六 無能が弟子たちを評価してみた
「お待たせ」
俺とラストは現場に急行した。
「遅い」
「まあまあ」
そこにいたのは二人の少女。
待ちくたびれた様子で、彼女たちは出迎えてくれた。
こいつらのことはよく知ってる。
俺の弟子たちだから。
なんて油断は禁物か。
俺たちを騙すため、敵が変装していないとも限らない。
暗殺業を営んでいれば、そういうことは日常茶飯事だから。
ふむ。
暗殺において、疑心暗鬼は最小限にするのがベスト。
一瞬の迷いは死へと繋がりかねないから。
ならここは一つ、彼女たちの真偽を探ろう。
多少観察すれば、本人かどうか判別できるし。
「お兄ちゃ……あんたがトロトロしてるうちに、偵察は終わったわよ」
この青髪少女はリリス。
初めて会った時、彼女は生粋のコミュ障だった。
それが今や立派なクールキャラに。
ただし、身内以外にはコミュ障だ。
「ルシファー様。あなた様との再会を心待ちにしておりました」
この茶髪少女はウリエル。
性格は今も昔も変わらずおっとり。
たまに言動がおかしいことを除いて。
「二人とも静かに。敵に気づかれちゃうよ」
最後に銀髪少女のラスト。
性格は太陽のように明るい。
ドジな所もあるが、こう見えてうちの副リーダー。
次期マスターを任せるに相応しい人材だ。
と、確認はこんなところだ。
結論。
全員、俺の弟子たちで間違いない。
「で、あれか?」
遮蔽物から、俺は今回のターゲットを確認。
白い神父服の人間たちが散らばっている。
間違いない。
奴らは暗殺騎士団だ。
「見たところ敵は数十人。伏兵はなしか」
気配で敵を把握する。
油断しなければ、ラストたちだけで勝てるな。
もっと歯応えのある奴をつれてこいよ。
ニートタイムを中断してまで、俺が出張る相手じゃないぞ。
「そんで? 作戦は?」
「「「静かに、手早く、正面突破」」」
三人の意見がぴったりと合う。
「そーですか」
本来暗殺とは、入念な下準備と、無駄な戦いを省くのが鉄則。
彼女たちが行おうとしているのは、ただの戦闘だ。
師匠として注意すべきか?
まあ、いいでしょう。
なぜなら、この世界の人間は耐久力が高い。
奇襲してスマートに終わり。
が通用するほど甘くはない。
そこから、直接戦闘を避けられないのが常。
最悪、背後のトラップでそのままアウトなんてことも。
だから、正面から戦う選択は間違いじゃない。
「じゃあ、俺は隅で見てるから」
「手伝ってくれないの?」
「アホ。暗殺に過剰戦力をつぎ込む必要はねえ」
「もー! とかいって、寝たいだけのくせに!」
事実だ。
この三人がいれば事足りる。
俺の出番はない。
「ほらほら。無駄口たたくな。暗殺スタート」
俺が手を叩くと、三人は静かにバラけ、敵に接近していく。
正面突破とはいえ、彼女たちはギリギリまで攻めに転じない。
暗殺者として虚をつくために。
俺の教えは守ってるな。
「「「おりゃあああ」」」
「「「!」」」
数秒後。
向こうと交戦がスタートした。
「さーてと」
瞳を閉じ、俺は体を地面につける。
だけじゃ味気ない。
このまま弟子たちの評価でもしようか。
目を瞑っても出来る、気配で動きを検知して。
「あ、えと。じゃ、邪魔にゃんだから死んで」
リリスは身体強化の魔術を得意とする。
筋力を上げたり下げたりなど。
ついでに体格とかも変えられる。
ふむ。攻撃にばらつきがあるな。
見知らぬ人前で恥ずかしいからか、力が制御できてない。
ほら、加減ミスしたせいで奇襲されそうになってる。
あと息切れが目立つな。
スタミナの低さ、均一の力を出せないのが難点か。
「いきますよ? その首、落とします」
ウリエルは、剣に闇をまとわせる魔術を得意とする。
更に、彼女の凄いところは剣の技量。
その一点のみならば俺を越えている。
けど、そこだけ強くても意味はない。
「……」
ウリエルが途中から激しく戦い始める。
無鉄砲で動きが雑になりがちだ。
せめて単調な攻撃くらいは、ごり押ししないでかわせよ。
そのせいで無駄な傷を追いすぎ。
もっと冷静に戦おうぜ。
「ていー! とりゃあ! あ、ずれた! ごめん!」
ラストは、ナイフとサポート魔術を得意とする。
転移、防御、治癒、感知等々。
はっきり言って、彼女個人の戦闘能力は低い。
が、周りとの連携や魔術を駆使し、暗殺を形成している。
という褒め称えはここまで。
支援役なのに前に出過ぎ。
ドジなせいでナイフ落としすぎ。
もっと落ちついて行動しろ。
「……」
最後は俺。
ボーッと戦いを感知している。
ニートとしては合格だ。
魔術? 使えない。無能。
仕事への熱量なし。
暗殺者として失格。
それぞれの評価はこんなところだな。
改善点はあるが、皆まだまだ伸び代ありだ。
「てんでダメだァ。まるで戦いになってなィ」
ん?
いきなり見知らぬ気配だ。
乱入者か。
外から来た感じはない。
となると、場所を移動する魔術。
転移でも使ってきたか。
「あなたは!?」
「うち? うちは暗殺騎士団、八殺が一人。ベルゼブブだァ」
気配でわかる。
こいつは、あのベルフェゴルと同等の力がある。
大したことねえ。
と言いたいがそれは俺の主観。
「「「くっ」」」
三人の足がすくんでいる。
気配で理解しているのだろう。
自分たちでは歯が立たないと。
「やれやれ」
半開きの目蓋をこすり、俺は立ち上がる。
本当は休憩中だったけどしょうがねぇな。
身内のピンチだ。
こんな時くらいは、重い腰を上げてやる。
「ほいよ」
俺は転がっていた二つの石を持つ。
それをベルゼブブに投擲。
「お前たちィ。すぐに殺してぇぇぇっ!?」
それらは奴の顔面にクリーンヒット。
本来ならこれで終わりだ。
けど、向こうはちょっぴり手練れ。
石ころくらいじゃ死なない。
せいぜい、かすり傷がついたくらいだ。
仕留めるにはもう一工程を踏まねば。
「せい」
使い捨てナイフ四本を、ベルゼブブに投げつけてみる。
「おのれぇ! いつ攻撃したかわからないが、こうなればうちの本気っ……」ドサリ
倒れ込むベルゼブブ。
その体にはナイフが刻まれていた。
額に一本、首に一本、胸部に二本。
心音はなしと。
「暗殺完了。さすがに四本は多すぎたか?」
なんて、多少やり過ぎくらいがちょうどいいか。
なぜなら、異世界の奴らは魔術などで耐久性が異常。
重要器官を潰しても平然な奴。
果ては、再生する奴だっている。
そんな化け物がいる世界で、最小限での勝利を求めちゃだめ。
確実かつ、ニートらしく楽に殺す。
それがこの世界での正しい戦い方だ。
「いつも通り早い暗殺だね! 全く参考にならないくらい!」
「ふ、ふん。別にありぇくらいアタシだって」
「さすがルシファー様。惚れ惚れします」
三人が俺の元にやってくる。
怪我とかはしてないみたいだな。
無事なようでなにより。
「さてと、処分して帰るとします、あ」
「どうしたの?」
「やっべえ」
重大なことを思い出した俺は、頭を抱える。
「すまん。とんでもないミスを犯した」
「何があったの? 良ければ話を聞くよ」
「調子に乗りゅからそうにゃるのよ。これだから魔術が使えないむにょうが」
「ルシファー様のミスを取り返すならば、どんなことでもいたして見せます」
「お前ら、心配してくれてありがとな。実は」
「「「実は?」」」
「情報収集を忘れて、一回で敵を殺しちまった。もーしわけない」
「「「は?」」」
俺としたことが。
情報収集は基本だと日頃から弟子たちに忠告しといて、こんな失態を起こすとは。
もし、ベルゼブブが重要な情報を持っていたら、とんでもないやらかしだぞ。
こりゃ、俺も暗殺者として未熟ってことか。
反省反省。




