花の下にて
主人公たちは、「白いワンピースの女」と同じです。
この話だけでも読めます。
もし興味がありましたら、そちらもどうぞ。
「ねーぇ!面白い話仕入れてきたよ!」
明日から春休み、と浮かれる雰囲気中、浮かれたあゆみが話しかけてきた。
「どうせまた、怖い話しょ?」
私が言う前に隣りにいたマキのツッコミが入る。
あゆみは、怖い話が大好きで、夏冬問わず、どこからともなく話を聞いてきては、私らに聞かせるのが好きなのだ。
「そうそう。怖い話!今回はねぇ、駅裏の廃工場の話」
「もう、怖い話はいいって」
「えー、いいじゃん。もしかして、本気でびびってる?」
「は?びびってないし!」
「はいはい。で、また友達の友達の話?」
「怖い話の入り方といえば、『友達の友達の話』が定番で大切なんだよ!」
定番って言っちゃったよ。
でもまぁ、雰囲気は大事よね。
そんなことを考えながら、あゆみ話に耳を傾けた。
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これはね、ともだちのともだちが体験した話らしいんだけどね。
その子、仮にC実とするね。
C実には、仲のいい子が二人いて、こっちはB雄とD子ね。それからB雄と仲のいいE助。
ことの発端はB雄が持ってきた話でね。
駅裏にある廃工場、何の工場なのか、なんでやめちゃったのか知らないけど、閉鎖されてからだいぶ経っている廃墟の敷地の中に大きな桜の木がある。
せっかくの春休み、お花見に行こうとのお誘いがあった。
C実は、お花見なんてあまり興味がなかったのだけど、仲のいい二人が乗り気だったこと、それにE助が参加すると聞いて、行くことに決めたのだ。
しかし、昼間にうろつけば、目立つだろうと夜、忍び込んで夜桜を楽しもうという話になった。
飲み物とシートだけ用意して、まずいことになったらすぐに逃げれるように、という計画だった。
そこまでして?と思ったが、そこの桜が大木で綺麗と言う話と、ちょっとした好奇心と、悪いことをするスリルと、それから仲間がいるからと気が大きくなっていた。
約束の時間に工場の前につくと、他のメンバーはもうついていた。
周りを確認しつつ、門に手をかけるが、南京錠がかかっていた。
すでに確認済みだったようで、B雄がポケットから小さな鍵を取り出した。
南京錠の鍵は古く、同じサイズならどの鍵でも開くらしい。
まるで泥棒の様にこっそりひっそりと敷地内に入り、工場の裏手に行くとぱっと開けた場所にでてその真ん中に大きな桜が鎮座していた。
満開の桜を目の前に全員が息を呑んで見上げていた。
しばらくそうしていたが、せっかく飲み物を持ってきたのだから、とE助の言葉にD子が木の下にシートを広げた。
カバンからジュースを取り出そうとして、ふと視界のはしに見慣れぬものが映り込んだ。
それは、桜の幹に巻かれたしめ縄だった。
ただのしめ縄なら、気にならなかった。しかしそのしめ縄は、ぶら下がった紙が赤色だった。
初めて見るそれに首を傾げ、それからなんだか不安になった。
さっきまで綺麗だと思った桜の花びらがやけに濃いピンク色に思えた。
サラサラと風に舞う花びら。
カサカサと揺れるしめ縄。
そして、その間に聞こえるギシギシと揺れる音。
音の出処を確認しようと視線を上げる。
そこには、先が丸くなった太めのロープがぶら下がっていた。
悲鳴を上げることも忘れて、近くにいたE助の腕を掴む。
揺れるロープには、誰もぶら下がっていなかった。
しかし、まるで誰かの体重がかかっているかのようにギシギシと音を立てていたのだ。
サラサラ
ガサガサ
ギシギシ
その音しか聞こえないような空間に立ち尽くしているような気がしたが、ぐいっと腕を引っ張られ、あっと言う間に門のところまで引き返していた。
ゼェゼェといきを切らしながら、確認すれば、腕を引っ張ってくれたのはE助で隣には同じようにB雄に腕を引っ張られたD子がいた。
もう帰ろうと青い顔をして、四人はその場を後にした。
その時にD子がよくわからない事をいったのだ。
「あのおじさん、笑ってたね」
あの場にはおじさんなんていなかったのに。
C実は、どこにおじさんがいたのかなんて、聞くことができなかった。
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「って話なんだけど」
「その、おじさんってさ、もしかして」
「言わないで!絶対聞きたくない!!」
揺れてたロープに何かがいたなんて、絶対に聞きたくない!
「でねでね!この駅裏の廃工場って」
「もしかして、特定されてるの?」
恐る恐る聞いてみれば、あゆみはニンマリと笑って頷く。
サラサラと窓から心地よい風がはいり、机に置かれた紙がガサガサと飛び立とうと音を立てる。
その間にロープの擦れる音が聞こえたような気がした……
三題噺
「しめ縄」「廃工場」「揺れるロープ」
で書きました。