ド天然女神をお世話しながら異世界観光!!
ザワザワ...
...遠くで、喧騒が聞こえる...
...体が、重い...
...寒いな...
ゆっくりと、目を開ける
...目がぼやけてよく見えねぇな...
目の前で、小さな女の子が泣いている
そばには、その子を宥めるように女性が寄り添ってる
母親だろうか。周りの人達が声をかけてくる
そういや、俺なんでこんなところで寝てんだ...?
自分の頭上を見れば、大きく凹んだ車が止まっている
...あぁ、思い出した...
そういや、あの女の子を庇って跳ねられたんだっけか...
はぁ...全く、似合わねぇことしたな...
...意識が、遠くなってきたな...
せめて...次があるなら...
人にやさしく...なれるように...
なり...てぇ...な...
◇
俺の名前は"西島 優斗"
目付きが悪いせいで友人もできず、
ただ毎日を何となく過ごしてきたつまんない大学生。
ただ、最後の最後でいいことが出来た。
せめて、あの子が俺の事を引きずらないで幸せになってくれるといいんだが...
なんて、考えて人生を終えたところだ。
...と、思っていたんだが、
目を開ければ、だだっ広い花畑の中、俺は所謂ティーセット?の置かれたテーブルに向かい座っていた。
俺は死んだはず...
と混乱しながら辺りを見ていると
「こんにちは♪」
「うおっ!?」
突然、誰もいなかったはずの向かいの椅子には、
綺麗な黒髪を腰上辺りまで下ろしながらこちらに笑みを送る美少女が座っていた。
「あ、ごめんなさい。驚かせてしまいましたか?」
「い、いや...大丈夫だけど...あ、あんた誰だ?それにここは...?俺は死んだはずじゃないのか?」
俺は、気になっていたことをまくし立てるように目の前の美少女に問いただす。
すると、その美少女はあわあわと慌てながら
「お、落ち着いてください!!
順番に答えますから!!一気に言われても困ります!!」
と、なんとも可愛らしく豊満な胸の前で待って待ってと言わんばかりの手を振りながら言う。
いや、あんたも落ち着いてくれ...
と思ったほどにこの子はあわあわとしていた。
...天然っていやつだろうか?それとも単なるば...
...いや、やめておこう。
初対面の人に対して流石に失礼にあたる...
そんなくだらないことを俺が考えているうちに、彼女はゆっくりと俺の今の状況を話してくれた。
「まずは自己紹介を。
初めまして西島 優斗さん。私は、この天界にて死者を導く仕事をしています。メティス...あ、和名では、海波 咲と言います。所謂、女神というものです。」
「め、女神...死後の世界...って奴か...」
「その通りです。そして、ここは天界の入口。
人間の皆さんが言っている閻魔様の裁判所です。
ただ、最近は閻魔様も多忙でして。
私は、日本の死者の方々を選別し、閻魔様の負担を減らすのが役目になっています。」
「ほ、ほう......ん?え、じゃあ俺の相手のんびりしてていいのか?」
「...し、しまった!!この間もその件で怒られたんでした!!どどど、どうしましょう!?!?完全に時間かけすぎですよ!!そろそろ閻魔様がお説教に来ちゃいますぅ!!」
目の前で突然立ち上がったと思えばわなわなと慌てふためく女神様。
これあれだ。頑張って仕事してるんだろうけど...
天然入っちゃってるポンコツだ。
どうしようも何もさっさと俺の行先決めりゃいいだろ...
そう進言しようとしたが
「こぉら〜!!咲さん!!ま〜た死者と長話してるんですか!!これで何度目ですか!!」
「ひぃ!?え、閻魔様!?」
と、突然空間に穴が空きそこから軍服のような服を身にまとい"閻魔"と書かれた帽子を身につけた中学生くらいの女の子が飛び込んできた。
どうやらあの天然女神様の言う閻魔様らしい。
それにしては随分可愛らしい見た目だが...
俺の知ってる閻魔様は脚色でもされてんだろうか。
なんてくだらない事を考えてると、気づけば目の前ではお説教が行われていた
「いい加減にしなさい!!何度言えばわかるんですか!!死者の方々との過度な接触はダメだと言ってるでしょう!!」
「あぅ〜...で、でも閻魔様...死者の方々が色々質問してくるからぁ...」
「お仕事優先に決まってるじゃないですか!!説明なら天国か地獄の管理者がします!!はぁ...もういい加減面倒見きれません!!こうなれば罰を与えます!!」
「ひえぇ...!!おやつ抜きだけはご勘弁をぉ...!!」
神様の罰軽すぎだろ!!子供か!!
なんだっけ、俺は漫才見に来たんだっけ。
死んでから神様のこんなところ見るとは思わなかったよ...せめてもう少し神々しい神様のイメージを守って欲しかったっ!!
あぁ...でも、聖書とかに出てくる神様って浮気してたり裸踊りしてたり戦争してたり大概神々しくはない...か?
まぁ、だとしても今目の前の状況には負けるけどさ
「あなたの罰はしばらく下界に降り、人間の...いや、生物の悪い所を見てきなさい!!
あなたは純粋すぎます!!」
「えぇ!?そ、そんなぁ!!一人ぼっちで下界行きなんて嫌ですよぉ!!」
すげぇな、純粋すぎるって理由で怒られてんの初めて見たぞ...
にしても、1人見知らぬ土地行きか...ちょっと可哀想だな。
何より、女神って言うくらいだ。見た目はそれなりどころかかなりいい。
あんな純粋じゃ悪い奴らに色々されるんじゃ...
「はぁ...仕方ないですねぇ...そこのあなた。さっきからずっと待っていただき申し訳ないのですが...少し頼みを聞いていただけませんか」
と、俺が考え事をしていると閻魔様が俺に対して話しかけてきた。
まぁ、多少なりラノベは読んでいた友人から話は聞いていた...なんとなくこの先の展開は読める...
「...なんですか?俺にできる範囲ならいいですけど..」
「...正直、無関係の貴方を巻き込むのは気が引けますが...今、この世界は人手不足。この子の為に人員を割く訳には行きません。西島優斗さん。あなたはこのまま進めば間違いなく天国行き...その綺麗な心根を信用してお願いがあります。
この子と一緒に、下界に降り、しばらく面倒を見てくれませんか!!」
「...え?」
「え、閻魔様!?」
「もちろん、無理なら断っていただいて結構です!!
ただ、受けていただいたならあなたの来世をあなた好みにすると約束します。もちろん、私も時間があればそちらに様子を見に行きます!!なのでどうか、この子の面倒を...!!」
...腰を折り、頭を下げる閻魔様。
本当に、威厳もクソもないな...
...でも、良い上司だな。
そういや、死ぬ前も色々なやつに頼み事されたっけ...
...せっかくの人生、神様のお願い聞いてみるってのも面白そうだしな...
...何より、こんな可愛い子らに頼まれちゃ断れねぇよな?
「...顔を上げてください。
報酬は、無理にとは言いません。
その時、俺が何かを望むならそれを可能な範囲で叶えていただければそれで結構です。
その頼み、引き受けました。任せてください」
1人の寂しさは、よくわかる。
人生最後...って言っても、もう終わってるけど
最後の最後の最後!!
せっかくだし、女神様と2人でちょっとした夢の日々送ってみるか!!
そうして、俺たちは日本でのんびりライフ満喫...と思っていたのに!!
「では、これから下界に下ろします。ただ、日本ではその子の力が強すぎて一般人であっても神だとバレる可能性がありますので、異世界に飛ばします。
小さな街のそばの森に飛ばしますので慌てずに街をめざしてください」
「え!?ちょ、日本じゃないんですか!?」
「はい。神は担当している地域に行くと力が強くなりすぎてしまうんです。」
「ま、まじですか...日本なら余裕だと思ったのに...」
「...あ、あの...迷惑なら断っていただいても..」
「...いや、一度受けたんですし、やり遂げますよ。異世界観光もなかなか楽しそうですし。」
「いいですね異世界観光!!楽しみです!!」
「あなたは少しは緊張感を持ちなさい!!」
「あぅ...すみません...」
「まったく...では、しばしの別れです。
時間が出来れば様子を見に行きますので咲さんのことをお願いします」
「..はい。任されました。」
...そうして、俺と女神様は
所謂、異世界転生...いや、異世界旅行?を果たすのだった...