五
どうしてこいつが新人として選ばれたんだろう!
面接には、多くの人間が来たはず。
そう思って商業ギルドの採用担当者、バトーに話を聞きにいってみた。
ナジルが秘密にしているだけで、実は要人やら金持ち連中の、身内なのでは…?
新人なのに態度がやたら大きいので、その可能性が捨てきれなかったのだが、その情報を聞きだせる相手は彼しかいないのだ。
だがバトーはあっさりと言った。「いや、彼はコネで入ったわけじゃないよ。
出身もごく普通の平民だよナジルは。」
バトーの説明によれば、ナジルは、上の者がやるようなでかい仕事をするようになりたい、仕事として大きいことをやりたいと言っていたのが、今回他の者を押しのけてまで採用された主な理由らしい。
「上の者がやる仕事とか、大きいこととは、具体的にはどういうことなんですか?」
「それは彼自身も、まだわからないですけど、とか言っていた。」
「なんでそれで採用しようと判断したんですか?
彼、ギルド関係の基礎知識となる勉学は全くおさめてないし、
客対応の仕事は全く未経験みたいですよ?
こちらが教えようとしている時、
書類の処理方法を教えても、よくわからないようだし、
お客様の問い合わせ対応は、やること自体を嫌がる感じなんですよ。」
だがバトーは、そのあたりは慣れていけばよい、ナジルが上昇指向の強いタイプであることを、評価したから採用したのだと言うのだった。
これまで辞めた先輩方達は、体調不良だの、家庭の事情だので、辞めたのだが、
ナジルのように上昇指向が強いタイプなら、そういう状況下でも、簡単に仕事を辞めたりしないだろう、とそうバトーは言うのだ。
「彼、仕事自体が全く未経験というわけではないよ。
町の食堂の調理補助なんかはしていたそうだよ。」
…バトーも、俺にはわからない考え方をしているんだな…
そもそも、先輩達が体調不良やらになったのも、人数に比して業務が多すぎるせいだ。
人を入れてほしいという話、皆が揃ってた時からずっとあったのに、バトーは無視してきたのだ。
ナジルのことも理解できないけど、彼のことも理解できそうにない…
胡乱げな顔をしてしまったのだろう。
彼は新人には広い心で接してくれ、さもないと君自身の評価が落ちることになるぞ、などと厳しい調子で言い出した。
しかたなく、わかりましたと口に出す。
この話し合いで自分の気分はかなり落ちてしまった。
どうやらこちらの話は上にわかってもらえそうにないようだ。
ぼんやりと職を辞することを考えはじめたのは、この頃からだったかもしれない。