戦争の産声
さー村はこれでおさらばでござるー
農村に住む農民は皆貧しい。家だって一間で、同じ部屋で家族全員が眠る。
ブジュがいる同じ部屋で、兄は毎晩ミーアを抱いた。
ミーアの嬌声が聞こえるたびに、ブジュの心は凍りつき、死んでいった。
兄はよくミーアを殴った。
「この金髪が! お前みたいな嫁で俺は村中から笑われてるんだぞ!」兄はそういい、ミーアを殴る。
ミーアはへらへら笑いながら「ごめんねー、ごめんねー、金髪でごめんねー」とあやまり媚を売る。
ブジュが止めに入るとブジュも殴られた。そして兄はブジュに見せつけるように、ブジュの前でミーアの胸を揉み、唇を吸った。
「字が読めるからっていきがるんじゃねぇ! お前がグズで村長を怒らせるからこんな嫁しかうちに来なかったんだ!」兄はそう言って、ブジュをミーアと同じように殴った。
兄が殴り飽きて去ると、ミーアは「庇ったりしないで、より怒って、より強く殴られるから」とブジュにいい、軽蔑するようにブジュを見た。
そのミーアの顔を見て、ブジュの心はより凍りつき、死んでいった。
冬になり、雪が降り、畑に出れず、家の中で内職ばかりになると、ミーアを殴る兄と、兄に殴られへらへら笑うミーアと、それを気にしない家族と一緒にいるのが嫌になり、ブジュはよくひとり雪道を歩き村が一望できる丘の上で魔法の練習をしていた。
ブジュはもう心が凍りついていたので、魔法が祈りだとは思わなくなっていた。
そのかわり、転生前の知識で、宗教的ではなく現象として魔法を見ることができるようになり、魔法とはなんなのか? 魔法はどのように発動されるのか?と、いう問いに、自分ながらのお答えを導き出していた。
魔法とは、祈りでなくこの異世界独特の現象である。
魔法とは、体内魔力を触媒とし、大気中に存在する魔素を自然現象に変える方法である。
ブジュはそう理解した。
体内魔力は有限であり、体内魔力枯渇は即生命活動の危機に直結する。
大気中の魔素は無限であり、体内魔力を触媒とし、魔法に変換できる。
ブジュは手のひらから体内魔力をひとかけら発し、「ウォーター」と、キーラング(引き金となる言葉、呪文)を唱える。
大気中の魔素が集まり、水になり、大人の拳くらいの水玉が手のひらの上にできる。
触媒になる体内魔力を小さく発すると、集まる魔素の量もへり、水玉の大きさも小さくなる。
体内魔力を大きく発すると、集まる魔素の量も増え、大きな水玉ができる。
ブジュは体内魔力が大気中の魔素を引きつけているのではないかと推測した。
ブジュは砂粒ほどの体内魔力を手のひらの上に出す。そこに少しの魔素が集まる。
ブジュは自分の体内魔力の半分ほどもある一塊の体内魔力を手のひらの上に
出す。そこにバケツ一杯ほどの、多くの魔素が集まる。
いくら待っても、魔素はそれ以上集まらない。
体内魔力の量と、集まる魔素の量は比例している。
次に今出している、自分がもつ半分ほどの体内魔力の塊を体内に戻してみる。体内魔力量が、元に戻るのを感じる。
集めた大きな魔素の塊がゆっくり拡散していく。そこに最初に出したくらいの小さな砂粒ほどの体内魔力を絡ませ、「ウォーター」と、キーラングを唱える。
集まっている魔素は水に姿を変え、大きな体内魔力を使った時と同じほどの水玉が手のひらの上に浮かぶ。
体内魔力は魔素を魔法にした段階で消費される。
大気中に漂う魔素を集めるのに体内魔力を使っても、また体内に戻せば、消費されない。
集まった大気中の魔素を魔法に変えることに、体内魔力の量は関係ない。
ブジュはこのことをエンジンに例え、頭の中で簡略化し、魔法発動までの時間を短縮していった。
生命活動が保てる限界値まで体内魔力を取出し多くの魔素を集める。【圧縮】
大きな体内魔力をしまい、砂粒ほどの体内魔力で魔法を発動させる。【着火】
集めた魔素が体内魔力を触媒とし自然現象へと変わる。【燃焼】
ブジュはこれを繰り返し、自分の体より大きな水玉を、瞬時に、いくつも展開できるようになった。
土魔法では直径60センチ、二メートルはある石柱を瞬時に何本も展開できるようになった。
使い体内魔力量は微量なので、いくらでも、ほぼ無限に水玉や石柱を生み出せるようになった。
ブジュは魔法を前世の感性で極めようとしていた。
ブジュは冬の間、よく山に入り獣を狩っていた。
水玉はブジュを中心にして半径4メートルほどの範囲であれば好きなところに出現させられるようになり、であったイノシシなどの肺を水でいっぱいにし、溺れさせ、窒息させることができるようになった。
石柱は細くすることにより、三メートルまで伸ばすことができ、手のひらから勢いよく出現させると、鹿や兎を一突きでしとめることができた。
雪を水魔法で溶かしながら、足場を土魔法で固めながら山に入り、イノシシを窒息させ、兎を突き殺し帰ってくるブジュに、家族は何も言わず、獲物という恩恵に群がっていた。
ブジュは殴られなくなった。
兄も家族もブジュを不気味がり、叱りつけたりしなくなった。
ただ毎日ミーアは殴られていた。
ブジュはそれを止めなくなっていた。ブジュの心は凍りついていたし、死んでいっていたからだ。
冬のあいだに、ブジュは12歳になっていた。
年が明け、雪解けが始まり、山が萌えだすと村に馬に乗って金板鎧で身を包んだ兵士たちが4,5人やってきて村長に村の男衆を集めるように言った。
12歳以上で40歳以下、病気を持っていない男は皆、金板鎧を着た兵士の前に集められた。
「シチ帝国は憎きリシャ皇国に奪われた街、【ウテナ】を奪還することとなった! これは聖戦である! お前たちは死んでもその魂は【羽の生えた魚】とともに神の身元に昇るであろう! ついてまいれ!」金板鎧の男はそう叫ぶと、剣を抜き、天を差した。
シチ帝国は戦争に突入し、ブジュは徴兵されたのだ。
ここまで書いてストックはないでござる―。できれば週一くらいで更新していきたいでござる―。