7月10日
本作はフィクションです。登場する地震、災害、避難行動、自衛隊・警察・行政機関などの描写はすべて創作に基づいたものであり現実の事象・組織・人物との関係はありません。
公的機関の対応を批判・揶揄する意図は一切なく、人間ドラマとしての側面を描いたものです。
7月10日(土) 今日はお外に行きました!
あさやお兄さんと、はねちゃんが悪だくみしてるのを聞いたから、それをないしょにするかわりにお外につれて行ってもらいました。お兄さん達は「週末調さたい」って言うらしいです。しずるお兄さんやゆうやお兄さんにはないしょ。
お外は、雨がふったあとのすなばみたいでした。
こわかったけど、はねちゃんが手をにぎっててくれました。ほのかちゃんがさがさないって言うから、ほのかちゃんのかわりにお母さんをさがしたけど、いませんでした。
-----
「朝哉!!お前はいつもそうだ!!
個人行動がどれほど危険だが、
それによって周りがどう思うか!
俺は再三お前に伝えたはずだぞ!!」
班長の怒声が響き渡る。
「私はその道のプロだぞ!」
それに、教授が怒鳴り返した。
「危険性は分かっていると言っているんだ!
君たちの亀の歩みのような調査と!
私達本職の人間と優位性は変わらない!」
「変わるに決まっている!!
何が本職だ!遊びじゃないんだぞ!」
「そんなことはわかっている!!」
「分かっているなら!」
こう並べてみると、存外似ている二人だと一花は思った。方向は違うがその実直さと、真剣な眼差しが血の繋がりを感じさせる。隣の席で班長の説教をうるさそうに聞いている鹿子はぐったりしているのにそれを真っ向正面から聞いている教授は意気揚々と言い返している。
「なぜ子供を連れていった!」
「っぐ、それ、は…」
が、さすがに教授も正論には勝てないらしい。部が悪そうに顔を顰めて、そっと向こうを見ている。
「それは、確かに浅慮だった。
七瀬くんや棚淵くんにやる気があるから、と。
いや、これは言い訳だな」
やがて、覚悟を決めたように謝罪した。
「なんか、ドラマのワンシーンみたいっすね」
鹿子が他人事に呟く。鹿子と共にその怒声やら言い合う声が聞こえる部屋に待機させられている一花は「それな」とは言えなかった。すごく言いたかったが。
「鹿子くんも他人事じゃないぞ〜?」
御子柴がちょけるようにそう言えば「すんません」なんて軽い謝罪が返ってくる。
「俺の今の保護者はあの人なんで、
来いって言われたらついて行くしかないんすよ」
全く緊張がない白々しさでそう言った鹿子はニコリともしない。相変わらず、と言うほど親しいつもりは無いが、出会ってから彼の表情筋が動いているのを見たことが無い。だからこそその言葉が彼にとってどのくらい重みのあるものか計り辛い。御子柴も同じことを思ったのか、大人2人が大学生相手に黙りこくるなんとも言えない状況になっていた。
「一応俺はまだ未成年なんで、
大人の言うことには従いますよ」
未成年とは思えないくらいの余裕がある鹿子は、まるで爬虫類みたいな温度のない瞳をこちらに向けていた。じぃ、と。観察するような、底冷えするような瞳に、一花は言葉を詰まらせる。
「ま、でも楽しいこと優先っすけど」
あっけらかんと言われてしまえば、何も言えなかった。
「あのね、わたしが言ったの」
舞が、謝るように言う。
「つれてって、て、」
「あー、うん。そっか」
今にもと泣きそうな舞の頭を撫でる一花は、正味この場面が市民にバレたら袋叩きに合いそうだな、なんて考えながら泣き止ませる言葉を精一杯考えて言葉を絞り出す。
「でも、しょうがない、かな、?」
「このお兄さん慰めるの下手くそ…」
穂花の辛辣な言葉に一花が少し顔を顰める。この軽口も慣れてきてくれたという証拠なのだろうと思えば悪いものではないのかもしれない。でもまぁ、傷付くには傷付くが。周りの大人からヒソヒソ声で「役立たず」と言われるよりもマシだろう。
「連れて行った大人の方が悪いから、
舞ちゃんは気にしないでいいよ?」
そうとしか言えない。
「でも、わたしがつれてって、て言ったの。
だからお兄ちゃん達は悪くないんだよ?」
「注意だけだから、大丈夫だよ」
「ほんとに?」
「本当」
元より、地質学について学がある彼らに協力を要請しようかと言う話も出ていたのだ。遅かれ早かれ彼らがこうやって歩き回るようになるのも想定の範囲内だ。
「お母さん、いなかった」
「うん、お兄さん達の力も借りて、
きっと見つけてくるからね」
「お兄さん達は仲良しだから」と一花が笑えば、舞は少し安心したように笑った。
再度申し上げますが、これは妄想の産物です。
実在するなにかしらとは全く関係がありません。