7月7日
本作はフィクションです。登場する地震、災害、避難行動、自衛隊・警察・行政機関などの描写はすべて創作に基づいたものであり現実の事象・組織・人物との関係はありません。
公的機関の対応を批判・揶揄する意図は一切なく、人間ドラマとしての側面を描いたものです。
7月7日(水) 天ばつらしいです。
ほのかちゃんが言ってました。町がこんなにめちゃくちゃになったのは、ほのかちゃんのお母さんがほのかちゃんをいじめたからだそうです。ほのかちゃんは、ざまあみろって泣いていました。わたしは、きのうほのかちゃんがお母さんに会いたいって泣いてるのも見ました。どうしてうそをつくんだろうと思いましたがまた怒られそうなのでやめました。
今日はすごく雨がふっていて、しずるお兄さんがたいくつそうにしていました。ゆうやお兄さんも、なんかずっとそわそわしていて、大人の人たちは大変そうでした。
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2度目の日が明けた、いや、空はどんよりと曇っていて、警報級だろう大雨が朝からずっと降っている。まぁ、警報を鳴らせない今じゃ、そんなこと言ったって嫌味にしかならないのだろうけど。一花達自衛隊も、今日ばかりは仕事が無い。大地震の後だ、緩んだ地盤が大雨と呼応して大変な災害になりかねない。今日は他の県の自衛隊達と合流する作戦を立てていた歪屋も浮かない顔で朝から今日は休日の旨を伝えてきた。
昨日の探索で、また何人かの自衛官達が離脱した。焔街駐屯地はあまり規模が大きくなく、元からそこまで人数が居ないといのにこの有様では、明後日、明明後日の探索が出来るかすら分からない。そんなこと、考えるだけ憂鬱だ。
「聞いたか?自衛官の奴ら数が…」
「それもそうだが、警察の方じゃ…」
喫煙所でタバコを吸っていれば、自然とそんな声が聞こえる。そりゃあ、何も出来ない一般市民からすれば自由に探索が出来る一花達は羨ましいのだろう。その上、離脱までして家族を探しに行ってる人間も居ると来ればそれが妬みになるのも分からない話ではない。
「(警察の方も、散々だろうな)」
ふう、と煙を吐く。
警察の方では、1部の人間が集まって車を盗んで行ったらしい。お陰でこの避難所での警察は腫れ物扱いだ。
「銃とか持ってたりするのかね」
そう、問題はそこだ。家族を探すために離脱した警察官の中には、銃を携帯したままの奴らもいたそうだ。一般市民に探索を頼んだり任せたり出来ないのはそういう理由もある。ただでさえ地盤が危ういのに、危険物を所持している大人がうろついているだなんて冗談じゃない。
勿論こんなことは一般市民に言えないが。
「静流、会議あるらしいぞ」
ぼんやりと、視線を床に向けながら周りの話を聞いていればいつの間にか近くに来ていた御子柴に肩を叩かれた。昨日より少しマシな顔をした御子柴は、けれど、災害前の活発な性格を知っている以上元気そうとは言えない。
「おう、今行くわ」
「焔市、西区での発見者は…」
ホワイトボードに貼られた手書きの名簿の埋まり具合は半々と言ったところだ。隣にいる御子柴が、チェックの着いた自分と同じ苗字を見た瞬間、ぐ、と歯を食いしばる音を漏らしていた。残念、と言うべきかはたまた期待出来る、と言うべきか、静流の苗字はまだ無い。そう言えば、とここに来てから懐いてくれている少女の苗字を探せば見つからなかった。だから、と言って掛けてやる言葉はないけれど。
「現状、一番重きを置きたいのは食料です」
歪屋班長、歪屋夕哉班長がこつん、とホワイトボードを叩く。確かに、今は自衛隊が補助食や水を提供しているが、それもいつまでもある訳じゃない。別の班が食料を探していたが、結局は建物の倒壊が激しく上手いこと集まらなかったと聞いた。
「我々は公務員として市民を優先しなければならない」
分かっている。歪屋の言うことは人として正しいのだろう。一花は、酷く胸が空いた気分になった。
「だが、…だが、だ」
だからこそ、歪屋から続いたその言葉に、一花は思わず唖然としてしまった。失望だとか、尊敬だとかではなく、ああ、この人もそんなことを言えるのかという、単純な驚きだった。なにせ一花の中で歪屋という人間は病的に生真面目で、規則を重んじる人だったから。現場での除隊を認めたり、今こうして、苦しそうに口を開いた姿だったりが、その人を『厳しすぎる上官』、から『自分と同じただの人』なのだと思い知らさせる。
「お前達も、ただの人間だということを忘れるな。
以上、今日はゆっくり休め」
そうか、日本は終わったのか。
一花はただしみじみとそう思ってしまった。
再度申し上げますが、これは妄想の産物です。
実在するなにかしらとは全く関係がありません。