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7月8日

本作はフィクションです。登場する地震、災害、避難行動、自衛隊・警察・行政機関などの描写はすべて創作に基づいたものであり現実の事象・組織・人物との関係はありません。


公的機関の対応を批判・揶揄する意図は一切なく、人間ドラマとしての側面を描いたものです。

7月8日(木) 今日も雨がふってます。

ほのかちゃんが、頭がいたい、って言ってました。そのことをしずるお兄さんに言ったら、くすりを持ってきてくれました。それから、知らないおばあちゃんが、「ないしょだよ」って、ほのかちゃんと2人ぶんのおかしをくれました。


今日は、大人の人が怒っていて、こわかったです。


-----


「なんで探索に行かないんだ!」


「引きこもっていても何にもならないだろう!」


じゃあ、お前らだけでもいけよ。一花は頭を振って、湧いてきた言葉を振り払った。市民の焦りや不満は分かるからこそそんなことは言えなかった。ただ、行けるのなら、行けるのなら、一花だって、母親を探しに行きたい。別に脱退してまでとは言わないけれど。低気圧のせいで頭痛が治らない、煙草も、残り数本になってしまっている。ストレスに任せて吸うのは良くないだろう。


「分かっています、雨が弱くなれば、」


「うちの子供はまだ生きてるかもしれないのよ!!」


市民の不満を一重に受ける歪屋の後ろに控えていた自衛官の一人が、何かを言おうとして歪屋本人に止められた。


それを見た市民が「暴力を振りかざす気か!」とまた怒鳴る。こうなればもう堂々巡りだ、一花は何も言えず、何をしようとすることも出来ず、ただぼんやりとその市民達を見つめていた。女も、男も、ただ行き場のない不安をこちらに向けているだけなのだ。


「食料はどうするつもりだ!

 この雨でダメになってるかもしれない!」


「早く取りに行かないと!」


最もだ。けれど、その正論でなんになるのだろうか。


大災害の前だって賢い学者様や政治家、果てはどこぞの国の占星術師を名乗る老人までもが、その予言は当たらないと論文や証拠を上げて正論らしく振りかざしていたのに、結局はこうなったのだ。


一花だって、信じていなかった。どうせその日が過ぎても世界はなんて事ないように続いて、家に帰れると思っていた。


「俺は家族が一人も帰ってきてないんだぞ!」


帰れば、パフが散歩に連れて行ってと寄ってきて、テレビを見ながらぼんやりしているであろう母さんにご飯を作って。そんな毎日が続くんだと思っていた。


「心労は百も承知です」


「いやお前達は何も分かってない!!」


「そうだ!」


いたちごっこだった。

正論を振りかざし不満をぶつけてくる市民側と、同じく正論でそれを躱す自衛隊側。きっと誰が悪いとかはなくて、きっと誰が正しいとかもない。遠目から両者のやり取りを見ている市民も自衛官も、どちらの方につこうという気は無いのだろう。遅かれ早かれこうなることは分かっていた。


「ですから、」


「し、しずるお兄さん」


ヒートアップしそうな話し合いを止めたのは、小さな少女の声だった。


「ま、まいちゃ、七瀬ちゃん」


七瀬舞、一番最初の救助者の内の一人で、両親が居ない避難所で何故か一花に懐いてきている少女だった。その子を認識すると、頭に血が上っていただろう周りの大人達ですら気まずそうに口を閉じてしまった。


「どうかしたのか?」


「あ、あのね?ほのかちゃんが、」


気が抜けてしまったのか、はたまた出鼻をくじかれいたたまれなくなったのか、数人の大人達は逃げるように散っていってしまった。


「ほのかちゃん、頭いたいって」


「…今薬持ってくる!ちょっと待ってくれ!」


少しだけ、助かった。



「ほのかちゃん、大丈夫?」


「…うん」


「ほ、ほんとに?」


「まいはだまってて」


「ご、ごめん、」


一花の言葉には億劫そうに答えるのに、舞が話しかけると一転して強気に出る。棚淵穂花という少女はどうやら大人に苦手意識があるらしい。けれど、薬を受け取ってすぐに飲んだところを見ると本当に頭が痛かったのだろう。顔色も悪いように見える、し、何より最初に出会った頃より声に元気がないように思える。勿論出会ってから数日があまりにも忙し過ぎて『そうかもしれない』としか言えない。


「本当に大丈夫?医者とか、」


「だ、だいじょうぶです!ほんとに、

 まいが心ぱいしょうなだけで…」


「でも、ほのかちゃんきのう、」


「だまっててってば!」


穂花が舞を突き飛ばして、舞がその場に尻もちをつく。一花が思わず穂花に視線をやると、「ちがうの、」と、小さく言葉を発する穂花。


「穂花ちゃん、さすがに、」


「な、なんで、わたし、そんなことしたいんじゃ、」


どこか呆然とした風の穂花が呟く。


「わたし、いま、おかさあさんみたい、」


「ち、ちがうよ!」


ふるふると体を震わせて、ぶつぶつと呟く穂花に声をかけようとした瞬間、どん!とさっきまで地面で驚いていた舞が穂花に飛び付いていた。いつもの、平和そうな、どこかぼんやりした顔を精一杯引き攣らせて。「ちがうよ!」ともう一度穂花に告げる。


「ごめんね!わたしが、びっくりしたから、

 ほのかちゃんはわるくないよ!

 ね?ね、?しずるお兄さんもそう思うよね!」


一花は、小さく「あぁ、そうかもな」と返した。

子供達は子供達で、それなりに考えていることがあるのか、と。嫌が応にも考えなければならなかった。



再度申し上げますが、これは妄想の産物です。


実在するなにかしらとは全く関係がありません。

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