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キングスロード〜2人の少年と7つの王国〜  作者: はるか遼
第一章 旅立ち編
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第7話 王との謁見 少年の覚悟

 玉座の間は意外にも質素な作りだった。豪華な装飾が施されているでもなく、床が大理石でできているわけでもなかった。ただ、落ち着きを持ち、品格は保たれていた。そして、王の座る玉座の後ろには陽の光が差し込む大きな窓があった。透き通るガラスの先にはきらびやかな王都の景色が広がる。窓から差し込む陽の光が床の紋章を淡く照らす。


 そんな玉座の間では「7つのクニを巡る旅に、オージを同行させる」というワカの言葉が重く響き渡り、オージを困惑させた。玉座に腰掛ける王は、鋭い目でこちらを見据えている。


「何で、こいつはいつも急に……」と口をついて出そうになったが、ここは王の御前、ワカへのツッコミはぐっとこらえた。


 王はしばらく黙考していたが、やがて低く落ち着いた声で口を開いた。


「ワカよ。お前がそう言うからには何か理由があるのであろう。聞かせてくれ。」


 ワカは、一度振り返りオージの顔を見てニヤッとすると、また王に向かい深く息を吸い静かに口を開いた。


「理由は二つあります。一つは戦力として。もう一つは、彼自身の成長のためです」


 隣に立つオージの肩がわずかに強張る。拳を軽く握りしめたまま、彼はじっと前を向いていた。


「今回の旅の目的は『各クニへの異常の報告と情報の共有、協力の依頼』です。魔族の痕跡が各地で見つかり、ヒガーシ村を襲った獣も魔族特有の呪力を纏っていました。本来なら、クニとクニの間には結界があり、さらに呪力は使用できないはず。しかし、それが破られつつある……この異変を放置するわけにはいきません」


 王はゆっくりと頷く。


「たがらこそお前を旅に送り出すことにした。」


 ワカはさらに続ける。


「各クニの状況は不明であり、交渉がうまくいく保証もありません。旅には危険が伴います。しかし、ヒューマニアの戦力を削るわけにはいかない。だからこそ、オージが適任なのです」


「オージが、先日のヒガーシ村の脅威を払ったと言っていたな」 


 王の言葉にワカは頷いた。オージは戦える。実戦経験こそ豊富とはいえないが、村での戦いと修行の様子からワカは判断していた。そして何より、この旅を通じてさらなる成長が期待できる。 


「彼がこの旅で得る経験は、ヒューマニアの未来にとっても大きな意味を持ちます」


 ワカの声には揺るぎない意志がこもっていた。


「ヒューマニアの新たな戦力の柱となるということか?」


 王はオージに一瞥してワカに問いかけた。


「もちろんそれもあります。ただ、それだけではありません。私は彼が()()を使いこなす逸材だと確信しております。」 


 ワカはまっすぐな眼差しで王を見据えた。その視線には迷いがない。王もワカの強い意志を静かに受け止めた。  


「……まあよい。ワカの判断なら私はそれを信じたい。だが、一つだけ確認しておこう……」


 王は目を閉じ、一拍の沈黙を挟んだ。そして、ゆっくりとオージへ視線を向ける。


「オージよ、覚悟はできておるか?」


 王の言葉が部屋全体に響き渡る。「覚悟」という言葉は鉛のように重く深くオージにのしかかった。


 問いを投げられたオージは、息を整えるように深く吸い込んだ。


「私は王を目指しております。……そのためにここへきました。……このクニやみんなのために命をかける覚悟はあります。」


 オージは、できる限りの誠意をもって王の問いに答えた。


 王は肘掛けに手を置き、指先を軽く叩いた。考え事をするというよりは、その重みを噛みしめるように言葉を反芻していた。


「そうか……命をかけて王になるか……」


 王の鋭い視線がオージを貫くように注がれるが、オージは決して目を逸らさなかった。その瞳に何かを感じ取ったのか、王は少し微笑み、口を開いた。


 「お主の覚悟は受け取った。命をかけることだけが王に求められていることではない……が、それは、この旅で学びなさい。」


 その言葉を聞き、オージの目が輝き、胸には熱いものがこみ上げてくる。


 ワカもその様子を見て安堵し、最後の確認を行った。 


「ということはオージを同行を許していただけるのですね!」


 王は深く頷く。


「感謝いたします!!」


 2人は目を合わせて、表情が和らいだ。これからはじまる旅への期待と覚悟が認められたことへの喜びが、交錯して彼らの心を強く震わせた。そんな2人の様子をみて王も思わず顔がほころぶ。玉座の間を満たしていた緊張が徐々にほどけていく。


「ところでオージよ、お主、何処かで見た顔だな」


 王はふと目を細め、じっとオージを見つめる。まるで記憶の糸を手繰り寄せるような表情だった。


「はい!以前、このあたりの森で助けてもらったことがあります!それから王様になることを目指すようになりました!」


 オージは、少し興奮した様子で答えた。王が自分のことを少しでも覚えていてくれたことに目を輝かせる。


「おぉ、そうであったか。あの時の子が……」


 王は少し意外そうな顔をして眉をあげた。ワカも、驚いたようにオージの顔を見つめた。


 それから、何かを思い出したような顔をしてワカに視線を移した。


「あぁ、そうだワカよ、旅には新たな服が必要であろう。街の仕立屋に行きなさい。彼女ならすぐに用意できるだろう。」


 王の言葉に、ワカは、一礼する。


「承知しました。それでは、これから向かいます。」


 そう言うと、ワカは、オージの肩を叩き、部屋を出る合図をした。


「ありがとうございました!」


 オージも最後に一礼して、2人で玉座の間を後にした。

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