15
小鳥はあやめに近寄る。
その前に立ち上がるあやめ。
2人が見つめ合った・・・刹那!
「こーとりーっ!」
甘い声を上げ、彼女を全力で抱きしめた。
「ちょっ、あや姉っ!」
「んーっ。いつ見ても可愛い妹っ!」
「大介さんも見てるんだからっ!」
嫌がる小鳥と、子供の様に甘えるあやめ。
その様子をキョトンとした様子で見る釘宮は、大介に質問。
「なあ、彼女って、あんなキャラだっけ?」
「釘宮は知らないか。あやめって、シスコンって程じゃないんだが、極度の妹デレなんだわ」
「一緒に住んでて大変だな」
「2人は別々に住んでるよ。あやめは神社に、小鳥は両親の家に。
それでも家は近いから、会える頻度は多い。にもかかわらず、小鳥君と会うと、こうやってデレデレしちまうんだ」
「はあ。妹デレ」
十分に親交を深めたところで、小鳥は核心を切り出す。
「で、話を聞きましょうか?」
「そうね」
あやめは、今までの顛末を話した。
「成程・・・この鈴江って学生が授業中におかしな行動を」
すると釘宮。
「彼はここ最近、学校に来てなくて、今日の4時間目の授業でやっと現れたんだ」
「その4時間目ってのが、おかしな行動を取った授業なの?」
「そうだよ」
「それより前は?」
釘宮は考えるが、特に休む要素は見当たらない。
「分かったわ。
それにしても、すごい霊気」
「そんなに?」
「あや姉は分からないのか・・・んーと、昔の私なら、もう倒れていてもおかしくないレベル」
「相当危ないじゃない!」
すると、小鳥は学校指定の通学カバンを開けて、中を漁る。
カバンの持ち手にぶら下がるキャラクター笛が、ファスナーの金具とぶつかり、カタカタと音を鳴らす。縁日などで売っている、中に砂糖が詰まっていて、アニメキャラの形をしたアレだ。
何かを取り出した彼女。
「まあ、霊視しないと分からないけどね」
それはカラフルな紙で出来た、楕円形の物体。
「それは?」
釘宮の質問は、意外な形で帰ってきた。
「え?紙風船」
「そげなものを、何に使う気で?」
「これで霊視するんだけど?」
聞いた途端
「おい、ちょっと待てよ!
霊視って言ったら、テレビとかでやってる数珠とか鏡とかさ―――」
「テレビでやってるのって、ほとんどがパフォーマーよ。視聴者がああいうのを望むから。
霊と交信する初っ端からあんな強力なモノを使ったら、相手が怒って、何をしてくるか分からないもの。下手したら死ぬし。
本当の霊能者は、まず弱く優しい霊力を使う方法で、相手と接する。これ、鉄則。
数珠や鏡を使うのは、超危険で大規模な儀式だけ。これだからステレオタイプは・・・」
呆気にとられる彼を横に、小鳥は紙風船に息を吹き入れ、膨らませる。
「おい、大丈夫か?」
「心配性だな、釘宮は」
「だって、大介よぉ!」
「あやめと知り合って以来、彼女を見てきているが、確かに大きな力を持つ少女なのは変わりない。
今は信じよう。あやめですら接触できない相手と、コンタクトを取れる人間は、彼女しかいない」
両手に乗っけた紙風船を、小鳥は優しく宙に放った。
するとどうだろう。紙風船が空間で制止してしまったではないか。
それを確認すると手を下ろし、目をつぶった。
「あなた達の声を聞かせて・・・」
そのまま部屋の中は静かになった。
3人が見守る中、1分が、2分が、刻々と経過していく。
間もなく4分。突如、小鳥が後ろへと倒れた。
「小鳥っ!大丈夫?息してる?」
すかさずあやめが後ろに回って、介抱する。いつもより真剣で大袈裟。
ゆっくりと目を開けた小鳥。直後、紙風船は重力に従って、床へと落下すると、パンという破裂音を響かせて四散した。
「こいつはヤバい。ヤバいけど・・・でも、まさか?」
彼女の第一声はこれ。少し動揺していた。
「どうだった?」
大介の問いに、彼女は落ち着き、立ち上がって答えた。
「ここに隔離して正解だったわ。下手していたら、この大学で大勢の死人が出るところだった」
それを聞いて、3人は青ざめた。
「お、おい。俺たちは大丈夫なのかよ!」
「ええ。恐らく、あや姉の妖気が強いから、大介さんと釘宮さん、それに教室の生徒さんは無傷だったんだと思う。
強い妖気に、霊たちが近寄れなかった。多分ね」
「まるで、私が蚊取り線香みたいな言い方ね。否定はしないけど」
小鳥は少し舌を出して、ウインク。
そして彼女は、釘宮に言った。
「単刀直入に聞きますけど、この鈴江って人、最近琵琶湖に行ってますか?」




