの車・・・また来たんだな」
「そのようね。
この間、部活棟の生徒から苦情が出たでしょ?車の駐車の件で。学生センターに問い合わせたけど、学生や関係者に該当する車両の持ち主はいなかったわ」
「ということは、外部の?」
「でしょうね。この学校は関西圏の6大学と、単位互換協定を結んでいるから。
他大学の生徒が、都古大のサークルに所属していてもおかしくはないでしょう」
「それにしても、マナーは守ってほしかったぜ」
そんな話をしながら、2人は3階、弓道部の控室へ。
この部活棟には、大きなスペースをぶち抜いて作られた弓道場があり、それが1つの伝統でもある。
部を立ち上げた生徒が、学校側と直談判して制作したようだが、その中身は本格的だ。
その近くの部屋に、荷物置き場やミーティングルームを兼ねた部屋がある。大部屋で、和装サークルと分割して使用している。
道着姿で出迎えた2人の先輩 要夕陽から荷物を受け取った。
側には袴姿の女性。彼女の友人で和装サークルの副部長、吉川麗奈。
彼女は、あやめに話しかける。
「もう部活棟じゃあ、その話で持ちきりよ。鈴江って人、どうなったの?」
「無事ですよ」
「でも、おかしな行動をしたって・・・理由は何だったのかしら」
「恐らく過労でしょう。最近は学生を酷使するバイト先も少なくありませんから」
「そうなの?ブラックバイト、怖っ!」
あやめは、そう伝えた。
が、この人にはお見通し。
目を細める要は、耳元で囁く。
「その様子、あやめちゃんの専門領域と見るわ」
「先輩の前じゃあ、嘘はつけませんね」
大介はため息交じりに答えた。
「で、どうなの?」
「先輩の見立ては当たっているんです。ですが、俺も彼女も、何がどうなっているのかわからないのが現状なんです」
「ありゃま」
「ですので―――」
あやめの言葉を、麗奈が声を出して遮った。
「渡瀬君!」
映像研究サークルの渡瀬部長が顔や手に痣を作って現れた。
「どうしたの?」
「・・・」
駆け寄って介抱する麗奈に、渡瀬は無言だった。
「とりあえず、手当てした方がいいわ」
そう言うと、要は渡瀬を部室に引っ張った。
「麗奈先輩、この人は?」と大介
「映像製作サークルの渡瀬君。私と同期で、部活棟でよく顔を合わせるから、小さな知り合いってところかな?」
そう言いながら、彼女は傷跡に絆創膏を貼る。
この瞬間、大介とあやめには通じるものがあった。
「もしかして、白いトレノが関係しているんじゃ」
あやめの一言に、渡瀬の目には狼狽の兆し。
図星、か。
「何の事で?」
大介は切り出す。
「正体不明の車が走り去り、その直後に襲われたあなたが現れた。偶然と言われればそれまでですが」
「・・・」
「それに、今回奇行を引き起こした鈴江君も、映像制作サークルの部員ですよね?
同じ日に、2人の関係者が何らかの事故に遭った。偶然でしょうか?」
また黙り。
「本当なの?」
「知ってる事があるなら、言った方がいいわ」
麗奈や要の声にも答えない。
終いに
「あんたらに話す事はない。その前に、そこにいる奴等は誰だ?」
ごもっともだ。
「そう・・・この大学のトラブルシューター、とでも言っておきますわ」
あやめの言葉も鼻で笑う。
当たり前の反応。
「馬鹿馬鹿しい。マンガじゃあるまいし」
「“事実は小説より奇なり”とも言いますよ。要先輩の言う通り、知っていることを話していただけますか?」
「これはサークルの問題だ。部外者は黙ってろ」
「では、1つだけ。
鈴江君の騒動とあなたの怪我は、関係ないんですね?」
「ああ」
そう言いながら、ポケットからジッポライターを取り出すと、無意識に蓋を上げ下げさせる。
カチ、カチ、カチ。
規則正しい金属音。
「では、白い―――」
「知らねぇって、言ってるだろうがよ!いい加減にしろよ!
出てけよ・・・出ていけよ!」
唐突に怒鳴る渡瀬に、2人は頭を下げ、後を要に任せて部屋を出た。
「大介」
話を切り出したあやめに
「あの反応に、手いじり。何か隠しているな。
白のレビンは、映像サークルと関連アリと見た」
「問題はその正体と、鈴江君の亡霊騒動と関係があるか」
「まさか、幽霊が映画製作の際に、鈴江に憑りついたか?
“お岩さん”じゃあるまいし」
「可能性の問題よ。カメラやビデオは、幽霊と、その内面性をダイレクトに写し出すって、小鳥も言ってたし」
「成程ね。でもよ、どうして他の部員は無事なんだ?鈴江と同じように奇行なり、気絶するなりしていないとおかしいだろ」
大介の指摘に、彼女は唸ってしまった。
部活棟を出て医務室へ戻る道。
「あのっ!」
後ろから声をかけられ振り返る。
暮れる学び舎に1人の青年。
「どちらさん?」と大介
「映像制作サークルの青柳です。鈴江君が、医務室に運ばれたと聞いて」
「どうして俺たちに?」
「介抱するところを見かけたものですから・・・彼、無事ですか?」
あやめが答えた。
「意識はあるわ。目を覚ますのを待っているだけ」
「そうですか・・・あの、お話ししたいことが」
そう言うと青柳は2人を人気のない場所へ。




