二 無能が目的地に近づいてみた
翌朝。アガレス城の大広間。
「おはよう」
俺は玉座に座り、頬杖をつきながら口を開く。
「「「おはようございます! ギルドマスター!」」」
職員たちの挨拶が、俺の鼓膜を叩く。
これはギルドの朝礼だ。
一日のやることの確認をする。
ちなみに、俺が玉座に座ってる理由は皆からの要望。
威光が拝みたい? のだそう。
良くわかりませんな。
「えーとだな。話すことは特にない」
朝礼って何の為にやるんだろうな?
挨拶? 気合い入れ? 顔合わせ?
そんなのは勝手にすればいい。
それより、その時間でやれることが他にあるはずだ。
うたた寝、二度寝、早寝とかさ。
「だからこれで終わ」
「ちょっと待って!」
解散する流れの中、ラストが割り込んできた。
「今日の予定があるから! みんな聞いて!」
ラストは書類にまとめた予定を発表していく。
こいつは一見アホそうな女の子。
実態はめちゃくちゃ仕事が出来る。
たまに抜けてるところはあるが有能だ。
「詳しいことは、ボードに書いてあるよ! わからないことがあれば、それを読むか、誰かに相談してね!」
アフターフォローまで完璧。
無駄のない朝礼だ。
暗殺ギルドが発展したのは、ラストのこういう支えあってこそ。
流石、次期ギルドマスター。
これならいつでも安心してニートになれるな。
まあ、まだなれないけど。
「あとルシファーからお話があるよ!」
「ないぞ?」
「あるでしょ!? ほら、この後の仕事」
「あー……はいはい」
俺は玉座から立ち上がり、二歩前へ。
「俺たちは暗殺騎士団を暗殺しに行く。場所はベレト。そこに潜入し、ターゲットを仕留める」
地図で確認したが、そこはここからかなり遠方。
移動はかなりの日数を要する。
きちんと入念な準備をし、不足の事態に備えなければ。
「お前たちに留守は任せた。じゃあ、お仕事開始」
俺はそう宣言し、部屋から退出した。
◇
「変装の服よし、弁当よし、小遣いよし、寝袋よし」
俺は大きなケースに荷物をしまいこむ。
「行くか」
自室を出て、集合場所に向かう。
「遅い! 遅刻だよ!」
「ったく、準備だけでどれだけ時間かけてるのよ」
「ふわーあ。ようやく来たみたいですね」
同行する三人の弟子たちが呆れ顔。
ちょっとばかし、昼寝をしてたら遅れたわ。
次からは気を付けます。
「ちょっと」
リリスが俺の荷物を指す。
目をひくひくさせながら。
「あんた、まさかその荷物を持っていくつもり?」
「当たり前だろ。だって、長旅だぞ? お前らだって、あ?」
三人を見ると、荷物はかなり身軽。
近場で散歩する程度の量だ。
「何でそんなに少ないんだ?」
それだけだと往復どころか、片道数時間でアウトだ。
もしや、自給自足でもするのか?
この依頼は、サバイバルの修行も兼ねていると?
そういう自らを無駄に追い込むのはやめとけ。
鍛練は健康状態から高めないと無意味だ。
「なんか深く考えてますね?」
「おーい! 大丈夫?」
ラストとウリエルが俺の前で手を振る。
「大丈夫大丈夫。てか、それはこっちのセリフだ」
「なんで?」
「とぼけんな。この旅でその荷物量。明らかに自殺行為だろ」
「「「旅? 自殺行為?」」」
三人は細い目線を向けてくる。
そんな難しいことは言ってないぞ?
ベレトとの距離を見れば、子供でもわかる常識だ。
移動だけでそれなりの日数がかかると。
「あのさあ? そんなに荷物は要らないよ?」
「は? 馬鹿も休み休みに」
「ちょっとごめんね?」
ラストが俺の荷物を隅に寄せる。
「おい待て。これはどういう」
「なにを勘違いしてるの? だってさ?」
ラストは指をぱちんと鳴らす。
すると、俺の見ていた景色が城内から
「ゑ?」
どこかの森に切り替わる。
「なんで?」
「私は転移魔術が使えるんだよ? 目的地まであっという間。忘れたの?」
ああ。
そういえば、ラストはその魔術が使えるんでしたな。
いつでもどこでも。
行き帰りをノーリスクで、移動できますがな。
旅だなんだと身構えてた俺は馬鹿だ。
「潜入も兼ねた暗殺だから、近くの森に移動したよ。下手に近づくと、向こうにばれちゃうからね」
「おう。んじゃま変装しますかね」
俺はケースから、昨日手に入れた騎士団の服を取り出す。
血の痕や服のほつれはなし。
サイズもピッタリ。
これを着れば、ベレトに潜入することが可能だ。
「あ、そうだ。今から俺は、あっちで着替えるわけだが」
顔を強ばらせ、俺は三人をじっと見る。
「「「?」」」
「覗きは厳禁な? そういうのは恥ずかしい」
「「「誰が見るか。こっちのセリフ」」」
そんなマジトーンで言うなよ。
ちょっと緊張をほぐそうとしただけなのに。




