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作者: Yukimaru

「たんぽぽです。よろしくお願いします」

あなたは、それだけ言ってさっさと席についてしまった。あまりに短くて、無愛想で、自己紹介の意味を全く成していないのに、むしろクラス中の気を引いていた。

 それからもあなたは、始めの調子を崩すことはありませんでしたね。ふわふわと暖かそうな名前とは裏腹の態度でした。あなたはあまり気にしていなかったようですが、グループワークなんかで同じになった人からは煙たがられていたんですよ。

 それで四月も適当に過ごして、そろそろゴールデンウイークが目前に迫っていた頃に、偶然あなたが大の字で仰向けになって倒れているのを見かけました。あなたの素性なんてさっぱり知らないので、どんな奇行に走っていても不思議ではありません。それで、実際近寄って見てみると、すやすや寝息を立てていたのには驚きました。

「あの」

話しかけてみて何の返事も無いので、やっぱり寝ているんだと思って、ちょっといたずらでもしようと決めました。

「何?」

 失敗しましたが。あなたは狸寝入りが得意なんですね、なんて思いました。でも、その次の授業にあなたは現れなかったので、実は寝言だったのかもしれません。確かめようのない事です。

 あなたとの接点なんて、クラスメイトの肩書くらいでしょう。これできちんと話しかけていれば何か変わっていたのでしょうか。誰も知りません。今となっては後悔しています。

 あなたの姿は、学校にいる間であればほとんど視界にありました。

 こうして後ろから眺めて、レンズ越しのあなたは、真っ黒で綺麗な髪を垂らして、しゃんとしていました。いつもそうでした。

 あなたは、冷めた人です。

 いつか、出先で会ったのにあなたは見向きもしなかった。それとも本当に気づいていなかったのでしょうか。すれ違う時に目が合って、何も言わずに行ってしまったのに?

 ああ、そういえば。あなたも笑えたんですね。何月の何日とまでは言えませんが、図書室で一人、遠慮なく笑っているのを見たことがあります。存外騒がしく、またこちらを認識することも無く、司書に摘まみ出されるまでケラケラと。顔は、どうだったんでしょうね。

 さて、ちょっと考えてみると、あなたの事を何も知らないわけです。会話なんて、適当な挨拶の一つすら交わしたことがあったでしょうか。そんなだから、当然あなたの趣味も嗜好も分からないわけです。あなたの好きな物って何なんでしょうね。もしかして、タンポポでしょうか。路傍のいくつかをむしり取っているのを見たのです。それを花占いに食いつぶすでもなく、ころころ捨ててしまった。この時は笑っていたんでしょうか、能面でしょうか、どうとでも言えますが、仏頂面でない事を期待します。

 次の話というと、夏休みの前ですね。この頃からあなたは学校に来なくなった。大抵このような話は一年をぐるりと回した時に終わりを迎えるのではないかと思いますが、そうそう都合の良いことはないのです。

 ものすごく退屈になりました。あなたが居ないので。その他は無関心でした。まあ、そんなものでしょう。

 で、退屈なまま夏休みを過ごし、退屈なまま新学期を迎えました。せいぜい夏空に入道雲を映すくらいの彩は欲しかったので、あなたの名前を調べました。だいたい六月くらいには綿毛になってどこかに飛んで行ってしまうとか。

 笑。いなくなったのもそれくらいか、ちょっと遅いかの時でした。

 名は体を表すと言いますし、このフレームから消え失せてしまうのも仕方ないです。

 こうしてあなたの事を諦めようと思います

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