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7月12日

本作はフィクションです。登場する地震、災害、避難行動、自衛隊・警察・行政機関などの描写はすべて創作に基づいたものであり現実の事象・組織・人物との関係はありません。


公的機関の対応を批判・揶揄する意図は一切なく、人間ドラマとしての側面を描いたものです。

7月12日(月) 1週間たちました。

みんながそう言ってます。1週間たつといいことがあるんでしょうか。よく分からないけど今日はいっぱい人が増えてとてもさわがしかったです。さいしょに車のなかで会ったけどここに来てから会えなかった、おれいを言えなかった人もいました。「ありがとう」って言ったら笑ったりする人や悲しそうな人がいてみんな大変なんだなって思いました。


-----


「立波、あの、…久し振りだな」


一花が声をかけた同期の男、立波圭は一花の記憶の中よりもずっと痩せ細っているように見えた。気さくな、兄貴気質の男だったのに、今や『見る影なく』、いや。そんなことは無いけれど、少し落ち着いたふうに見える。


「静流か、…久し振りだな。

 …少し痩せたか、大丈夫か?」


「…あぁ、俺は、大丈夫だよ」


お前こそどうなんだよ。と、言えないのが一花だった。こうなる前はさして気にならなかった自身のコミュニケーション能力の低さが、一花自身最近になって気になっていた。心配されるばかりでそれを返せない。もっと他に言うことがあるだろうと自身を焚きつける一花。


「あんな見栄張って出てったのに、

 このザマだ。笑えるよな」


『終末調査隊』を名乗る教授がつるんでいた元自衛官の集まりがこの避難所に来るにあたり、その仲介役として手を貸してくれた教授の警護を勤めることになった一花は彼らがここに来るまでの間口を開けなかった。職務中だと言う言い訳をして、ちらちらと向けられる視線を全て無視した。もっと、言えることがあっただろうに。いつもの調子でマシンガントークをしてくれる教授に甘えて、自分は声をかけることも、声をかけられることもしなかった。


「…そんなこと、言うなよ」


圭達が職務を放棄したことで、その照り返しが来なかったかと言われれば、それはまぁ来たが。でも、彼らを悪だ、ないし悪いというようなことはしたくなかった。


一花が家族より職務を優先したように、彼らはただ、職務より家族を優先しただけ。どちらが正義だとか悪だとかはなく優先順位が違っただけのこと。家族を守ることで精一杯の人間がいるように、それと向き合えない人間だっているのだ。一花は紛れもない後者だった。


「その、色々あるだろうけどさ。

 力、貸してくれよ。

 もう何が起こるのかなんてわからねぇんだぜ?

 俺達は、…協力、出来るだろ」


声が震えるのは、早口になったり途切れ途切れになったりしたのは『断られたくなかった』からだろう。


「あぁ、分かってる」


だから、間を置かずに圭がそう言ったのを聞いて一花は分かりやすく安堵に似た感情を抱いた。肩の力が抜けるような、ようやく圭の顔が見られるようなそれに名前をつけるのは難しい。


「良かった」


「…なんだよ、嫌だって言うと思ったのか?

 信用ねぇなぁ、同期なのによ」


一花が心からそう言えば、圭は茶化すように軽く笑った。それから、ぽすりと一花の頭に手を乗せて、圭はなんとなく懐かしそうに笑う。


「いや、そんな訳じゃ、」


「ふ、知ってる。

 お前が嘘つけないのくらい同期じゃ有名だ」


からから笑う圭は昔と変わらない、包容力のある態度をしていた。それにまた、次こそちゃんと安堵して、一花は圭が腰掛けているベンチに座った。どすん、と。ぎしりと鳴るベンチのことなんて気にせずに座って、「はー…」とため息をついた。


「……心配したんだぞ」


一花がそう言えば、圭の肩に力が入る。


流石に気持ち悪いか、と言い直そうとすれば、が、と圭が一花に肩を組む。


「もっと怒れよお前はさぁ!」


片手で肩を組んで、片手で顔を覆う圭が叫ぶ。


「はぁ?」


「もっとこう、殴りかかっていいんだよ!」


昔らしい感情の起伏が激しいところに懐かしさを感じる。この騒がしさが、一花は嫌いじゃなかった。自分が受け身な人間だからか、圭のようにグイグイ来てもらえるのが助かるのだ。だからよく圭ともつるんでいた。


「お前ってやつは、!…はぁー!!」


「なんだよ!っ、と、悪い」


両者ともに声を荒らげたからか、周りの目がこちらを向く。例え自衛官しか入れない休憩所兼会議室とは言え、流石に少し気まずい。


「ったく、元気ならいいんだよ」


一花が照れ隠しのようにそう言えば、圭は一花の肩をガクガクと揺さぶる。


「お前なぁ、お前、お前はさぁ」


もう一度ため息?を着いた圭が次は一花の肩をばんばんと叩いて、それから晴れやかに笑った。外は曇りなのに、ここだけ晴天のように空気が明るい。「イチャつくな〜?」なんて御子柴が茶々を入れてきて、周りの同僚も笑ってる。久しぶりの緩やかな空気に一花の口元も緩む。随分久し振りな感じに心が浮ついているのがわかった。


「ここの人らも優しくって俺はさぁ!

 お礼まで言われて、あ゛ー!

 頑張ります!頑張りますぅ!

 不肖立波圭!身を粉にして働きます!」


今だけは、平和だった。




再度申し上げますが、これは妄想の産物です。


実在するなにかしらとは全く関係がありません。

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