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16

 「琵琶湖・・・かい?」

 いまいち釈然としない釘宮。

 奈良にいるのに、どうして琵琶湖なのか。

 だが、釘宮には思い当たる節が。

 「そう言えば、不登校になる直前、実家に帰っていたな」

 「実家?」

 「滋賀県長浜市だ」

 「それは、いつ?」

 「たしか・・・通り魔の死体が見つかった前日だな」

 そう言われ、彼女は何かを考えだした。

 しかし、何故琵琶湖なのか。

 大介が聞いてみると

 「ここにいる霊が、全て水難事故で死んだ人間ばかりなのよ。その中に、十二単を着た女性や、烏帽子を被った男性の姿も」

 「それなら、京都周辺を勘ぐるのが普通じゃないの?」

 「いえ。平安時代、琵琶湖で入水自殺する貴族が相次いだ時期があるの」

 「平安時代?」

 「国内に末法思想―つまり、釈迦の教えが正しく行われなくなる時代が来るって思想が広まり、“南無阿弥陀仏”が国内に流行した時期。貴族の中に阿弥陀仏に救いを求め、極楽浄土を望む者が現れたの。

  彼らは次々と自殺をしたのよ。特に都に近い琵琶湖で。

  水死体が都近くの岸に流れ着けば極楽へ、それ以外は地獄へ落ちるなんてジンクスすらできる程にね」

 日本一大きい湖が持つ、暗い側面。

 「その霊が成仏できずに、現世をさまよっている。琵琶湖で水難事故が多発する原因は、恐らくそれじゃないかって、私は考えているのよ」

 「その理論が当たったみたいだが」

 「問題はここからですよ。大介さん。

  どうしてこれだけの霊を抱えてしまったのか。湖の中に入ってしまったのならまだしも、その痕跡が全く見られないとすると・・・どういうこと?」

 専門家も首を傾げちゃあ、終わりだ。

 ともかく、ここにいる霊を祓うことが先決。

 「まずは、除霊を頼むわ。考えるのは、それからでも遅くない」

 「ラジャー!」

 再び学生カバンを漁る。

 取り出したのは

 「それは?」

 「え?ビー玉」

 網目状の袋に詰められた色とりどりのガラス玉。

 「なして、こげなものが―――」

 「だ・か・ら。除霊に使うの!

  いいから見てて!」

 釘宮の言葉に半分キレた小鳥は、左手でビー玉を一掴みし、残りをあやめに手渡す。

 個数は5。それぞれ緑、赤、青、黄色、水色と、色が各個異なる。

 「このビー玉の色は、陰陽道の五行、木、火、土、金、水の5元素を表します。後は」

 スカートの右ポケットから、透明なビー玉を取り出した小鳥。どうやら、ラムネ瓶に入ってるビー玉みたいだが・・・。

 「これだけあれば、除霊ができます」

 小鳥は左手に握ったビー玉5つを床に落とす。バラバラと音を立てる。

 「始めます」

 左手を開いて、ベッドに横になる鈴江に向ける。

 実は、大介も除霊には半信半疑だった。

 あやめと知り合ってから、彼女のことはいろいろと知っているが、除霊の瞬間に立ち会ったことが今まで無かったのだ。

 とはいっても、全員が視線を彼女に注いでいた。

 今は小鳥を信じるしかない。

 すぐに、5つのビー玉が動きだし、等間隔に小鳥の足元を囲むと、時計回りに動き始めた。

 その速度は一定間隔にゆっくりと。

 今度は進行方向を変え、彼女の方に。

 互いにぶつかることなく、一定間隔に走る美球。その軌跡はいつの間にか五芒星を描いていた。

 不意に風が巻き起こる。

 小鳥の髪が、リボンが、制服の裾、スカート。下から巻き起こる旋風になびく。

 次第に大介たちの耳に、声が聞こえてきた。

 「苦しい・・・助けてくれ・・・」

 「水が・・・水が・・・」

 「憎い・・・恨めしい・・・」

 押し潰されそうで、心をどこかに持って行かれそうで・・・。

 足元がはっきりとしない釘宮を、大介は首根っこを掴んで目を覚まさせた。

 「しっかりしろ!引きずり込まれてもいいのか!」

 「・・・!」

 呆然とする釘宮。実を言うと、大介もあやめも限界に近かった。

 「寒い」

 あやめが呟く。

 部屋の密度が最高潮に達した時、鈴江に向けられた左手が下がると、小鳥の口が開く。

 「死火しかに焼かれ、苦海くかいの中で彷徨う哀れな魂よ。その存在を無垢とし、静寂しじまの彼方へと眠りたまえ」

 そう言いながら、左手を天井へ。

 人差し指と中指に透明なビー玉を挟んで。

 「離苦りく 無常むじょう

 ビー玉が地面へ向けて落下していく。

 着地。無音。

 瞬間、動き回っていたビー玉が静止し、旋風が止んだ。

 聞こえていた声も、嫌な感じも全て消え失せた。

 「はい、終わりまーした」

 小鳥は先程と変わらぬ状態で、3人の方を振り向いた。

 「もう、終わったのか?」

 「はい。ここにいた霊たちは成仏しました。

  直に、鈴江さんも目を覚ますでしょう」

 キョトンとする釘宮。あやめは彼の肩を叩いて言うのだった。

 「これで納得してくれた?妹の凄さ」

 「彼女は大丈夫なのか?鈴江さえ死にかけたのに」

 「そこが、彼女の凄さよ。

  あの若さで除霊から陰陽道まで全てを網羅し、どんな存在にも魂を持って行かれない強い精神力。

  あの子は、私以上の力を持った巫女よ。尊敬する人間を挙げろと言われれば、真っ先に彼女の名を言うわ」

 そんな小鳥はビー玉を拾うと、さっきとは違う袋にそれを詰め、カバンの外ポケットに入れた。

 次いでカバンを三度漁る。

 中から出てきたのは、フエラムネ。

 「それも除霊に?」

 「ううん。私が食べるの。

  除霊するとお菓子が食べたくなるから。いる?」

 差し出した一粒のラムネ。彼は手を差し出して貰うのだった。

 「よし。2人は鈴江の様子を見ていてくれ。

  俺とあやめで、封鎖の解除を知らせてくる」

 そう言うと大介とあやめは医務室を後にした。

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