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七 無能なエピローグ

「はい! これ全部今日中にお願いね!」

  

「これ、全部かよ」


 夕日が沈み、静寂が場を支配する暗殺ギルドにて。   

 

 俺は積まれた書類を見てゲンナリしていた。


「無理。死ぬ。絶対終わらない」


「あれとこれとあれはまとめて」


 リリスとウリエルは書類に追われていた。


 この場には俺を含め四人しかいない。


 他の奴らはどこいったんだよ。


 って、定時退社してるのか。

 

 うちってホワイト企業だからなあ。


 残業は不可。


 そんなことをしても、仕事の効率は上がらないし。


 ちなみに、俺とラストたちにはそれが適応されない。


 ギルドマスターとその側近だからな。

 

 だから毎日、遅くまで書類とにらめっこ。


 サボりたくてもサボれない。

 

「あー、もう無理」


 リリスが取り扱っていた束を破り捨てる。


「リリス! 何でこんなことするの!?」


 おい、その修正やるのはお前だからな?

 

 あと、紙を無駄にするな。 


 定時と費用が伸びるからやめろ。


「うふふ。すくすく育ってくださいね?」


「ああ!? ウリエルが書類に水を!?」


 おい、それを後で乾かすのはお前なんだぞ?


 あ、俺に水を蒔くな。濡れるだろ。


「もうやだ! 誰か助けて!」


 おいラスト。


 ポカポカ叩くのはやめろ。


 俺はおもちゃじゃないんだぞ。


「しんどい。もう寝る」


 おい、俺。おやすみなさ


「「「寝るなー!」」」


 こうしてギルドでの一日は幕を下ろした。


 果たして、ニートになれる日は来るんでしょうかね? 

 

 大丈夫大丈夫。


 このまま死んだら、化けてでもニートしてやるから。

 

 ◇


「あー、朝か」


 早朝。俺は勤務机の上で目が覚める。


 目覚めの気分は、職場なので最悪。


「他の三人は寝てるよな。ったく」


 残りの仕事を片付けるため、広がった資料をまとめる。


 ギルドで受注する依頼の可否だな。


 素材採集、魔術実験、護衛、買い物、子守り。


「いつも通りの内容だな。で、」


 最後の一枚。


 やたら目立つ赤字。


 それは暗殺依頼。


 冒険者への依頼とは違い、俺たちが秘密裏に受注するものだ。


 早めに目を通さないとな。


 下手に返事を伸ばしたら、依頼人からどんな苦情がくるか。


「えーと。暗殺騎士団の幹部を確認。これを速やかに暗殺して欲しいか」


 騎士団は世界で目立った存在だ。


 裏表の権力者ですら、怯えて過ごしていると聞いた。


 疎ましく思う人間はごまんといるだろう。


 そんな奴らが、報酬という飴をぶら下げ、俺たちに依頼してくる。


 まあ、奴らの情報を呼び掛けてるのは、俺らなんだけどな。


 ニートになるため、こいつらを排除しないとだし。


 その書類に受注印を押す。


 この依頼は、俺たちが正式に引き受けることとなった。


「にしても幹部ねえ。つまり、八殺って奴らだよな。はあ」


 雑魚だけなら、他のギルドメンバーにこの依頼を任せる。


 しかし、幹部クラスならば話は別。


 まだ二人しか遭遇してないが、なんとなくわかる。


 うちの連中に、幹部の相手はまだ早い。


「となると、俺が行かないとだよな」


 ぼーっと天井を見上げてみる。

 

 ギルドメンバーに任せたら、被害が出ること間違いなし。


 だから、ニートな俺がガタガタの足腰で出動する。


「あー。もう仕事なんかやめて、どっかバカンスでもいきてえなあ」


「……んっ」


 隣から吐息がかかる。


「あ、起こしたか」


 部屋に朝の光が射し込んだ時のこと。


 隣の机で寝ていたラストが、目を覚ます。


「オッス。おはよう」


 挨拶をすると、ラストが優しく微笑む。


 寝起きだからなのか、テンションは抑え気味。


「おはよう。珍しいね。早起き?」


「まあな」


「ん? それ、依頼書?」


「ああ。さっき受注印を押した」


 先ほどの暗殺依頼を、ラストに手渡す。

 

「暗殺依頼ね。たまに来るけど、こういうのあまりやりたくないな」


 暗殺者の弟子がそれを言うか。


 ずいぶんと呑気だな。


 まあ殺しに心血注いで、精神が病むよりはましか。


 俺だって、暗殺なんてだるいからしたくないし。


 さっさとニートになりてえ。


「ん、ターゲットの名はマモン? っく゛!?」


 ラストが書類を落とし、頭を抑える。

 

 目と口が波打つように動く。


 とても苦しそうだ。


 過労で体調でも崩したのだろうか?


「大丈夫か?」


「お、思い出した!」


 ガバッと勢い良く席を立つラスト。


「しー。早朝に騒ぐのはご近所迷惑。静かに」


「ご、ごめんね?」


 申し訳なさそうに、ラストは着席する。


「いいさ。で? 何を思い出したんだ?」


 先ほどの発言。


 おそらく、記憶を取り戻したのだろう。


 彼女たちは記憶喪失という状態。


 ここでの出来事以外が、すっぽりと抜け落ちている。


 彼女たちとは数年共に過ごしてきた。


 が、記憶を取り戻した様子は一度もなかった。


 それがここに来ての急展開。

 

 きっとかなり重要な内容に違いない。


「うん」


 ラストは落ちていた資料を拾い、それを渋い顔で見る。

 

「この暗殺対象のマモンって人なんだけど」


 ラストが深呼吸。


 なにか一大決心でもしたかのように。


「あのね? この人は私の住んでいた村を襲い、ここに連れてきた人なんだよ」


「あ? すまん。眠気のせいで聞き取れなかった。なんて?」


「もう! ちゃんと聞いてよ!」


 申し訳ない。


 過労のせいで感覚が鈍くなってた。


 けどなんだ。


 この依頼は重要かもしれないとだけ理解した。


「んじゃ、作戦会議だな。諸々の準備をして、暗殺に望もうや」

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