1.
とある日の昼下がり、中年の、いやそう表現するには少しばかり若いスーツの男が喫茶店の窓際の席に腰掛けている。
男の座るテーブルには彼の注文したコーヒーがおかれている。半分ほどの量が残されたそれは彼の手元に置かれてから長い時間がたっているようで、既にその熱を失っていた。
男の視線は気だるそうに窓の外の風景を捉えている。もしかすると男の目は何も写す気はないかもしれない。そう意識的には。
喫茶店に面した車道は一時の激しさに比べれば少なくなったものの、いまだに激しい車の交通量を保ち続けている。車の入れ替わりは目で追うことができないほどだ。
人々は何かに急いでいるかのように、足早に歩き去って行く。彼らの目にはこの寂れた喫茶店は目に止まらない。止まっているのは緑のペンキが剥げかけている、この喫茶店のほうなのかもしれない。
「では男も止まっているのか」。
喫茶店の時計が15時を指す。大きく、煤けた時計が今日も昨日と同じ「時間」に15時を指して、ゴゥンと音を鳴らす。
男は音を聞き流す。窓の外の光景からも目を逸らそうとしない。
それでも彼は確かに息をしている。
この時間を生きている。
貴方には見えるだろうか、窓の外の最新型の巨大な電波時計が。いや、見なくてはならない。それは我々に「今」を教えてくれる。
「2116:06:14:15:00」