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一 無能が大暗殺してみた/奴隷少女たち

「やっべえ」


 俺は血に染まった大広間を見渡す。


「王様殺しちまった」


 異世界転生をしてから数分後。


 俺は大量暗殺という愚行を成し遂げてしまった。


「どうしてこうなったんだっけ?」


 少し記憶が曖昧だ。


 一旦、異常事態になった経緯を整理しよう。


 ◇


 少し時は遡る。


「おお! これが七百人目の転生者か!」


「ここは?」


 先ほど、仕事の過労により意識が薄れた俺。


 これが死ってやつか。


 あっけないものだな。


 と、終わりを悟った直後。


 現在、なぜか見知らぬ城内に立っていた。


「ようこそ転生者よ! ワシはこのアガレス城の王、アモンだ!」


 立派な衣装の男性から声がかかる。


 その周りには、重厚な装備を着けた人々。


 転生者?


 それと聞き覚えのない城名だな。

  

 夢でも見ているのか?


 いや、感覚からして現実か。


 だったらこの状況は理解不能。


 と言いたいが、この現象について俺は答えを持っている。


 異世界転生だよな。


 死んだ奴が異世界で生まれ変わるやつ。


 まさか、実在したとは。


「汝のことは、我々の魔術で召還した!」


 となると、このアモンは異世界の王様。


 周りにいるのは、それに仕える騎士と言ったところか。


「して、汝の名は何と申す?」


 アモンが顎髭を擦る。


 どうやら、俺を吟味しているようだ。


「俺? コードネーム、ルシファー。日本人だ」


「ふむ。職業は?」


「職業ねえ。一応、暗殺者」


 これはジョークでも、自称でもない。


 俺は前世で暗殺を営んでいた。


 常にやめたいと思いながら。


 そんなやる気のない仕事に対し、身を捧げた俺。


 結果は、血みどろの中で生を終えた。


 異世界でも同じ結末を歩きたくないなあ。


 そうだな。


 ここではニートでも目指すか。


「思索に耽っているところすまない。汝は強いのか?」


「知らん。一応、暗殺の仕事はミスなくこなしてきたけど」


「ふっ……それだけか」


 笑ってんなこいつ。


 いや、わかるぞ。 


 大したことないやつを見て吹き出すのは。


 けど、礼儀ってものがあるだろう。


「結構、結構。久しぶりに愉快な笑い話を聞けて満足だ!」


 笑い話にするなよ。


 俺、こいつのこと嫌い。


「陛下。魔術にて、この者の計測が完了いたしました」


 一人の騎士がアモンに近づく。


「ふむ。で、この者は……?」


「魔術適正なし。無能です」


「なるほど。処分対象か」


 アモンの表情が真顔になる。


 先ほどのバカ笑いが嘘のように冷たい。


「皆の者! ルシファーを取り囲め!」


「は!」


 騎士たちが俺を取り囲みだす。


 彼らは帯刀する剣を抜き、刃先を突きつけてきた。


 ざらりと雑な殺気と共に。


「おいおい。これはなんの真似だ」


「ルシファーよ! 貴様は、生きる価値のない無能と判断されたのだ!」


「無能? まあ確かに、俺にふさわしい言葉かもしれんが」


「わっはっはっ! 理解が早くて助かるな!」


 騎士たちが俺に迫り寄る。


 文脈から見て、歓迎ムードじゃなさそうだな。


「で? そんな無能な俺はどうなる?」


「処刑する! 他の無能な転生者たち同様!」


 他? 


 あー。


 なんか、俺を七百人目とか言ってたな。


 そういうことね。


 こいつらは、俺以外の転生者を無能だから始末してきたと。


 おっかねえ。


 それで殺すとか、暗殺者よりもたち悪い。


「ふーん。じゃあ、お前らは俺の敵と」


「そう捉えてもらって構わぬ!」


「つまり、死ぬ覚悟は出来ていると」


 俺は手指の骨を鳴らす。

 

 転生の影響でなまっている、は無さそうだ。


 次に、ポケットの中身をまさぐる。


 手に硬い感触が伝う。


 鋭く、滑らかな線。


 この場に相応しい武器だ。


 仕事終わりに、入れ忘れたままでよかった。

 

 おーけー。戦闘準備は整った。


 なら、こいつらを


「暗殺だな」


「き、消えた!?」


 俺は兵士の波をすり抜け


「ここだ」


 アモンに接近。


「ぼほっ!?」


 その顎を殴り砕く。


「まずは挨拶」


「ぐこっ!? お、王のワシに歯向かうだと!? おのれぇぇ!」


「よ」


 体勢を整えたアモンと目線が合う。


 試しに威圧。


「ひ、ひいい! 許し」


 その目は怯えに満ちる。


 善良な人間なら、軽く懲らしめて終わり。


 仲良くハッピーエンドを迎えるのだろう。


 だが、俺にそんな選択肢はない。


「うるせえ。理由なく暗殺者に殺意を向けて、ただで済むと思うな」


 俺は短刀をポケットから取り出す。


 それをアモンの首に


「死ね」


 刺す。


「が」


 赤いモノが俺の頬に飛び散る。


 温い。


 それと、脂ぎった汗も混ざっているな。


 汚い。


 すぐに洗わないと。


「が、が。こひゅ……」


 だらりと俯くアモン。


 呼吸をしていない。


 一撃で仕留めたから。


 長く苦しまずに殺ったのはサービス。


「「「王! き、貴様あ!」」」


 兵士たちが、俺に向かって突撃してくる。


 動きが素人だ。


 おまけに統率もとれてない。


 もしかして異世界の奴らって、案外大したことない?


「この!」


 兵士の一人が俺に剣を伸ばす。


「遅い」


 その先端をつまんでみる。


 触ったところ、作りは俺の元いた世界の物とは違う。


 材質? 職人の腕?


「ほらほら。動かしてみろよ?」

 

「お!? おおおおおおお!」


 剣は全く動かない。


 力を入れてないのにこの程度か。


 がっかりさせるな。


「馬鹿が! 止まってやがる!」


 複数人が、勢いよく剣で刺そうとしてくる。


「死ね!」


「いいぜ? こいや」


 俺は持っていた剣を奪取。


 そのまま向かって来る無象を


「暗殺者の技。とくと見せてやるよ」


 斬断つ。


 うーん。


 こんな剣は使ったことがないから、扱いが雑だな。


 慣れたナイフなら、もっとスパっと切れるのに。


 流れで取っちまったもんだし仕方ないか。


「ば、化け物があああ!」

「こいつは魔術が使えない雑魚じゃないのか!?」

「人の皮を被った悪魔だ!」

「こんなやつを生かすわけにはいかん!」


 兵士たちが恐れと共に進軍。


 仲間の死を目の当たりにしても、勢いは止まる気配がない。


 やれやれ。


 逃げるなら見逃そうと思ったんだけど。


 お堅い精神が退避という選択肢を消してるんだな。


「いいぜ? 暗殺者の技。見たいなら、見してやるよ」


 ◇


「という流れから、今の惨状に至ると」


 俺はここまでの経緯を整理した。


「にしても、中々斬新な展開だな」


 異世界転生されて召喚者を殺す、ね。


 やっべえ。冷静に考えて詰みだ。


 普通なら、ここで世界の仕組みやら目的を聞く。


 そこから今後の計画を立てるのがお約束。


 けど、俺はそのチュートリアルをすっ飛ばしちまった。


 この世界の事がなにもわからない。


「せめて一人くらいは、生かしとくべきだったな」


 情報集めは基本中の基本。


 それを怠るなど、暗殺者失格だ。


 まあ、そんな烙印を押されてもなんともない。


 何せ、俺はニートになる男だからな。


「とはいえ、情報がないのは不味い。今後は手加減しながら、それを得るか。ん?」


 どこからともなく物音が聞こえてくる。


 鉄か何かが擦れる音。

 

 近いな。


 場所は


「あそこからか」


 音がした方に進んでみる。


「ふわーあ。これからどうするか」


 道中、トラップがないか確認しながら。


「んお」


 数分後。


 無数の牢がある部屋にたどり着く。


 その中には


「お、女の子?」


 多くの美少女たちが、枷に繋がれていた。


 奴隷、なのだろうか?


 おいおい。あのアモンとか言うジジイ。


 趣味が悪いぞ?


「はー」


 にしても、こんなにたくさんの少女か。


 これは嫌な予感がするな。


 関わったが最後。


 今後の人生に大きく影響する。


 そんな気がしてならない。


 今なら間に合う。


 回れ右して、見てみぬ振りが懸命だ。


 彼女たちがどうなろうと


「なんて出来ねえか。ったく」


 ここで見捨てられるほど、俺はクズじゃない。


 暗殺者だって情くらいはある。


 人助けするのは何らおかしくない。

 

 俺は少女たちの解放へと動く。


「さて、こいつらとの出会い。鬼が出るか蛇がでるか」

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