雨の日の出会い
冷たく肌を打ち、服を濡らす雨の中を一人、少女が歩いていた。 その表情は暗く、俯いているせいで影に染まっている。
「……どうせ、私なんて」
家に帰っても、彼女の両親は喧嘩ばかりしている。昔はこうじゃなかったと思っても、その昔のことは最近は曖昧だった。 だから少女は肩身が狭く、こうして飛び出してほっつき歩いていた。普通の家庭だったら怒られるだろうけど、それもない。 つまり、少女は自分が親にとって無関心な存在だと感じていた。 誰でもいいから好意を向けてほしい。慰めてほしい。そんな思いから少女は自然とネオンが眩い大人の歓楽街へと足を向けていた。
「君、一人?」
辿り着いたその歓楽街で、少女はベンチに座って空をぼんやりと眺めていた。掛けられた声に反応してゆっくり顔を上げると、親とそう大差ないだろう男性がいた。
「お茶でもどうかな? もちろん奢ってあげるから」
このような手合いのいる街だと知って少女はここにいる。コクりと頷いて立ち上がると、その男性に従って歩き始めた。色んな話をする男性に、適当に相槌を返していく。下心が丸見えだった。 でも、関心を持ってくれるのならそれでも構わなかった。けど――。
「おい、おっさん。いい歳して見境なしかよ? 良識ってもんがねえのか」
背後からの声。そこにいたのは目をぎらつかせる少年と大人の中間ぐらいの傘を差した男だった。 彼は一方的に告げると少女の手を取り、小走りで駆け出す。やがて少女を公園のベンチに座らせた。自分が濡れるのも構わず、傘を押し付けるようにして。
「なにしてんだ、お前。あんな場所でおっさんが何考えてるか、分かんねえわけじゃねえだろ!?」
「……私の勝手でしょ。貴方こそ、初対面なのになに?」
「このアホ! 自分をもっと大切にしろ!」
一喝が空を裂いて響く。少女は驚きに目を見開いて男を見上げる。気が付けば涙が溢れていた。やってしまったと狼狽える男は慌ててハンカチを少女の膝に置いた。
「うおっ……! わ、わりぃ! 確かにお前の言う通りだった……! 何やってんだろな、俺!」
立ち去ろうとする男を、少女が顔を上げて引き留める。
「――待って! そこまで言っておいて置いてくなんて、ないよ……」
どこか弱々しく、しかし切実な響きを秘めた声に男は足を止める。潤んだ瞳に何も言えず、気まずそうに頬をかきながら。
「……分かった! だが泣かせちまったお詫びになんか奢らせてくれ!」
「えっ……ええと、じゃあ……そこのカフェでいい……?」
「もちろんだ! 早速いこうぜ!」
「……その前に、もう雨止んだから返すね」
少女は雨が止んだことに気づいて、傘を返そうとするが少年は頭を振って。
「そいつはお前にやる。雨の日に傘を差さねえなんて、ぜってえ駄目だかんな! 風邪引いたら困るのは自分なんだぞ!」
「ふふっ、あなたって変な人だね。でもありがと……」
微笑んだ少女に、少年は屈託のない笑みを返した。
「おうっ!」
これが、少女と少年の出会いだった。それは雲間から見えた陽光のように、少女の心を暖かく照らし出した――。




