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三 無能が惨殺してみた

「お前らは後ろに下がっていろ」


 俺は少女たちを背後に移動させた。


「おいらの邪魔をするか! ならばその命を」


「あの? 登場早々でもーすわけない。暗殺騎士団とは?」


 俺はベルフェゴルに解説を求める。


 異世界の い の字すら知らない状況なんだ。


 そういう単語は説明してもらわないと。


「ん? なぜ?」


「俺がこの世界を知らない転生者だから」


「テンセイシャ? どっかで聞いたな」


 ベルフェゴルは顎に手を当て、低くうなる。


「いーから。説明はやく」

 

「全く! 仕方ないな!」


 ベルフェゴルは鼻で笑い、肩をすくめる。


「いいだろう! 暗殺騎士団とはなにか! 冥土の土産に教えてやる!」


 冥土に送る側の暗殺者にそれを言うか。


 すげえ命知らずだな。

  

 あと、本気で解説するとかアホだろ。


 助かるけど。


「暗殺騎士団! それは!」


「それは?」


「えーと……」


 ベルフェゴルがポケットからメモを取り出す。


 それを素早く目で追っていた。


 所属してる組織を忘れるとか、どーなっとんねん。


「世界を管理する秘密組織! 正義の味方にして、支配者だ!」   


「はあ」


 うわ。これ知ってる。


 中学生とかが大好きなあれだろ。


 右手が(うず)くとか、闇の支配者とか。


 恥ずかしくて吐きそうだ。


「質問があればどしどし!」


「じゃあお言葉に甘えていくつか」


「どうぞ!」


「お前らって秘密組織なんだよな?」


「そうだ!」


「じゃあ何で堂々と名乗るんだ?」


「もちろん知名度アップのためだ!」


「あー……」


 言わんとしてることは理解できる。


 秘密組織の恐ろしさを知らしめたいとかだろう。


 けど、そういうのって噂とかで流せばいい。


 その方が効果的だ。


 奴が今行っているのはただの宣伝。


 胡散臭いだけだ。


「なるほど。して、八殺というのは?」


 ベルフェゴルが、暗殺騎士団と共に名乗っていたワードだ。


 名前からして、特別な称号と思われるが。


「長たるマスターを中心に、組織を支配する八人だ!」


「マスタード?」


「マスター! 一番偉いお方!」


 そいつが、このアホのボスってことね。


 てか、マスターって。

 

 この騎士団がどういう組織で、どんな規模なのかはわからない。


 けど、一つ。


 部下にそう呼ばせるのは、くっっそ痛いな。


 中二病はほどほどにしとけ。


「はいはい。で? 組織の最終目的は?」


「知らん!」


 何で知らねえんだよ。


 お前ホントにその八殺なのか?


 さすがに、駆け引きで焦らしてるだけ……


 あ、これまじで知らない顔だわ。


「まあなんだ。ずいぶんと痛い組織みたいだな」


「痛いとか言うな!」


「失礼。で? お前はここに何しに来た?」


「尻拭いだ!」


「誰の? 自分の?」


「違う! アモン王のだ!」


 ベルフェゴルが少女たちの方を指差す。


「そこの少女どもは、我々のターゲット! 各地から集めた彼女たちを、今日我々が引き取るはずだった!」


 あんな大勢を一日で引き取るとか。


 ガバガバすぎる。


 計画性ってものはないのかよ。


「しかし、来てみればどうだ? アモン王の生態反応はなし! 変わりにいるのは、よくわからん不審な男!」


「お前か?」


「お前だよ!」


 失敬な。


「しかも少女たちが解放されているときた! 万一、一人でもここから逃げていたら、マスターに顔向けができない!」


「だから?」


「へっ」


 ベルフェゴルが腰の大剣を抜く。


 それを軽く三度振り回す。


 重々しい轟音が耳に伝わってくる。


「お前を殺し、こいつらを速やかに連行する!」


 ベルフェゴルはこちらへと加速。


 謎のオーラを放ちながら。


 それは明らかに、人間の常識を無視した機能だ。


「うおすげえ。その力は一体?」


「なんだ? 魔術も知らんのか!」


「まじゅつ?」


「この世界に存在する、戦いを左右する力だ!」


 異世界特有のあれか。


 原理とか誰が作ったか不明の謎パワー。


 で転生者なら、その力をフルに使える展開と。


 なら、俺にも出来るよな?


「ふんぬらば」


 ……。


 出ねえのかよ。


 白けるなあ。 


「はははは! どうやら魔術が使えない無能みたいだな!」


 無能? 


 そういえばアモンも無能がどうとか言ってたな。


 なるほど。


 あれは魔術が使えない、という意味か。


 つまり、俺は異世界で落ちこぼれと。


 納得納得。

  

「それで? ここからどうなるんだ?」


「もちろん」


 大剣が振り上がり、


「お前が死ぬんだよ!」


 俺へと落下してくる。


 その動作はスローモーション。

    

 一秒一秒が長く、緩やか。


 死ぬ直前のピンチだから。 


 ではなく、奴の行動はずっとこういう風に見える。


 つまり


「おっそ」


 俺はそれを小指で止める。


 こいつとの戦いはお遊びみたいなものだ。


「な!? 片手だと!?」


「いや小指。の爪だな」


「爪ぇ!? 何でぇ!?」


 お前の攻撃力が足りないから、爪で防御してるんだ。


 自分の技術不足を疑問として挙げるなよ。


「この、斬って、や」


 ベルフェゴルが押し斬ろうと力を入れる。


「ぬぐ、ふぬぬ!」


「ほら、早くしろよ。これから修行をするんだからさ」


「し、修行だと!? これ程の力を持ちながら、更に鍛練を積むとは」


「そんな大層なものじゃない。ニートの修行。食っちゃ寝生活」


「意味不明!」


 あ、爪の先っちょが削れた。


 これじゃあ切るときに痛くなる。


 どう責任取ってくれるんだよ。


「もういいや。情報収集のために加減してたけど」


 あくびをしながら、俺は剣を弾く。


「こ、こんな軽々と!?」


 ベルフェゴルの体勢が大きく崩れる。


「後ろだ」


「な」


 よろけながら方向転換するベルフェゴル。


「違った。前だ」 

 

「は? お前、それ卑怯」


 俺はベルフェゴルの首に短刀を


「は? 暗殺に卑怯なんかねえよ?」


 刺す。


「が、あ」


 湧き出る血飛沫。


 それが俺の視界を潤す。


 染みるな。


「それ言ったら、己の無力を棚に上げる、お前の方が、卑怯だろ」


 一回、二回、三回、四回


「待って! ここは一時タイム! おいらたちは正々堂々」ドサリ


 五回目の追撃を前に、ベルフェゴルは事切れた。


「やったか?」


 ベルフェゴルの身体に触れ、反応を確認。


 全身から血液が抜け、徐々に体温が低下している。


 死んだふりはなさそう。


 終わりだな。


「さーてと。あ」


 俺は戦いを見ていた少女たちと目が合う。


「「「……」」」


 彼女たちの表情が読めない。


 なぜなら、目が血で滲んでいるから。


 ど、どないしましょう? 


 この気まずい状況は。

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