二 魔王の一族/暗殺騎士団
「ふー。血を流せて、さっぱりさっぱり」
俺は城内の浴室にて、汚れを落とす。
少女たちを解放したあと。
彼女たちに城内の食糧や衣類、設備などを与えた。
そのまま放置するわけにはいかないからな。
困った時は助け合い。
とはいえ、元々この城の物を勝手に使うのはおかしい。
なんて常識は暗殺者には通用しない。
というか、少女たちを監禁する奴らの方が問題だ。
俺の前に、あいつらを先に裁いてもらいたい。
もういないけど。
「さて、綺麗になったところで」
楽しいお風呂タイムを終え、俺はある場所へと向かう。
「おまたせ」
着いたのは応接室。
それなりに高そうな装飾品が散らばっているな。
価値はよくわからないけど。
「さてと」
俺はソファーに腰を落とす。
「「「……」」」
対面のソファーには、三人の少女。
ここに監禁されていた子達だ。
話を聞きたいので呼び出してみた。
精神がすり減っている少女から話しを聞く。
なんてデリカシーがないのかもしれない。
けど、事態は急を要する。
今は少しでも情報が欲しい。
「俺はルシファー。暗殺者だ。この城の奴らは俺が殺した」
「「「……」」」
彼女たちは目を見開く。
そのまま互いを見合わせ、内緒話。
こういう話はしない方が良かったのだろうか?
しかし、状況を知らせないと不安になるだろう。
今も自分たちが狙われてるかも知れない、と。
その疑問は話の進行を邪魔する。
だから、真実を話した。
「そうなんだ!」
銀髪少女が、笑顔で返事をする。
「あ! 私の名前はラストだよ! よろしくね!」
ラストが俺に握手を求めてくる。
ずいぶんとテンションの高い子だな。
「どうも」
それを握り返す。
「あ、これお近づきの印! よかったら」
ラストがポットを持ち、カップに茶を注ぐ。
それを俺に手渡してきた。
「アイスティーか。ありがたくいただく」
香りを楽しみ、口をつけてみる。
毒はなしと。
ふむ。これが異世界のお茶か。
口に広がるのは、ほのかな風味。
滑らかな飲み心地。
そして
「しょっぺえ」
塩分の暴力が舌を刺す。
まるで塩塊を飲んでいるよう。
いや、塩だろ。
異世界のお茶ってこんなに濃いのかよ。
こんなの飲んでたら死ぬぞ。
「あ、ごめん! 砂糖と塩を間違えちゃった! あはは!」
塩と砂糖の間違えはありますねえ。
たまにだけど。
なるほど。このラストはどじっ子。
つまり、アホの子だな。
「あ、アタシはリリス。べ、別に助けてくれたことに感謝なんかしてないきゃら」
ラストの隣にいた青髪少女、リリスが挙動不審な態度を取る。
口元がふにゃふにゃ。
何を言っているのかわからない。
あ、目を反らした。
どうやら、リリスは対人能力が低い性格と見た。
「はあ? なんて?」
「ひ、ひい。い、言いしゅぎだわ。ご、ごめんにゃさい」
別に怒ってないぞ。
リリスはコミュ障なツンデレ?
いやクーデレってやつか?
あんまり見たことがないタイプだな。
「僕はウリエルと申します。この度は助けていただき、ありがとうございます」
最後に茶髪少女、ウリエルが立ち上がり一礼。
「大したことはしてない。だから、頭を下げるな」
「さすが救世主様。謙虚でございますね」
彼女の所作と言葉遣いは丁寧だ。
育ちの良いお嬢様を彷彿とさせる。
この中で一番まともそうだな。
「ところで。ルシファー様は白馬の王子様ってご存じですか?」
「知らん」
「きゃっ。そんなクールな所も素敵」
ウリエルは頬を赤らめ、歪んだ目付きになる。
悪寒。
暗殺者の勘が告げている。
ウリエルは見た目に反して、ヤバイ思考の持ち主だと。
なるほど。
全員変人と。
異世界の人間は個性派揃いだな。
「自己紹介はこんなところだな」
多少の疲れから、俺は足を組む。
「で? お前らはどこからきたんだ?」
彼女たちをこのままにしておく訳には行かない。
どこかから連れてこられたのだろう。
だったら親もとに送り届けよう。
助けた責任くらいは果たすさ。
それにこのまま一緒に居ても、録なことにならないだろうし。
「わからないんだ」
ラストが困り顔で、口元に手を。
「わからない?」
「うん。記憶喪失なんだよね。この城にいる全員が」
全員か。
ってちょっとおかしくないか。
一人二人ならまだしも、全員って。
まさか人為的に記憶を消された?
そんな技術が異世界にあるのか?
「マジかよ。なら、手がかりは一つも?」
「んー。わかることは、私たちが魔王の一族ってことくらいかな」
「魔王の一族? なんだそれ?」
「わからない。この城の人たちが、私たちをそう呼んでいたから」
魔王ねえ。
中二病の戯れ言かよ。
と、茶化したいけどここは異世界。
その専門用語に意味はあるのだろう。
俺の予感では、かなりヤバい案件な気がする。
「なるほどなあ。となると、これからどうしたことか」
「るははは! ダイブ!」
今後について手詰まりだと思っていた時。
突如、外から大声。
次の瞬間、応接室の窓ガラスが割れる。
「「「「!」」」」
ガラス片が部屋中に飛び散る。
それは、少女たちに襲いかかろうとしていた。
危ねえ。
少女たちに当たらないよう、俺は盾となる。
収まったな。ひとまず、怪我の心配は要らないと。
あとは
「侵入者か」
俺は白い神父服の男を観察。
あいつがこの状況を作った不審者だ。
おいおい。
今後の方針について考えているんだ。
邪魔すんな。
「オイラは暗殺騎士団所属! 八殺が一人! ベルフェゴル!」
「ゑ?」
なんて?
なんかの組織名か?
それとも中二病のお遊び?
そういうのは得意じゃないぞ?
「すまん。よわよわ騎士団だっけ?」
「違う! よわよわ騎士団!」
「は? あってるじゃねえか」
「あ、違う! 暗殺騎士団!」
「はあ? もしかして配達の方? 悪いけど、今取り込んでて」
「心配するな! 用件はすぐに済む!」
ベルフェゴルから殺気。
どうやら、楽しい団らんをしにきたのではなさそうだ。
「ここにいる魔王の一族。その回収にきたんだ!」
少女たちを拐いにきたと。
わかりやすい悪者が来たな。
少女たちを狙う謎の組織。
どこかでみた展開だ。
こういう時、出番となる存在は決まっている。
誰か助けて。
正義の味方はいらっしゃいませんか?
……
はいはい。そんな都合の良い存在は居ませんよ、と。
ったく、しょうがねぇなあ。
正義の味方とは真逆の存在。
不都合な存在である俺が動くしかないかあ。




