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大学入口、教務棟地下1階にある医務室。
そこのベッドに鈴江を寝かせると、服を脱がして体をタオルで拭う。
依然、意識不明だ。
救急車を呼ぼうとはするのだが、何故か電話が通じない。ケータイだけでなく固定電話もだ。
「どうだ?」
部屋に戻ってきたあやめと大介に、釘宮が聞いてきた。
「ダメだ。学校中の電話が、119番に通じなくなってる」
「私の方も、パトカーの無線がだめになってる。救急車を呼ぶことも、医師免許を持ってる横山刑事を呼ぶことすらもできないわ」
「どうなってやがるんだ・・・鈴江君は?」
「見ての通り。まだ、意識不明だ」
大介は、ケータイを傍の空いたベッドに放り投げた。
「どうにかしないと・・・死んだら、洒落にならん」
その時、ケータイの着信音が響いた。あやめのケータイだ。
「仲間か?」
釘宮の目が輝いたが
「妹からよ」
その場に座った釘宮。あやめが電話に出た。
「小鳥?ゴメン、用事が入って、今夜の晩御飯は一緒できないわ」
たわいもない会話と、相槌。だが
「え?」
彼女は受話器を押えて、振り返った。
「だれか、うめき声とか上げた?」
「してない」
あやめは再び受話器へ。すると
―――いい、よく聞いて!その部屋は危険よ。
「危険って・・・」
―――もしかして、学校内で原因不明の異変みたいなの、起きてない?
「そう言われると・・・」
あやめは、鈴江のこと、学校の電話が119番につながらないことを話した。
瞬間、向こうの声の語気が強くなる。
―――今からそっちに向かうわ。その部屋の周囲を封鎖して、誰も近づけないで!
勿論、部屋からも誰も出ないように!
「ちょっと、そんなのって―――」
―――いいから、言うとおり行動して!
「分かった」
あやめは電話を切ると、2人にこの部屋を出ないように伝えると、医務室の内線電話を使い心理学科の南條先生を呼んだ。
すぐに教務棟地下1階を、“通気口の故障と修理”という名目で封鎖。
後は、電話の主を待つだけ。
1時間後。
「なあ、遅くないか。つか、あやめの妹って、妖怪だったか?」
壁にもたれかかった大介が、向こうの柱にかかった時計を見て呟いた。
「そんな訳ないでしょ。小鳥は正真正銘の人間」
「だったら、どうして俺たちを軟禁するんだ?
これが妖怪関連だったら、君の方が専門家だろ?」
あやめはベッドに腰掛けて言った。
「これは妖怪でも、魔術師でもない。ISPが介入を困難とする“第3事態”よ」
「それって?」
「幽霊、心霊、亡霊。まあ、そんな類ね。
人間へ精神レベルの攻撃を仕掛け、未練や怨恨をエネルギーに行動し攻撃する存在。
ISPを始め各国は妖怪や魔術師の存在は認めてはいるけど、亡霊の存在は否定しているのが多数」
「どうしてだ?」と釘宮
「簡単な話よ。亡霊は、一部の人間にしか“視えない”から。
その一方で、亡霊の存在を容認している国もあるわ。今のところ日本とバチカンの2か国だけ」
「じゃあ、鈴江に亡霊が憑りついたと?」
「そうなるでしょうね」
(ということは、あの悪寒は亡霊の存在を察知したからか)
ふと大介は思う。
妖力を使って擬態化する妖怪を“視ること”ができる程の力があるのなら、亡霊を察知しても不思議ではない。
だとして、大介には疑問が残る。
彼女の義妹が介入する理由はどこにあるのか。
「あら、大事なことを忘れているわよ」
「?」
「姉ヶ崎小鳥は、陰陽師を4代にわたって歴任した姉ヶ崎家の血を引いているのよ」
「つまり」
「彼女は、高校生陰陽師。亡霊が関わっているのなら、私より彼女がプロフェッショナルだから」
そう言ったと同時、ドアが開き3人は身構えた。
部屋に入る1人の少女。
「紹介ありがとうね。あや姉」
「こ、小鳥君?」
「久しぶりですね。大介さん」
中学生以来会っていなかった彼女の姿に、大介は驚きを隠せなかった。
リボンで結ばれた小さな二つ結び、あやめと同じくらい大きく穏やかな瞳、紺色のセーラー。
あやめの義妹にして、陰陽師を引く高校1年生 姉ヶ崎小鳥が、そこに現れたのだった。




