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言代の鬼  作者: 東雲
3/3

友達作り

薄い雲が靡く空を見上げて、片手に箸を持った琴葉は、ぼんやりしていた。 

がやがやと賑やかな食堂の一角、そこに琴葉はいた。

 

空から視線を外し前を向くと、琴葉はたまらずため息を吐いた。

 

「……んむっ!?」

 

そのため息が出る前に、琴葉の口を柔らかいものが塞いだ。

驚いた琴葉が顔を上げると、箸で持ったきれいな焼き目のついた卵焼きを押しつける六花がいた。

 

「食事中で、しかも俺の目の前でため息つかないでくれない。」

 

「ふ、ふみまへん。」

 

そのままぐいぐいと卵焼きを押しつけられて、琴葉はおずおずと口を開けてそれを受け入れた。

 

もごもごと卵焼きを咀嚼して飲み込んだ琴葉は、ぽつりと言う。

 

「……砂糖多くないですか。」

 

つまり少々甘く感じると、琴葉は感想を述べた。

 

「琴葉は卵焼き甘い派でしょ。俺もそうだから問題ない。」

 

「いや、でもちょっと甘いですよ。それに私はお出汁と砂糖がちょうどいいのが好きなんですっ。」

 

「その『ちょうどいい』って琴葉個人の感覚でしょ。そんなの人によって様々だよ。」

 

「でもこれは絶対砂糖多いですっ。」

 

「そう?まぁ適当に入れたし。食べられるからいいじゃん。」

 

「……確かに別にまずいわけじゃないんですけど。」

 

自分の好みより甘いと、琴葉は内心で呟いた。

 

琴葉は味にこだわりがある方だが、対する六花はあまり頓着しない。

極端にまずくなく、食べられれば問題ないというのが六花の考えだ。

 

長い付き合いだからこそ、この話題は平行線で、徐々に六花に押されていくことがわかっているので、琴葉はこれ以上反論はしない。

しないが、納得していない。

 

琴葉はむーと黙って心の内でいろいろと言葉にしていると、六花が箸を伸ばした。

 

気付いた時には、六花は琴葉の弁当から卵焼きを取っていた。

 

そして琴葉が口を開く前に、卵焼きは六花の口に放り込まれていた。

 

「リツさんっ、なにするんですかっ。」

 

「俺の卵焼きあげたから、琴葉からもらうのは当たり前じゃない?」

 

「あげたっていうか押し込んだんじゃないですかー!」

 

「あーはいはい。琴葉の卵焼きはおいしいよ。味はね。」

 

「一言余計です!」

 

「だってちょっと焦げてるし。」

 

「うっ。」

 

言い返せない。

確かに琴葉作の卵焼きは少々焦げていて、見た目なら六花に劣る。

 

がくりと肩を落とす琴葉を見て、六花は目を細めた。

 

「……最近ため息が多いのって、まだ友達がいないーみたいなこと?」

 

「うぅ。」

 

「図星なんだ。」


こつんと、琴葉は顔を伏せて額を卓に当てた。

その鬱々とした気を放つ琴葉の姿に、六花は呆れたように顔をしかめ、食事の手を止めて頬杖をつく。


「もう入学式からそろそろ一週間経つよ。」


「うぅ。」


「出遅れたの?それともグループから弾かれた?」


「……出遅れて、入りづらくなって、いつの間にかひとりに……。」


「いつの間にかってか、いつものパターンじゃん。」


やれやれと首を振る六花を上目遣いに見て、琴葉はぽつりと言った。


「確かに、私の社交性のなさでいつものパターンですけど、今回はちょっと別の理由があると思います……。」


「別の理由?」


正直、琴葉の壊滅的な人見知りと社交性のなさが全ての原因と思っていた六花は意外そうに返した。


「……なんとなくですけど、敬遠、されているように思います。」


「敬遠?琴葉が?」


この、見た目も性格も別に高潔でもない、人を寄せ付けないような雰囲気をしているでもない、むしろ人によっては苛めたくなるような見た目と性格の琴葉が、敬遠される要素なんてあるだろうか。


言葉にこそしないが目がそう語る六花を琴葉はじとりと睨みつけた。

本当なら反論したいが、あながち間違いでない自覚を六花からこんこんと諭されたことがあるため、琴葉は文句を押し殺した。


「真琴兄様と関わりがあることで、なんだか皆さんに遠巻きに見られている気がして……。」


「……なるほど、真琴先輩ならあり得るね。」


あの人を寄せ付けない雰囲気に、整った顔立ちだが口数が少ないために冷たい印象を受ける小豊木真琴なら、敬遠されるのもわかる気がする。

実際は、妹分の琴葉とどう接すればいいのか内心戸惑いまくっている人なのだが。


「一応、琴葉は結構有名らしいよ。クラスのやつらが話してるのを聞いた。」


「ど、どのように……?」


半ば怯えて尋ねる琴葉の様子からして、きっとよくない想像してるんだろうなぁと思いながら、六花は答えた。


「『あの』小豊木さんと同じ名前の一年生がいる。どんな関係なんだ。妹か親戚か。……って感じ。」


「あ、あのってなんですか。なんで強調気味なんですか。」


「真琴先輩って、生徒会と並び劣らぬカリスマ性で有名らしいよ。」


それこそ、生徒会直々にしつこく勧誘があったほどに。


成績は常に上位で、どんなスポーツもそつなくこなす。無口ではあるが、人当たりが悪いわけではない。

それに整った容姿も相まって、小豊木真琴は生徒達の憧れの存在だそうだ。


「でも憧れの存在だからと言って人が集まるってんじゃなくて、遠くで憧れるだけで充分って感じ?」


確かに人当たりは悪くないが、だからと言って小豊木真琴から進んで人に関わっていくような性格ではないのだ。

むしろそれはいつも小豊木真琴の隣にいる烏丸雅の性格に当てはまる。


口数の少ない真琴と、逆にいつもへらりと笑い会話を弾ませる雅。

正反対のようでいて、それがうまく調和されている二人なのだ。


ただの高校なら、人気者として位置づけられただろうが、ここは「名門・四方比良坂学園」である。


小豊木と言えば、老舗呉服屋として有名である。

各界の著名人御用達の、歴史深い店なのだ。


だがただ歴史深いだけの店では、昨今の着物離れの世の中で生き残れない。

そこで小豊木は現代のファッションに「和」を取り入れたデザインを開発し、一般人にも手が届く値段で提供するなどの企画を絶えず行って売り上げを伸ばしている。


真琴には社会人になる兄がいるため、後々後継者になるという気負いはないが、その兄を支えていく心積もりであるため、将来は小豊木の要職につくことは間違いないとされている。


そんな有望株の真琴に擦り寄りたい者は数え切れない。

とは言っても、いまのところ真琴にそのような取り巻きは存在しない。

なぜなら、そんな下心のみで近付いて来る者には、真琴は徹底的に無視を実行するのだ。

話しかけても答えることはないし、名前を覚えようともしない。

下心のある者を見分けるその人を見る目は、将来役には立つだろうが、その下心を見抜く目にかかり徹底的に無視された者は、やがて心が折れて自然と離れて行くのだ。


真琴が入学当初はそんなことが頻繁にあったため、冷たい人間と認識されていたが、それを上回るカリスマ性によって「冷たい」という印象も好意的なものに変化し今に至るという。


「さすが真琴兄様……!この学園ですでにそんな大きな活躍をされていたのですね……!」


六花の口から語られた従兄弟の話にきらきらと目を輝かせる琴葉を見て、話した本人はやれやれと肩を竦める。


「……感激してるとこ悪いけど、そのお兄様のせいで、琴葉は良くも悪くも注目されているんだよ。」


「うっ、そ、そうですけど……。」


うって変わってしゅんと小さくなる琴葉。

そんな琴葉を見つめて、六花はそっとため息をついた。








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