終死ちゃん ② 『今回のお話は〜♪ 【終死、名前ができる】 【先立つ不幸をお許しください。終死】 【『小説の中に転生』する系の話にものもおぉす!!】の、3終死で〜す♪♪ 弟「3終死って、なに……?」』
「ちょおっとだけ」
「とあー」
「終死!!」
「やめてよ、終死ねぇちゃん。前回の話読んでないと伝わらない始まり方するのは」
「ふふふ……気配を消し、15歳の姉である私、『大和里忍』に後ろからパイルドライバーを決めるなんて……さすが私の弟……『大和里 誠』!! およそ、9歳とは思えない所業だわね!!」
「ほらー、いきなり読者のみなさまをおいてけぼりにしちゃうから、そんな不自然な人物紹介することになるんだよー……というか、ぼくたち、本名あったんだね。前回は一回も出て来なかったのに」
「そのことについて、誠。あなたに聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
「なんでお姉ちゃんのことを、あだ名の『終死』って呼ぶの? 『忍』っていうちゃんとした名前があるのに」
「わぁ~~。急に名前が出来たからって、調子乗って来たよ、この人」
「良いから、なんで」
「なんでって……近所の人たちも、母ちゃんも、ぼくの友達も、みんなねぇちゃんのこと『終死』って呼んでるじゃん。というかさ……」
「というか、なに?」
「ぼく、基本的には、ねぇちゃんのこと『ねぇちゃん』ってしか呼んでないよ」
「い、言われてみれば……」
「それにさ、『終死』ってあだ名つけたの、ねぇちゃんの友達じゃん。「『大和里』の『おわ』と、『忍』の『し』を取って『おわし』って呼ぼーっ」て。ねぇちゃんも気にいってたじゃん」
「そ、そうでした……」
「もー。こんなことで、無駄に文字数稼がせないでよ? ねぇちゃん」
「ご、ごめんなさいでした……」
「ところでさ、ねぇちゃん。さっきなにやってたの?」
「さっきって?」
「ほら、さっき、冒頭でさ、ぼくにパイルドライバーを決められてたでしょ? その時。なにやってたのかなって」
「ああ、あれね。お姉ちゃん、Vtuberの動画撮ってたの」
「え? あれ、まだやってたの?」
「うん。お姉ちゃんね、前回ではまっちゃって、今、一生懸命がんばってるとこ!!」
「どこに向かってがんばってるか分かんないけど……大丈夫なの?」
「なぁによぉ! お姉ちゃん、これでもやるときはやるのよ!!」
「いや、そうじゃなくてさ……」
「??」
「もうちょっとで、夏休み終わっちゃうよ?」
「……え?」
驚いた私は、急いで部屋の壁にかけてあったカレンダーを確認する。
「ぐああぁぁっっ!! 夏休みがあと四日で終死だわあぁっっ!! 宿題、いっこも進んでないいぃぃっっ!!」
「やっぱりね……というか、これ一人称視点だったんだね」
「メタ発言している場合じゃないわ、弟よ! ふたりでこのピンチを乗り切るのよ!!」
「お姉ちゃんの責任じゃん。それに、ぼく小学生だから、中三の問題は解らないんだけど」
「そ、そんなああぁぁっっ!!」
「(本当は解るんだけどね……)」
「……なにか言った?」
「なにも言ってない」
「……ああ、私の人生、終死だわ……お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください」
「宿題やってないだけで、そんなに思い詰めないでよ」
「じゃあ、どうすればいいの!?」
「……そうだ、こういうのはどうかな?」
「……くすん、どういうの?」
「ちょっとずるいけど、宿題の終わっているねぇちゃんの友達に電話して、勉強会を開くの」
「勉強会!? それは名案ね!! じゃあ、さっそく喜多原さんに電話しないと!!」
「え……あの人誘うの……?」
「しょうがないじゃない。ほかの友達は、今、おばあちゃんの家に出かけてるとかでいないんだから。……なあに、誠? もしかして……喜多原さんのこと気になっちゃう感じ?」
「そんなんじゃないけど……」
「本当のこと言いなさいよお〜。うりうり」
「ほっぺたつつかないでよ、ねぇちゃん!」
「吐け! はくんだ! 誠よ!!」
「とあー」
「終死!!」
……と、まあ、なんだかんだで私は、夏休みの宿題が終わるまでの間、親友の喜多原とふたりで勉強会をすることになったのです。……四日で終われば良いのですが。
「ねぇちゃんの地の文少ないなぁ」
「黙ってて!!」
……三十分後、呼び鈴がなったので足早に玄関に行き、サンダルをはいて扉を開けると、その向こう側で、喜多原さんが明るく手を振っていました。
「おわし〜♪」
「喜多原さ〜ん♪ 来てくれてありがとう〜♪」
わたしも笑顔で手を振り返し、喜多原さんを中に招き入れます。
「おわし、まだ夏休みの宿題、終わってなかったんだ」
「そ~なの〜。もー、いっこも進んでなくてさ〜」
「……いつも通りだね……あら?」
「い、いらっしゃいませ……」
「きみは……弟の誠君だね。おわしちゃんには、いつもお世話になってます」
「こ、こちらこそ……姉がいつもお世話になってます……」
「おわしは良いね、こんな出来た弟さんがいて」
「ふぇっ?! あの……その……ありがとうございますした……」
「いやー、そうでも無いのよ〜? 良くわたしに生意気な口をきくし」
「ねぇちゃん!」
「この前なんかさ〜。誠ってば、わたしにパイルドライバー食らわせたのよ〜♪ 酷くな〜い?」
「ねぇちゃん! そういうのはもういいから! 早く喜多原さんを部屋に案内しなよ! 宿題終わってないんでしょ!?」
「それにねぇ〜♪ 今日、喜多原を呼ぶって言ったら誠ってばすごい緊張しちゃって……ぷふー♪」
「とあー」
「誠君、STOP! ストーーップ!! おわしを床に落としちゃ駄目ーーっっ!!」
もう少しで、リビングのオブジェと化すところだったわたしは、止めに入ってくれた喜多原さんにお礼を言いながら部屋に移動すると、いやいや夏休みの宿題を始めるのでありました。
「……あ、あの、麦茶どうぞ……」
「ありがとう、誠君。……じゃあ、おわし。どれから始める?」
「じゃあ、わたしが『算数』でー、喜多原さんが『英語』。んで、誠が『自由研究』ということで」
「なんで分担制になってんのさ! それに、いつの間にぼくも数に入ってるの!? あと、中学は『算数』じゃなくて『数学』でしょ!?」
「誠君の言うとおりよ、おわし。自分の宿題は自分でやらなきゃ。解らないところはちゃんと教えるから。ね?」
「ぜーんぶ解りません」
「真面目にやりなよ、ねぇちゃん!! 喜多原さん困ってるじゃん!!」
「はいはい、分かりましたよ。じゃあ『数学』から」
こうして、わたしは喜多原さんと弟の手を借りて、数学の宿題に手をつけはじめました。
……そして。
「飽きたわー」
「ねぇちゃん! 寝っ転がらないでよ!! 始まってまだ三十分も経ってないじゃん!! ……ごめんなさい、喜多原さん。せっかく来て頂いてるのに」
「ううん、気にしないで。おわしの飽き性は、今に始まったことじゃないから。興味を持ったことは、とことん楽しむんだけどね」
「……確かに、そういうところはあるかも……」
「ほら、おわし起きて! 早く宿題終わらせないと、二学期始まっちゃうわよ!?」
「そんなこと言われてもやる気でないのよ……。あー、なんで日本には宿題なんてあるのかしら。異世界には宿題なんてないのにー」
「い、いきなり異世界……」
「ごめんなさい、喜多原さん。突拍子もないこと言って……」
「う……ううん……大丈夫……大丈夫……」
「とーいうわけでー、わたしはー今からー異世界に旅立ちまーす。お父さーん、お母さーん、先立つ不幸をお許しくださーい。終死」
「ね……寝ちゃった……」
「ね……寝ちゃった……」
……終死……終死……聞こえますか……
「え……? なに? この声……」
……聞こえますか……? ……終死……
「はっ!? ここはどこ!? 一面真っ暗闇!!」
ようやく目覚めましたね……終死……
「え!? え!? あなた誰!?」
……私は神です……残念ながらあなたは死
「神様!? どうりで背中から羽が生えてると思った!!」
……私の話しを聞きなさい……終死……残念ながら、あなたは、さきほ
「握手してもらっていいですか!? あと、サインも!!」
……いや、だから
「あ、動画撮っても大丈夫ですか??」
とあー
「終死!!」
話し聞けって言ってんだろ、この闇属性の厨二病が。
「……すみませぃん……」
いいですか? あなたは、不幸なことに亡くなったのです。先ほど。寝ている時に。
「……まじっすか?」
まじです。
「え? な、なんでなんでなんで?! 死因はなんですか!?」
死因は……こちらの手違いです。
「は?」
つまりですね、本来亡くなる予定でないあなたを、心臓麻痺で殺……死なせてしまったんですね。
「それって、殺人じゃないですかぁ!?」
そうとも言いますね。
「そうとも言いますね、じゃあないですよぉー!!」
と、いうわけですね、私たちも責任を取って、異世界に転生させてあげようと思います。ああ、もちろん、ひとつだけチート能力を授けて。
「え……? それって、もしかして……」
ええ、みなさまが大好きな、あの『異世界チート転生』です。
「まじですか??」
まじです
「……ぉぉぉおおおっっっ!! 異世界転生きたああぁぁ!!」
では、さっそくですが、なんのチート能力が欲しいのか、決めて下さい。
「じゃあですね! えーと、えーと……そうだ!! 『世界中の人たちにヨイショされる』能力でお願いします!!」
え……? そんなんで良いんですか……? 転生したとき、なんか哀しくなったりしませんか……??
「全然大丈夫です!!」
まあ、あなたがそれでいいのなら……では、今から能力を授けますね。
「お……おぉぉ……? なんか、身体が光ってる!!」
これで、あなたに能力が身につきました。……さあ、その門をとおりなさい。そうすれば、あなたの新たな人生が始まるでしょう。
「まじですか!?」
まじです。
「ありがとう、神様! これで、わたしの人生はバラ色だわー!!」
良き異世界ライフを。
「……こうして、終死こと大和里 忍は、異世界で幸せな生活を送りましたとさ。終死」
「も……妄想オチ……」
「も……妄想オチ……」
「あ、そういえばさ」
「わ、びっくりした」
「いきなり起き上がらないでよ、ねぇちゃん。……というか、今回の話長いなあ」
「今回の話?」
「あ……ごめんなさい……変なこと口走って……」
「ううん、気にしないで。それで? どうしたの? おわし?」
「うん。ずっと気になってたことがあるんだけど、最近の異世界転生ものでさ、小説とかゲームのキャラクターに転生するものってあるじゃない?」
「ああ……ぼくの嫌いなやつだ……」
「おお、いうねぇ、誠。」
「え? そうなの? 誠君。どうして?」
「だって、そうじゃないですか。主人公は、『未来を変えるために原作を改変する』って、奔走するわりには、『原作にはないことが起こる』とか矛盾したこと言ってるし、それに……」
「それに、なに?」
「その『元になる小説』を書いている人の、現実世界にいる原作者の事を全く考えてないと思うんですよ」
「どういうこと?」
「(あれ、喜多原さん、ずいぶん食いつくな……)」
「つまりですね、主人公の世界では、あたかもひとつの世界で描かれているような話も、現実世界の原作の文章は、主人公の好き勝手やった行動に書き換えられてるってことです。それも、発行された何十万部数もね」
「なるほどね……」
「誠……」
「そんなことになったら、とんだポルターガイスト騒ぎだし、本も回収しなけりゃならない。それに、それに、原作が未完結という設定だったら、作者は、今まで練っていた話を捨てて、新たに練り直さなきゃならない。これは、とんだ労苦ですよ!!」
「そっか……つまり、誠君は原作者が『新たに練り直した部分』が、小説の中に転生した主人公が言う『原作に無いことが起こる』……と、伝えたいのかな?」
「え? えと……。解りやすく言うとそう……です……」
「そっか……誠くんの言いたいことは、分かったよ……」
「き、喜多原さん……?」
「あのさぁ……誠……」
「なに? ねぇちゃん?」
「あんた、それ、Web小説サイトに流れる広告だけ見て言ってるでしょ?」
「そっっそんなことないよ!!」
「じゃあ聞くけどさ、誠。あんた、その『小説の中に転生』する系の話、ひとつでも読んだことある??」
「……少ししかない……」
「たはぁ〜! ほとんど読んだことないのに『小説の中に転生』系の話を批評するなんて、あんたもとんだアンチだねぇ〜! あ、あと、喜多原さん」
「え!? な、なに!?」
「喜多原さんは、誠とは反対に『小説の中に転生』する系の話、大好物でしょ? 特にラブいやつ」
「へぇ!? な、なんで分かったの!?」
「長年の付き合いだもの、分かるわよ~♪ だから、さっきの誠の話にも食いついてたのよねぇ〜♪」
「え!? そうなんですか!?」
「ち、違うの、ちがうの!! 誠くん!! 私はただ、『そういう見方もあるんだな』と思って聞いてただけで……」
「あ~あ~。誠、喜多原さんのこと、傷つけた〜♪」
「ご、ごめんなさい! 喜多原さん!! ぼく、そんなつもりじゃ……」
「おわし! 面白がらないで!! 誠くん、ほんとに気にしないで大丈夫だよ!?」
「で、でも……」
「あ、あとさ、喜多原さん」
「な、なに? おわし?」
「ラブいやつでもさ、特にボーイズラブが好きだよね?」
「やめてええぇぇっっ!!」
「とあー」
「終死!!」
……おしまい。