7月13日
本作はフィクションです。登場する地震、災害、避難行動、自衛隊・警察・行政機関などの描写はすべて創作に基づいたものであり現実の事象・組織・人物との関係はありません。
公的機関の対応を批判・揶揄する意図は一切なく、人間ドラマとしての側面を描いたものです。
7月13日(火) けいお兄さんと遊びました。
しずるお兄さんの友達だって言ってました。けいお兄さんは優しくて、かっこいいお兄さん、だ、って自分で言ってました。ほのかちゃんとも仲良くしてくれててすごいなって思いました。はねちゃんはいやな顔をしてたけど、元気なのがいっしょのあさやお兄さんは喜んでました。
今日のしずるお兄さんは少ししずかで、いつもとちがう感じがしました。気になったけど、話しかけようとしたらほのかちゃんがわたしの名前をよぶので話せませんでした。
それから、ひさしぶりにれんくんと話しました。れんくんはいつもお母さんといっしょにいます。少しうらやましいですが、それでもわたしにはしずるお兄さんやみんながいるのでさみしくありません。お母さんとなかなおりできるかも、っておもったけど、いないのはいつものことだから。わたしは、さみしくないんだとおもいます。
しずるお兄さんには、お母さんをさがしてって、言ったけど。本当は、思ってないのかもしれません。
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遂に、来てしまった。
一花はなんとも言えない不安を噛み締めながら、ただ眼前に広がる廃都市を見つめていた。
「静流、無理すんな」
新しく同じ班になった圭が心配そうに声をかけてくるが、それでも、その心配には応えられない。この世界で自衛官として生きると決めた一花はこの場所の探索だけは自分でやらなければならなかった。
一花の実家のある地区、見つかっていない母親が居るはずのこの場所で、一花は新しく生き直さなければならない。例えそれが望まぬ形であったとしても。
「こちらA班、一人確認しました!」
「こちらC班、二人確認しました!」
あちらこちらで声が聞こえる度に、一花は情けなく心臓を跳ねさせる。班が違うのにそちらに向かおうとして圭に引き留められる。その人のものらしい名前が上がり、そうだと確認されてチェックが入る度に安堵とも焦りとも言えない感情が沸き上がり、歯を食いしばる。
現場は、なんとも言えない匂いが漂っていた。甘いような、けれど決していい匂いではない。死体の臭いだった。
事故、それからの大雨。異常気象とも言える日差しの中で腐りきったその匂いは防護服なんてない自衛官達の鼻を焼く。刺激臭と言うに相応しいその匂いが、この場所に生存者が居ないことを言外に伝えてくる。
「静流、」
「…俺は大丈夫だ」
圭や、他の自衛官達は何を思ってこんな場所を彷徨いていたのだろう。この臭いの中、どれだけの絶望を持って歩いたのだろう。
「大丈夫、なんだ」
けれど立ち続けなければ無かった。
この終わった世界では、飲み水が限られてくる。自衛官だからといって一般市民より優遇されるなんてことがあっていいわけが無い。一度の救助で使える水分はそれこそ十分な量でなく、熱中症にならないようにと自由に飲める量ではない。具合が悪ければすぐに飲める、という訳でもなく、体調の変化があったものから休憩にかかるといった忙しないもので。次に全員が万全の状態で調査に当たれるのはまたいつになるかも分からない。
腐りかけの人間の確認は酷く難しい。
時間が経てば、もっと。
だから、今日見つけなければならない。
「おれは、」
「静流!」
おれは、
一花は、ブラックアウトしていく世界に、ただ己の無力を恨んだ。
再度申し上げますが、これは妄想の産物です。
実在するなにかしらとは全く関係がありません。