別れの音色から色づく夏
夏の風物詩、縁側に飾られた風鈴の音を聞いて、僕はいつもあの一つの夏の日々を思い出す。
数年前、この田舎町に父親と二人で引っ越してきた十六夜 鈴花。
彼女は各地を父親の仕事の都合で転々としているという。そんなだからか、別れと出会いを繰り返すことに疲れて、あまり人に心を開くことはなかった。
僕は、そんな彼女を気がつけば目で追っていた。
そしてある日、ついに勇気を出して話しかけた。
「ねぇ、僕と友達にならない? せっかく来たんだから人間関係も楽しまなきゃ損だよ」
「……どうせ、私は来年にはここにはいない。友達なんて作っても……」
「そんなことない! そんなんじゃちゃんとした友達なんて出来っこないよ! 僕は、誰かがそんな風に寂しくしてるのを見てるだけなんて嫌だ!」
あの頃の自分はまだまだ子供で、今振り替えれば恥ずかしくなるような記憶だけど、その価値はあったと思う。
それから僕は、彼女を多少強引にでも色んなところに連れ出した。川で釣りをしたり泳いだり、田舎ならではの遊び方を彼女に教えたり――そんな日々の中、鈴花が来月に引っ越すという話を聞いた日。
僕は風鈴をふたつ買って、鈴花のもとに走っていた。
「鈴花……! これ、あげるよ!」
「風鈴……? 2つも?」
「片方は僕のだよ! 離れていても、同じ風鈴の音を聞いてる……ってなんだか素敵だろ?」
「……そう、かもね。私に、ここまでしてくれたのは君が初めてだよ」
「へへ、いつかまた会おう。必ずね」
「……うん」
僕はそういって、小指を差し出した。鈴花はくすりと微笑んだ。そして、その指先が触れた瞬間、どこからか風が吹き抜けて――ふたつの風鈴が、同時に音を鳴らした。
「これから先、何回この風鈴の音を聞いても私は今日の音を忘れないと思う……」
「うん、僕も……」
彼女の頬が、赤く染まっていた。きっと僕も。
「君のこと――」
「鈴花のこと――」
僕たちは同時に切り出していた。声が重なって、それから。
「……好きだよ」
風鈴の音が、軽やかに響くなかで想いを共有したことを、僕は今でも忘れない。
「……ねえ」
縁側に座って記憶に想い出を馳せていると背後から懐かしい声が耳をくすぐった。
振り向けば、そこにあった顔に僕は自然と顔を綻ばせていた。
「――好きだよ」
過去の焼き直しのように僕たちは同時に言葉を紡いでいた。鈴花は、僕があげた風鈴を手に持っていた。
夕焼けの中、またあの時と同じように風が鈴を揺らし、僕らの声は重なった。
過去の別れの鈴の音をきっかけに、今の僕らの夏が始まる――。




