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第一章


学生である私は同級生の友人と食堂でご飯でも食べながら勉強しようと席を探していた。

広い食堂には放課後という事もあって多くの人が色々に過ごしていた。


「ん~結構人いるね?どこに座ろうか?」きょろきょろと辺りを見回す。


「もうちょっと奥の方行ってみよ?」友人はずんずん進んで行く。


「こっちこっち!空いてるとこあったよ!」明るい声で手招きされる。


「ありがとう。」


なんとか空いていたテーブルに座ると隣は荷物だけで席を外していた。ふと隣のテーブルに置いてある書類が目についた。特別授業の能力者用の書類だ。気付いてすぐ目を逸らす。

赤の人は大体が能力を買われて出世コースまっしぐらである。


能力の使い方は指導されている分、他の人達に比べて格段に上手いのだ。故に大変プライドも高く他を蔑む傾向が強い。私なんかは特に嫌がられるのではという予感がよぎる。あまり良い顔はされないだろうな。



「どうしたの?」早速鞄からメロンパンを取り出して食べながら友人が問いかけてくる。


「…ううん、なんでもないよ。…それより勉強しに来たんじゃないの?」ノートを取り出しながら指摘する。


「頭かったーい!まずは腹ごしらえしてからでしょー?」そういって飲み物を取り出す。


「そう。それは失礼いたしましたー」棒読みで私は参考書をぺらぺらと捲る。


「食べないの?糖分とらないと頭回んないんだよ~?」またメロンパンを齧る友人。


「はいはーい。そうですね~」参考書に目を落としたまま答える。

それから何の話をしていただろうか?少しして突然横槍が入った。




「おい」

隣りから男性の声が掛かった。

どうやら隣の席の人が戻ってきて早々に文句を言われたようだ。


「はい?」嫌な予感はしながらも、顔を上げて答える。


「はぁ…全くよぉ。青と白がこんなとこ陣取ってんじゃねーよ!?外行け外!」私達のブレスレットをちらちら見ながら呆れたように言われた。


「すみません。すぐ」触らぬ神に祟りなし、だ。すぐに参考書とノートを腕に抱いた。


「俺は赤だぞ?青はまだしも白ってよぉ」私の言葉を聞き終わらない内にまた言われる。


「…」私の動きは思わず止まる。…やっぱり赤か…


「大体白のくせに、よく顔出せるよな?俺なら恥ずかしくて家から出られないぜ?ガハハ」目立つ笑い方だ。しかも態度も言葉も見事に見下されている。


「…」俯き腕に力が入る。


「白って今までどうやって生きてきたんだぁ?おい。」すごい煽られる。


「…すいません。」小声で目線を足元に囁くように呟く。


「ほんと、身の程を弁えろよなぁ?ガハハハ」注目されるから大声で笑わないで欲しい。


「…」急いで鞄にノートをしまい、俯いたまま立ち上がる。


「無能の白が俺に話しかけられただけでも感謝しろよなぁ!ガハハハハ」あぁ、もう食堂の皆がこっち見てるよ。視線が痛い。


「ちょっと!さっきから何?そう言うのを差別っt」


「もういいから行こ!」友人の抗議の声を遮り腕を引っ張って強引に足早にその場を去る。




食堂から大分離れた廊下に来た時ようやく友人の腕を放す。

「…ごめんね。また私のせいで嫌な思いさせちゃって…」まだ俯いたまま顔を上げられない。


「なんでいつも謝るの?何にも悪い事してないじゃん!」友人は新しいメロンパンを取り出すとその袋を開けた。


「私が白だから…仕方ないよ…」


「昔からあんたはそうだよね?すぐ謝って理不尽なのを受け入れちゃうの。それ良くないよ?」言いながら、2個目のメロンパンに大きく齧りついた。


「…昔からいつも庇ってくれるけど、あんまり私に構うと…」目線が泳いでしまう。


「私は友達だから一緒にいるの!能力云々は関係ない!」パンを飲み込んだ途端に言い返される。


「っ!」思わず友人の顔を見た。


「友情に野暮な物持ち出さないでよね!?この程度で友達辞める訳ないでしょ?馬鹿にしないでよ!」友人がメロンパン片手にいまだ怒っている。この子は私の唯一の友達だ。




そんな私にも幼い頃はもう少し友達が多かった。でも、10歳の頃を境に友人と呼べる人はたった一人になっていた。白に対する対応が冷たい事は嫌という程実感してきた。家族でさえ少し余所余所しくなったのだ。むしろ、友達でいてくれているこの子の方が珍しい。大半が無視はしないまでも距離をとっていった中、一人きりの友人だ。


「ありがと…」友人の有難みを噛み締める。


「ふん。分かったんなら今度からちゃんと言い返さないと駄目だよ?」ふふんと得意げに鼻を鳴らすも、未だ憤慨しているようだ。


「いや…それはちょっと…」この気の強さにはいつも困っている。


「言い返さないからつけ上がるのよ!?」言いながらまだメロンパンを齧る。


「…でも、事を荒立てたくないから…」勢いに押されて言葉が段々小さくなっていく。


「…もう!本当に気が弱くてお人好しなんだから!」どうやら今回はここで引いてくれるようだ。


「…いつもありがとね?」普段の感謝の気持ちを少しでも伝わるようにと思いを込めた。


「いいよ。今度は邪魔されない所で仕切り直そ!」いつの間にか3個目のメロンパンを取り出していた。食べるの早くない?


「うん。…ところで何個メロンパン食べるの?」話題の切り替えのつもりで目の前の素朴な疑問を聞いてみる。


「メロンパンは何個でも食べられる不思議食品なんだよ?」何故か得意げに自慢された。


「ふふっそれは不思議だね?」よく分からないが何だか面白くって笑いがこぼれた。


それからどちらともなく私達は廊下を歩きだした。




「テラスなら空いてるだろうけど、肌寒くなってきたしなぁ。どこにしよっか?」まだメロンパン片手に友人が喋る。


「んー…空き教室なら自由に使えるよね?」私は少し逡巡した後にそう答えた。


「教室?」


「うん。上の方の階なら空いてるはずだよ?隣が授業中だと話すのにちょっと気にしなきゃいけないけどね?」どう?と顔を伺う。


「…そうだねー。でも、お喋りできないのはちょっとなl」不満気に返される。


「…勉強が目的でしょ?そんなに問題ないと思うけど?」この様子じゃお喋り目的かな?と思いつつ言ってみる。


「ご飯食べながら勉強!って話だったでしょ!?」必死にご飯を主張する友人。


「どっちにも会話は含まれてなんじゃないの?」おおよその答えは見えているが一応突っこんでおく。


「ご飯を一緒に食べる、の中に楽しいお喋りも入ってるのよ?」当たり前でしょ?と自信満々に答えた。


「もう勉強がついでになってきてない?」学生の本分は勉強だよ?と念を押してみる。


「とりあえず、授業中じゃなかったら空き教室にしよ!」私の言葉を否定せず先を駆けていった。


「はいはい。」呆れた返事を返しながらも、私もお喋りは嫌いじゃないので流されることにしよう。



上の階を回ったが、どこも授業中の教室が多くあった。これでは空き教室でお喋りが出来ない、という事で友人の強い希望で却下された。




「んー…どうする?もう今日は諦める?」他に場所を思いつかないので、私は解散を提案した。


「うーん…いや、しょうがないから喫茶店に行こう!」これぞ名案とばかりにまさかの内容を言いだした。


「えっ」私は今迄の経験から、不特定多数の大勢の人間の前に出るのは苦手なのだ。…白というだけで…。


「喫茶店は近くに何個かあるでしょ?周れば1ヶ所位は見つかるでしょ?」私の前に出て、にかっと笑いかけてくる。


「…喫茶店か。」私は目線がまた下がる。


「…まーた考え過ぎのやつ?…行ってみなきゃ分からないじゃない。引き篭もってもいられないでしょ?」


「…それは…そうだけど。」どうしても言葉が濁る。


「私がいるじゃない!一人じゃないんだから行くだけ行ってみようよ!」私の手を取りギュッと握りしめて言う。


「………そう、だね。行こうか?」友人の後押しもあり、一歩踏み出した。

にっこりと笑う友人につられて私の頬も緩む。

決まった行き先に真っ直ぐと向かう。私は友人の少し後ろを付いて歩いた。





喫茶店巡り


一件目。

勉強目的の長時間滞在お断り。



二件目。

勉強は可能だが、店内が静かな雰囲気だった。

お喋りが出来ない為却下。



三件目。

やや混雑していて、勉強していいか店員さんに聞いた所「できればご遠慮ください。」との事。

店員さんの目が一瞬私のブレスレットを見たのは気のせいだと思いたい。



四件目。

丁度良いくらい席が空いていて勉強もできる場所だった。飲み物を注文する為レジに並んだ。友人は食べ物も注文するつもりのようだ。…本当によく食べる。

ふと、前に並んでいた三人組がチラッと私達を…私を振り返った。直ぐに前へと姿勢を戻すとコソコソと話し始めた。


「おい、見たかよ?…あいつ白だぜ?」


「見た見た、やべーなここって白御用達の店かよ?俺達って白と同レベル?」


「やっべぇ!超無能じゃん!どうするよ?ただでさえお前勉強出来ねーのにさ。」

ゲラゲラと笑いながら話している。やはり、私に隠す気はないようだ。

その話し声で段々と周りから視線が集まってくるのを感じた。

あぁ、もう駄目だ。もっと酷くなる前にここら辺で引いた方が良さそうだ。


「ねぇ、私用事を思い出したから先帰るね?ごめん。」鞄をぎゅっと握りしめ友人に小声で告げる。


「っ!…それって!」友人が物を言いたげな顔で私を見る。


「本当にごめん。また今度ね?ばいばいっ」返事を待たずに私は出来るだけ急いで店を出た。急に後ろに歩き出したのに、後ろに並んでいた人達にぶつからなかった事にどうして気付いてしまったのか…ぶつかってないのに何だかとても痛い。その現実も痛みすら見ないように見えなかった事にして足を早める。

後ろで友人の引き止める声が微かに聞こえた。それはいろんな雑踏に紛れてしまって、なんと言っていたかは分からない。






いくつか角を曲がった所で足を止める。

鞄を肩にかけ、そのまま一人でトボトボと駅に向かって歩く。

大丈夫。いつもの事だ。ただ、今日はちょっといつもより酷い人達にあたってしまっただけだ。

友人もいるし、私は平気。気にし過ぎちゃいけない。大丈夫。大丈夫。ただただ自分に言い聞かせる。

手を握る力は未だ緩まない。



この作品は割と短いです。

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