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7月9日

本作はフィクションです。登場する地震、災害、避難行動、自衛隊・警察・行政機関などの描写はすべて創作に基づいたものであり現実の事象・組織・人物との関係はありません。


公的機関の対応を批判・揶揄する意図は一切なく、人間ドラマとしての側面を描いたものです。

7月9日(金) 雨がやみました。

今日はしずるお兄さんがいそがしそうにしてました。晴れたから、お仕事がいっぱいあるそうです。前に、お兄さんにうそつきって言ったことをあやまりたいのに、お兄さんはわたしがそれをいおうとするとあたまをなでて止めてきます。


ほのかちゃんが、ああいう男はやめておけっていって、しずるお兄さんがあせっていました。


今日はそれから、しずるお兄さんがへんなお兄さんをつれてかえってきました。すごく元気なお兄さんで、あさやさんって言うらしいです。もう一人は元気そうじゃないお兄さんで、「はねちゃん」ってよんでって言っていました。しずるお兄さんは、お兄さん達に困ってるみたいでしたけど、わたしは楽しいのでよかったです。


-----


台風が去ったらしい、天気は晴天、正しくいい天気だ。ようやく夜が明けたような気がする。一花はもったいないと思いつつも、良くなった気分に乗せられて煙草をふかしていた。


低気圧なのかストレスなのか治らない頭痛が煙っていく感じが最高に気持ちがいい。晴れ晴れとした気分だ。だから、と調子に乗って舞に会いに行って「お母さん探してくるからな」なんて格好つけたら、近くにいた穂花に「クズ男のてんぷれーとってやつだ…」と言われて思わずむせてしまった。近くにいた御子柴が笑っていたのを一花は知っている。


それでもいいか、と探索に出た。



「そこでだね!この災害に人為的ななにかが…」


頭痛、再来。

探索にきた火延地区で、生存者を二名見つけた一花。どうやら火延大学の教授とその生徒らしく、勝手に調査をしていたらしい。別に咎めることでもないし「危険だ」としか言えないが、取り敢えずと声をかけた瞬間に始まった講義(?)。


「名乗っておこう!

 私は火延大学自然科学科の教授、

 歪屋朝哉だ!どうぞよろしく頼むよ!」


「あ、俺は跳町鹿子です。

 鹿に、子供の子で、かこ、って読みます」


「お、れは、静流、一花だ。

 静かに流れる、一輪の花、で、しずるいちか」


名前を聞いた瞬間、一花の頭が冴える。


「歪屋っ、て、…。

 もしかしてご兄弟に夕哉さんがいますか?」


「うん?あぁ、いるぞ!

 そう言えば夕哉は自衛隊所属だったか!

 君の同僚か?いや、君の方が若く見えるな、

 …あぁ、夕哉の部下だから、と。

 わざわざ私に遜らなくていいぞ!」


本当に兄弟か?と思うくらい、朝哉は騒がしい。その後も二言三言話したが、双子らしいのに共通点が見つからない。歪屋という珍しい苗字がなければ気が付かないだろう。顔立ちもあまりソックリではないし。なにより、


「『フセー』教授、少し黙って貰えます?」


「こら『シカ』跳町くん!年上は敬いたまえ!」


生徒から舐められている。歪、を分解して、『不正』か。それにしたって、跳町の前に『シカ』と付けるなんて、色んな意味で無礼な人だ。『シカバネ』とはまぁ、世界中の跳町さんに謝った方がいい呼び方をして…。いつも礼儀正しく、周りにもマナーに厳しい歪屋班長の実の兄弟とは思えない。


一花は、なんだかおかしな気分になって、七割以上理解出来ない『フセー教授』の話を聞いていた。




「うわ、…、…朝哉か」


「失礼だな夕哉の兄さん!

 親愛なる家族との再開の言葉がそれか!」


避難所にて、『フセー教授』は一切の躊躇をせず、仕事中の歪屋班長に突撃していた。それから歪屋班長の持っている名簿の自分の名前の欄に自分でチェックを入れると歪屋班長に肩を組んでいる。歪屋班長の方が筋肉があって、『フセー教授』はただしくヒョロガリと言っていい細い体をしているのに、言葉の圧の方は『フセー教授』の方が強い。


「兄さんと呼ぶな、俺達は双子だ」

班長のウンザリしたような言葉。


「良いじゃないか!

 昔から夕哉は『兄さん』と呼ぶと喜ぶだろう!」


「やめろ!」


ごつ!と歪屋班長のゲンコツが『フセー教授』に落ちる。それはもう痛そうに悶えた教授は、それでも楽しそうだ。


なにより、最近はずっと憂鬱そうな顔をしていた班長が安心したような顔をしているので、家族仲は悪くないんだろうなと理解できる。班長の近くにいた「代わります!」と手を差し出すと、班長は渋々、だが嬉しそうに「任せた、すまない」とと笑って教授を連れて行ってしまった。


「あの人ら、兄弟仲いいンすね」


「っお、あぁ、そうだな」


鹿子が話しかけると、一花は分かりやすく肩を跳ねさせた。それに何を言うでもない鹿子は退屈そうに目を細めている。車にいた時から一花は彼のことを、なんというか、ダウナーな雰囲気の若者だと思っていたが、あながち間違いではないらしい。ふあ、と欠伸している姿は様になる。もしかしてモデルとかをやっているのかもしれない。


「朝哉!!!!」


「わはは!そう怒るな!それでは夕食の時に会おう!」


ばぁん!と二人が消えた空き会議室の扉が勢いよく開くと、中から教授が出てきて、それを咎めるように班長の怒声が響く。働いている自衛官の中には班長に怒られた人間も少なくないため、情けなくも肩を跳ねさせている自衛官が多数いるようだ。


こわ、と隣から鹿子ののんびりした声も聞こえる。


「そこの探索班のきみ!

 えぇと、そう、静流くんだ!

 君は今から休憩だろう?

 施設を案内してくれないかい!?」


「あ、はぁ、いいですけど」


なんというか、楽しい人だな。





再度申し上げますが、これは妄想の産物です。


実在するなにかしらとは全く関係がありません。

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