第1話 最下層専属という仕事
「……また、最下層か」
王国冒険者ギルドの掲示板を見上げて、俺――レインは小さく息を吐いた。
依頼名はいつも同じだ。
《アストラルダンジョン・最下層
魔物発生対応(常駐)》
報酬は安い。
危険度は高い。
名誉も実績も一切つかない。
だから誰もやりたがらない。
「まあ、俺にはちょうどいいけどな」
受付嬢が、どこか申し訳なさそうに言う。
「……今回も、最下層専属で大丈夫ですか?」
「はい。問題ありません」
問題があるとすれば、
俺以外にこの仕事を引き受ける人間がいないことくらいだ。
アストラルダンジョン最下層。
そこは探索済みでも宝もない、ただ魔物が無限に湧く場所。
理由は不明。
学者たちも首を傾げるばかり。
だからギルドは考えた。
「誰かを常駐させて、湧いた魔物を処理し続ければいい」
――実に雑な結論である。
そしてその役目を押し付けられたのが、俺だった。
「来たな」
魔物の気配。
数は……五。すべて中型。
俺は剣を抜き、深く踏み込む。
一体目、首を落とす。
二体目、突きを入れる。
三体目、盾ごと叩き斬る。
――いつも通り。
特別な技も、派手な魔法もない。
ただ、無駄なく、確実に、殺すだけ。
数分後、最下層は再び静寂に包まれた。
「……終わりか」
息一つ乱れていない。
ふと、ステータスウィンドウが開く。
【レベル:不明】
【スキル:???】
……相変わらず、表示はバグったままだ。
「まあいいか」
最下層では、
経験値がどれくらい入っているのかも分からない。
誰も気にしないし、
俺自身も気にしたことがなかった。
その頃、上層では――
精鋭冒険者パーティが、
原因不明の全滅を遂げていたことを、
俺はまだ知らない。
そして数日後、
ギルドが震える声で言うことになる。
「……最下層専属のレインさんを、
王国直轄任務に回したいのですが」
その時になって初めて、
俺は知ることになる。
最下層での“いつも通り”が、
すでに異常だったということを。
――第1話・了




